薬用植物の有効な働きについての調査・研究と再評価
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/05 00:12 UTC 版)
「薬草」の記事における「薬用植物の有効な働きについての調査・研究と再評価」の解説
「漢方薬#作用機序」も参照 ここ数十年ほど、次第に多くの医師が西洋医学の諸問題を自覚するようになり、東洋医学の再評価が進んでいる。 近年の大学・研究所、その他一般の医師による東洋医学の基礎的研究や臨床治験の成績は、質量ともに目覚ましい展開を見せており、東洋医学の有用性を、西洋医学的な見地から見ても裏付ける形となっている。報告のスタイルとしては、「西洋医学での病名に対する漢方方剤の通用」というスタイルの治験報告が多く、その成績は推計学的に有意の差をもって有効性を示すものが多い。基礎医学的研究も、漢方薬の有用性を現代医学的に裏付ける結果を示すものが多い。年々、こういった報告は増えており、すべてに目を通すことが困難なほどに多くなっているという。 例を挙げればきりが無いわけであるが、いくつか例を挙げるとすると、例えば、漢方製剤の牛車腎気丸は、痺れを中心とする糖尿病性神経障害の症状に有用であり、メコバラミンとの比較試験においても、痺れに対しては、メコバラミンより有意に改善率が大である事実は明らかになっている。当初は有効性のメカニズムの詳細が明らかではなかったが、その後、牛車腎気丸にアルドース還元酵素阻害作用がある事実が、女屋らによって発見されている。また、牛車腎気丸に、皮膚温上昇、血流改善作用があることや、血中過酸化脂質低下作用のあることも医学研究者らによって報告・指摘されており、骨粗鬆症にも有効であるとの客観的臨床成績が報告されている。牛車腎気丸の西洋医学的な薬理作用も解明されるに至っている。 肝硬変患者に小柴胡湯を投与することで、肝癌を予防できることも実際に確かめられている。小柴胡湯は潜在期の小さい癌をやっつける作用があると考えられているのである。 東洋医学や漢方を、西洋の科学的な視点で再分析・再評価することを望んでいる医師もいる(もっとも、患者の治療や健康という医療の大目的を後回しにして、何が何でも医学的知識を獲得することを最重要視してしまうことに危惧を抱く医師も多い)。ただ、いずれにせよ、このような活動においては、世界的に見ておそらく日本がイニシアティブを取ってゆくことになろう、とも見なされている。 ただし、漢方方剤というのは、漢方医学の体系をしっかりと理解して、初めて上手く、適切に使いこなせるものである。 漢方の復権とともに、漢方薬が使用されることは非常に多くなったが、それに伴い、若干の問題が生じている。漢方の知識が足りない医師の中に、漢方薬を西洋医学的発想で使ってしまう者がいるのだという。例えば、「気管支喘息に小青龍湯」「下痢に真武湯」といった考え方をして、まず西洋医学における疾患名を決めてしまって、手引書からそれに相当する漢方処方を恣意的に選択して、これを使ってしまう医師がいるのだという。結果として多剤投与となり、「このようなことは決して望ましいことではない」と大塚恭男は述べている。 薬用植物の有効性について、一般の人が気をつけなければならない点をひとつ指摘するならば、「薬用植物であれば、何でも身体に良いのだろう」だとか、「薬用植物であれば、どんな使い方をしても身体によいのだろう」などと単純化して捉えてしまう人が一部にいるようだが、そのように考えることは間違っている、と医師らからは しばしば指摘されている。医療には必ず適応というものがあり、これを見誤れば、効果が期待できなかったり、患者の健康に不利に働くことすらある。薬用植物であっても、用い方を誤れば、(化学薬と同様に)健康に害をもたらす可能性がある、いわゆる"副作用"はあるといえるのである。 つまり、生薬が健康に良い、というのは、あくまで、中医学や漢方医学などの歴史に裏付けられた伝統医学の病理観(患者の心身を全人的に把握する方法)を学び体得し、薬用植物の人間の心身への作用の仕方を体得している専門家が、適切な処方を選択してくれているから、薬用植物が安全に有効に効いている、ということなのである。「東洋医学では、生体を全体として機能する有機体として捉え、患者の訴える多彩な愁訴も個々別々のものではなく、すべてが関連を持ったひとつのネットワークと考え、一人の患者のひとつの状態に対して、もっとも適切と思われる一剤を与えるのが原則であり、またそれが可能である」と大塚恭男は述べている。 ただし、素人が家庭で使える薬用植物・用法を挙げている本もある。
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