細胞膜外構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/17 14:43 UTC 版)
細胞膜の外周には細胞壁がある。細菌の細胞壁はペプチドグリカン(ムレイン)でできており、D-アミノ酸を含むペプチドによって架橋された多糖鎖から作られている。これは、細胞壁が主にセルロースからできている植物や、キチンでできている菌類とは異なる特徴である。また、ペプチドグリカンを含まない古細菌の細胞壁とも異なる特徴である。細胞壁は多くの細菌にとって生存に不可欠である。抗生物質の一種であるペニシリン(ペニシリウムと呼ばれる真菌によって産生される)は、ペプチドグリカンの合成段階を阻害することによって細菌を殺すことができる。 細菌は、細胞壁がグラム染色で染色されるタイプとされないタイプの2種類に大きく分類することができる。それぞれのタイプの細菌グループは、グラム陽性菌とグラム陰性菌と呼ばれ、この特徴は細菌種を分類するために利用されている。 グラム陽性菌は、ペプチドグリカンとタイコ酸から成る層を複数含む、厚い細胞壁を持っている。対照的にグラム陰性菌は、リポ多糖とリポタンパク質を含む2番めの脂質膜(外膜)と内膜とも呼ばれる細胞質膜の間に囲まれたペリプラズム(空間)と呼ばれる間隙に、数層の薄いペプチドグリカンを持つ。大半の細菌はグラム陰性であり、ファーミキューテスと放線菌(以前はそれぞれ低GCグラム陽性細菌と高GCグラム陽性細菌と呼ばれていた)のみがグラム陽性細菌である。細胞壁の構造の違いにより、抗生物質感受性に違いが出ることが知られている。たとえばバンコマイシンはグラム陽性菌のみを殺すことができ、インフルエンザ菌や緑膿菌などのグラム陰性病原菌に対しては効果がない。また、一部の細菌は、古典的なグラム陽性菌でもグラム陰性菌でもない細胞壁構造を持っている。これには、グラム陽性菌のように厚いペプチドグリカン細胞壁を持ち、同時に脂質からなる2番目の外層も持つ、マイコバクテリアなどの臨床的に重要な細菌が含まれている。 多くの細菌では、堅く配列されたタンパク質分子のS層が細胞の外側を覆っている。この層は、細胞表面を化学的および物理的に保護し、高分子の拡散バリアとして機能している。S層は多様な機能を持ち、例えばカンピロバクターでは病原性因子として作用し、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)では表面酵素を含んでいることが知られている。 べん毛は堅いタンパク質構造で、直径は約20ナノメートル、最大20マイクロメートルになる。細菌の運動(遊泳)に使用される。フラジェリンというタンパク質が重合したべん毛はらせん状の繊維であり、細胞膜を横切る電気化学的勾配に沿って引き起こされるイオンの移動(水素イオン濃度勾配やナトリウムイオン濃度勾配)に伴うエネルギーによって駆動される。古細菌のべん毛と見た目は酷似するが、その起源と構造は異なると考えられている[要出典]。 鞭毛よりも小型の繊維構造として、線毛がある。線毛(「付着線毛」と呼ばれることもある)は、ピリンというタンパク質が主要構成分の細いフィラメントで、通常は直径2〜10ナノメートル、長さは最大数マイクロメートル程度である。それらは細胞の表面全体に分布しており、電子顕微鏡で見ると細い毛のように見える。線毛は、固体表面または他の細胞への付着に関与していると考えられており、いくつかの細菌性病原体の病原性に不可欠である。細胞から突起している、繊毛よりも若干大きいような線毛は、細胞接合を通じて細胞間で遺伝物質を転送することができるような繊毛である。これは共役線毛又は性線毛と呼ばれる。また、タイプIV線毛と呼ばれる繊毛では、細胞の運動性を作り出すこともできる。 グリコカリックスは多くの細菌で見られ、細胞を取り囲むように生成される。構造化されていない無秩序な粘液層による細胞外高分子物質から、高度に構造化された莢膜まで、多様な複雑さの構造が見られる。これらの構造は、マクロファージ(ヒト免疫系の一部)などの真核細胞による飲み込みから細胞の保護に役立つ。それらはまた、抗原として作用し、細胞認識に関与するだけでなく、表面への付着やバイオフィルム形成に寄与する。 このような細胞外構造の形成には、分泌システムが大きく関係している。分泌システムはタンパク質を細胞質からペリプラズムまたは細胞周辺の環境に移動させる機能を持つ。多くの種類の分泌システムが知られており、これらの構造は病原体の病原性に不可欠であることが多いため、集中的に研究されている。
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