古細菌の細胞壁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/02 04:37 UTC 版)
古細菌の細胞壁は植物や細菌のものと極めて性状が異なっており、3ドメインを裏付ける証拠のひとつとなっている。細胞表層構造物質は多岐にわたっているが、主な細胞壁はS層である(80%)。次いでシュードムレインが多い(10%)。 S層のみ:タウム古細菌及びクレン古細菌の殆ど全て、ユーリ古細菌のうちメタノコックス綱、アルカエオグロブス綱、テルモコックス綱、メタノミクロビウム綱、Picrophilusなど。 S層(糖たんぱく質):ハロバクテリウム綱 シュードムレイン:メタノバクテリウム綱 シュードムレイン+S層:Methanothermus、Methanopyrus kandleri S層+メタノコンドロイチン:Methanosarcina S層+シース:Methanospirillus、Methanosaeta 外膜(外細胞膜):Ignicoccus、Methanomassiliicoccus luminyensis ヘテロ多糖:Halococcus グルタミニルグリカン:Natronococcus 細胞壁を持たないもの:Thermoplasma及びFerroplasma、Cuniculiplasma、Acidiplasmaの全種、Thermococcusの一部菌種、Thermogymnomonas acidicola S層 ほとんどの古細菌の細胞壁はS層(S-レイヤー)そのものが細胞壁になっている。S層の構成成分は糖タンパク質あるいは単純タンパク質である。熱に対して極めて高い安定性を示すが、浸透圧に対しては極めて感受性が高く、多くのS層は純水で菌体を洗浄すると細胞壁の構造が解ける。 S-レイヤーは1本のペプチドの先から4本のペプチドが放射状に出ている立体構造を示しており、それらの放射状のペプチドが隣り合うS-レイヤーのペプチドと結合し、縦横の構造的安定性を高めている。軸となるペプチドは細胞膜と結合している。放射状のペプチドの下部は擬似ペリプラズム空間を形成しており、細菌と同様プロテアーゼなどいくつかの栄養分の細胞内輸送に関する酵素が見られる。 シュードムレイン シュードムレインはグリカン鎖およびペプチドの化合物という点でペプチドグリカンの一種であるが、細菌の有するムレインとは以下の点で異なっている。 グリカン鎖N-アセチルグルコサミンおよびl-タロサミニュロン酸がβ(1→3)結合したものからなる(ムレインではN-アセチルムラミン酸がβ(1→4)結合している)。 グルコサミンの全てあるいは一部がガラクトサミンになっている。 ペプチドd-アミノ酸を有しない(主なアミノ酸としてグルタミン酸、アラニン、リシン、全てl型)。 l-タロサミニュロン酸のカルボキシル基とアミド結合している点はムレインと同じ。 ペプチドとグリカン鎖の結合様式も似ているため、ムレインと同じ網目状構造を取る。厚さは15~20nm程度である。またムレインと生合成系が異なるため、細胞壁生合成系に作用する抗生物質ペニシリン、d-シクロセリン、バンコマイシン等に抵抗性を示す。
※この「古細菌の細胞壁」の解説は、「細胞壁」の解説の一部です。
「古細菌の細胞壁」を含む「細胞壁」の記事については、「細胞壁」の概要を参照ください。
- 古細菌の細胞壁のページへのリンク