資料収集と目録化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 14:26 UTC 版)
チベット学の祖とされるハンガリーの学者ケーレシ・チョマは1820年にチベットに入りチベット語を学び、いくつかのチベット文献を持ち帰った。それらの目録は1942年に出版されて以降、何度か編纂されている。チョマは1836年と1839年にカンギュルの分析を発表した。 カンギュル(英語版)とは「訳された全ての経典」を意味し、テンギュル(英語版)は「訳された全ての論書」を意味する。経典は仏説を意味し、論書は諸師が解説したものを意味する(経典#チベット語訳経典参照)。前者を釈説部、後者を論疏部などとも呼ぶ。カンギュルとテンギュルを合わせたものをチベット大蔵経とも呼ぶ。それに含まれないチベット人諸師撰述文献を蔵外文献とも呼ぶ。それらの総称としてチベット文献という呼称を用いる。 1835年と1841年にロシアのバルト・ドイツ人パヴェル・リヴォヴィチ・シリング・フォン・カンシュタットはおそらくブリヤート寺院からデルゲ版カンギュルとチベット文献を入手し、それらはロシア科学アカデミー東洋古文書研究所(英語版)に収蔵された。1847年にオランダ人ヤコブ・シュミット(英語版)がチベット文献目録を、1854年にカンギュル目録をドイツ語で出版した。1889年、ドイツの外交官マックス・フォン・ブラントが雍和宮の写本カンギュルを入手、それはベルリン州立図書館に収蔵され、1914年にヘルマン・ベック(英語版)がその目録を作成。これは一般にベルリン写本カンギュルと呼ばれる。 1900年、寺本婉雅が北京版カンギュル・テンギュルと蔵外仏教文献を入手、それらは大谷大学図書館に収蔵された。1930年から1932年に『西蔵大蔵経甘殊爾勘同目録』が出版され、続いて仏教学者山口益の監修により総目録とツォンカパ全書などを含む『北京版西蔵大蔵経』が1955年から1961年に鈴木学術財団から影印刊行された。それに先立つ1909年からパルミル・コルディエがフランス国立図書館所蔵の北京版テンギュル目録を出版した。 1902年、ブリヤート人ゴンボジャブ・ツィビコフ(英語版)がラサから、1907年にはブリヤート人バザラ・バラーディンがラブラン・タシキル寺からチベット文献を入手し、それはロシア科学アカデミー東洋古文書研究所に収蔵された。1905年、イギリスの軍人フランシス・ヤングハズバンドがラサで写本カンギュルを入手、それは大英博物館に収蔵され、一般にロンドン写本カンギュルと呼ばれる。 1906年にオーレル・スタインが敦煌文書をイギリスに持ち帰る。それらは大英図書館に所蔵されている。そのチベット文献目録は1962年にルイ・ド・ラ・ヴァレ・プサン(英語版)と榎一雄によって作られた。1908年あるいは1909年にアメリカ人ウィリアム・ウッドヴィル・ロックヒルはデルゲ版カンギュルを入手した。それらは米国議会図書館に所蔵されている。1909年にフランス極東学院のポール・ペリオが敦煌文書をフランスに持ち帰る。それらはフランス国立図書館に所蔵されている。そのチベット文献目録は1939年からマルセル・ラルーによって三分冊で出版された。 1903年と1915年の二度にわたり河口慧海は日本にデルゲ、ナルタン、チョーネ版カンギュル、写本カンギュル、ナルタン版テンギュルと蔵外仏教文献をもたらした。これらは東洋文庫に収蔵され、東京写本カンギュルなどと呼ばれる。1915年にセルゲイ・オルデンブルクが敦煌文書を持ち帰り、それはロシア科学アカデミー東洋古文書研究所に収蔵された。1916年に青木文教は蔵外仏教文献をもたらした。これらは国立民族学博物館などに収蔵された。1923年、多田等観は日本にデルゲ版カンギュル・テンギュルと蔵外文献をもたらした。それらは東北大学に所蔵され、1934年に多田は羽田野伯猷などとともにデルゲ版カンギュル・テンギュルの目録『西蔵大蔵経総目録』を刊行、1953年に蔵外仏教文献目録を出版した。これらは東北目録として高い評価を得た。 1927年から1948年まで8度チベット・ラダックに入ったイタリア人のジュゼッペ・トゥッチは選びぬかれた膨大な文献と文革による破壊前の貴重な図像をもたらした。それらはイタリア中東極東研究所(イタリア語版) (IsMEO) に収蔵され、1994年と2003年にその目録が出版された。1959年にハンガリー人のヨセフ・コマスはチベットのデルゲでデルゲ版カンギュル・テンギュルと蔵外文献を入手した。それらはプラハの東洋研究所チベット図書館に収蔵され1971年に目録が出版された。 以上がオリエンタリズム時代の主な資料収集である。
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