現在の戦車戦術
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/03 03:21 UTC 版)
戦車はほぼ単独行動を取らない。通常、最小の部隊編成は戦車4または5両からなる小隊である。アメリカ陸軍または海兵隊において、小隊は士官に率いられ、中隊を構成する。小隊の各戦車は相互に支援を与えあって働く。2両が前進するならば、その間、他の車両は援護する。その後に停車して援護を行い、残った車両は前進する。 通常、複数の小隊は機械化歩兵と協働し、敵前線の弱点を突破するために、彼らの機動性と火力を利用する。この役割には強力なエンジン、走行装置と砲塔が役立つ。砲塔を全周旋回させられる機能は、小隊内及び小隊同士での連携した行動を可能とする。複数方向からの攻撃に対抗し、防御する間、部隊と車輌は停止や徐行を行うことなく交戦する。 守勢にあるとき、これらの部隊は配置された場所で待つか、遮蔽物としてどんな自然の地形、例えば小さな丘でも利用する。丘の頂上のすぐ後ろに位置する戦車は、砲塔の最上部および主砲とセンサー群だけを敵に曝すこととなる。これは「ハル・ダウン」と呼ばれ、丘の向こう側の敵と交戦できている間、最も直撃の可能性が小さい目標となる。最新の運動エネルギー(KE)弾はほぼ水平な弾道を描くことから、戦車は通常、水平位置より下へと主砲を下向けることができるようになっている。こうした構造なしには、車輌はこのような遮蔽された位置を取ることができない。しかし丘の頂上に戦車が達すると、即座にこの車輌は薄い床面の装甲を敵の兵器に曝すことになりうる。 戦車の全周に配置される装甲は均一の厚みではない。典型として、前面装甲は側面や後面よりも厚く配される。そこで通常は、常に敵に正面を向けることが行われ、戦車が退却するときも、向きを反転させるかわりに、後退が用いられる。後退して敵から離れるのは、彼らのほうへ進むより安全である。戦車が前進して丘の隆起を越え、前面装甲を空中へ突き出すと、底面の薄い装甲が曝される。また、主砲の俯角の限界を超えることで、目標を捉えられなくなる。 戦車の履帯、転輪、また緩衝装置は装甲された車体の外部にあり、いくつかある弱点の中で最も弱い箇所である。戦車を無力化する最も簡単な方法として、履帯を損傷させて機動力を奪うこと、外部を観測する機材に障害を与えて、搭乗員が外を観察できなくすることがあげられる。戦車が故障を起こせば、撃破するのはたやすくなる。サイドスカートが重要な部分となる理由は、この部分が重機関銃の威力を弱め、また成形炸薬弾の信管を発火させて走行装置に直撃できなくするためである。他、戦車の典型的な弱点としては、吸気口やラジエーターの配置される機関室上面、砲塔と車体を接続する箇所であるターレットリングがあげられる。 防御的に用いられるとき、戦車はしばしば壕の中に置かれるか、また防御力向上のために土手や堤の後に配置される。戦車は自らの防御箇所から2、3発の砲弾を発射でき、それからまた、壕や堤の後ろにあらかじめ備えておいた別の配置へと後退する。こうした防衛箇所は戦車の乗員にも作られるが、もし工兵とブルドーザーを準備できれば、彼らが設営した方がより良く、早い。頭上の防御物については、かなり薄いものであるにせよ有効でありうる。これは砲兵の放つ砲弾を過早に撃発させる助けとなり、上面装甲が最も薄い戦車にとり、相当に致命的な上面への直撃を避けられる。戦車の搭乗員は、できる限り彼らの車輌の防御力を増す、数多くの方法を探そうとする。 戦車は通常、砲弾を装填した状態で戦闘に入る。これは敵と遭遇した際の反応時間を最短にする。アメリカ軍の戦闘教義ではこの砲弾を徹甲弾としている。敵戦車と遭遇したときに先制の砲撃を加え、また可能であれば先制して撃破するには、反応時間は最重要である。もし兵員や軽車輌に遭遇した際には、理想的ではないにせよ、普通の対応として装填済みの徹甲弾が放たれる。薬室に装填済みの砲弾を抜弾することは、困難で時間を使う作業である。この状況では徹甲弾を発砲した後に対戦車榴弾が装填され、戦闘が続行される。 市街戦での戦車は、壁を崩し、中量級から重量級の機関銃を多方向に同時発射できる能力を持つことから決定的存在でありえる。しかし、戦車は市街戦で特に弱体化する。敵歩兵にとり、戦車の後背から奇襲することがより容易くなり、または側面から攻撃できやすくなる。これらの箇所は戦車の弱点である。加えて、高層建築物から撃ち下ろせば薄い砲塔上面を射撃でき、火炎瓶のような初歩的な兵器でさえそれが可能である。もし機関室上面の空気吸入口を狙えば、戦車は無力化される。このような限界に加え、友軍兵力または市民が近くに居る可能性のある場所では、戦車の火力が有効に発揮できず、市街の制圧に用いることが難しい。
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