現代のSF(ニューウェーブ以降)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/10 23:24 UTC 版)
「スペキュレイティブ・フィクションにおけるLGBT」の記事における「現代のSF(ニューウェーブ以降)」の解説
同性愛者は最近になってやっとSF界で異質なものではなくなった。実際、我々は「代替の性別」を描くストーリーのちょっとした出版ブームも経験した。それにもかかわらず、登場人物がストーリー内で異質であるように、我々も世界の中で異質であり続ける。 Wendy Pearson, Science Fiction Studies. 1960年代と70年代における境界拡張の後、同性愛はさらに広く受け入れられ、普通のSFのストーリー内でほとんどコメントなしに取り入れられることが多くなった。これは、デイヴィッド・ジェロルド(英語版)、ジェフ・ライマン、ニコラ・グリフィス、メリッサ・スコット(英語版)といった同性愛者であることを公表する作家が増えたことでも助けられた。1980年代になると、あからさまなホモフォビアは多くの読者に受け入れられるものではなくなった。しかし、非現実的なレズビアンの描写は、ジャンル作品中の快い刺激として使われ続けている。1990年代になると、代替の性を描くストーリーが再び流行した。 1980年代中ごろに生まれたサイバーパンクは、大部分が異性愛主義的で男性至上主義的だと見られているが、一部評論家によりフェミニストおよび「クィア」の観点からの解釈が討論されている。レズビアン作家のメリッサ・スコットはLGBTの登場人物を取り入れたサイバーパンク作品をいくつか書いており、ラムダ文学賞を受賞した Trouble and Her Friends (1994) と Shadow Man (1995) などがある。後者は Gaylactic Spectrum Hall of Fame に入っている。評者はスコットの作品を、サイバーパンクの道具立てと政治的テーマを混ぜるには「あまりにも同性愛的」だと評した。スコットの他のSF作品にもLGBTのテーマが含まれている。彼女はSFを使って同性愛のテーマについて書いているのだと語っており、その理由としてSFというジャンルによってLGBTの人々の扱いが現実世界と異なる状況を設定でき、読者が差別的習慣を告発されたように感じずに距離を置いてそのテーマを考察できるからだとしている。 1983年に Eric Garber と Lyn Paleo が編集した Uranian Worlds は、LGBTをテーマとするサイエンス・フィクション文学についての権威的な手引書である。同書は1990年以前に出版されたサイエンス・フィクション文学をカバーしており(第2版が1990年に出版されている)、各作品について簡単なレビューと解説がある。 1980年代以降、LGBTをテーマとするサイエンス・フィクションのアンソロジーがいくつか出版されており、その最初の1つが Jeffrey M. Elliot 編集の Kindred Spirits (1984) である。そのようなアンソロジーはLGBTの中でも特定のテーマに集中して編集されており、例えば New Exploits of Lesbians シリーズはファンタジーやホラーにおけるレズビアンの活躍するストーリーばかりを集めている。ニコラ・グリフィスと Stephen Pagel の編集した Bending the Landscape シリーズは全3巻で、巻ごとにそれぞれサイエンス・フィクション、ファンタジー、ホラーの作品を集めている。また、ホラーを集めた Michael Rowe の Queer Fear もある。 ダイアナ・ウィン・ジョーンズの The Tough Guide to Fantasyland にファンタジー用語として gay mages(ゲイの魔法使い)という項目がでてくるほど、ゲイの登場人物は一般化した。マーセデス・ラッキーの作品にもそのような登場人物が見られ、ラムダ文学賞を受賞した《最後の魔法使者》三部作 (1989-91) では主人公たちがゲイで、魔法を使える。彼らの関係が物語の中核であり、架空の国ヴァルデマールが舞台となっている。これを含む《ヴァルデマール年代記》は若い読者に異性愛的でない役割モデルを提供している。 デイヴィッド・ジェロルド(英語版)はゲイであることを公表しているサイエンス・フィクション作家で、LGBTをテーマとする作品をいくつか書いている。The Man Who Folded Himself はタイムトラベル(実際には多世界解釈的なパラレルワールド間の旅行)を通して様々なバージョンの自分自身と愛に陥るというナルシスト的な話で、中には女性版の自分やレズビアン版の自分も登場する(主人公本人はゲイ)。Jumping Off the Planet (2000) にもゲイが登場する。ジェロルドは半自伝的短編 "The Martian Child" (1994) でネビュラ賞を受賞した。ゲイの男性が子どもを養子にする話である。この短編は後に長編化され、映画化 (en) もされたが、映画では主人公がゲイではなくなっており、批判された。 ジェフ・ライマンはLGBTのキャラクターが登場する一連の小説を書いている。The Child Garden (1989) はレズビアンの女性が主人公で、自身の遺伝子操作への抵抗感から未来社会になじめず、しだいに同じように疎外されたレズビアンたちとの関係を深めていく。Lust は、自身の性的空想がなぜか実現してしまうゲイの男の話である。『夢の終わりに…』(1992) にはAIDSのゲイの俳優や虐待によって精神障害を抱える子どもが登場し、『オズの魔法使い』の本や映画で親交を深めて行く。ローカス誌のインタビューでライマンは、ゲイとSFの市場は互換ではないと主張した。「1990年にレッテルを貼られて嫌なのはゲイ作家かSF作家かと聞かれていたら、ゲイと答えていただろう。そんなことをされたら市場で死んだも同然だった。そして『夢の終りに…』が出た… 彼らはそれを書店のゲイコーナーにもって行き、ゲイ雑誌に記事を書かせたが、SFだとは言わなかった。そのとき、サイエンス・フィクション作家であることはゲイ作家であることよりも悪いことなんだと気づいた」 ハリー・ポッターシリーズの脇役であるアルバス・ダンブルドアは後にゲイであることが明かされた。しかし、シリーズ内では全くそれに触れていないため、ちょっとした議論が巻き起こった。
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