学術的な定義を巡って
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 05:25 UTC 版)
大多数の専門家が同意するような明瞭な植物学的な定義は提唱されていない。 たとえば岩波生物学事典の【木本】の項では「茎および根において肥大成長により多量の木部を形成し、その細胞壁の多くが木化して強固になっている植物。草本と対する」としている。ただし、この定義に厳密に従えば木かどうか迷うパパイヤなどはもちろん、ナス、キクなど一般には「草」として扱われる多くの植物が木になってしまう。しかも、これらも種に固有の性質ではない。ナス科、キク科、マメ科、アブラナ科などには、通常は草として生育しているが、条件がそろえば枯れることなく連続的に生長し、軸を肥大・木化させる種もたくさんある。例えば、ナスやトウガラシは温帯では草であるが、熱帯・亜熱帯では明瞭に灌木に分類される性質を示す。 一般的には顕花植物の双子葉植物で木本化するものは樹皮の裏側にある形成層のみが生きており、それの成長に基づき二次成長し肥大するのが木本とされる が、単子葉植物の場合は、成長組織が幹内に拡散しているので、二次成長があっても、樹皮の裏側だけが成長している訳ではない。例えば、ドラセナの一種のリュウケツジュなどは推定3000年の古木があるが、単子葉植物なので、四季の有る場所で育てても年輪は出来ない。また、双子葉植物のバオバブは気温が常に暖かい場所に自生するが、雨季と乾季の成長差で年輪が出来る報告がある。 一方で明瞭な茎の肥大が認められないモウソウチク、ココヤシなどは、その地上部は強固かつ10mを超える「高木」になるが、木には分類されない。葉が合わさってできた偽茎が幹の代りになり、丈が高くなるバナナや、根が茎を補強することにより高くなるヘゴなども10メートル近くの「大木」になり、成長に従って「幹」が太くなるが、これらは木には分類されない。造園界樹木学上では「特種樹」として扱われている。 他によくされる議論としては以下のようなものがある。年輪ができる植物を木(木本類)、できない植物を草(草本(そうほん)類)と定義する。ところが、「パパイアの木」には年輪ができないので、「草」に分類される。ただし、年輪は、季節による寒暖の変化や、乾燥・湿潤の変化により組織の生長スピードが変化した結果生じるから、明らかに木であっても、連続的に生長する条件(熱帯雨林のように、1年を通じて寒暖などが変化しない環境で生長した場合など)では、年輪はできないか、非常に不明瞭なものとなる。 さらに別の見解として、木とは非常に厚くなった細胞質を持つ死んだ細胞により生体が支持されている植物である、とするものがある。細胞が非常に厚い細胞壁を発達させ、死んで生体の支持に使われるようになることを木化、あるいは木質化という。具体的にいうと、いわゆる木材は、主として道管から成り立っているが、この道管は細胞壁が厚くなって、最後には細胞そのものは死んで、残った細胞壁がパイプの形で水をくみ上げる仕事を続けるものである。そのような部分をもつ植物が樹木だ、という判断である。上述の竹やココヤシなどは、これによれば木と見なされる。 しかし、現実にはほとんどの維管束植物で道管や仮導管の細胞壁は二次壁により肥大するため(つまり程度もの)、なにをもって「非常に厚い細胞壁」とするかは完全に恣意となり、厳密に適用すればほぼ全てが木に分類されてしまう。 上田弘一郎京大名誉教授(世界の竹博士)は『竹は木のようで木でなく、草のようで草でなく、竹は竹だ!』と力説していた。つまり、この発言も示すように専門家でも維管束植物を木か草に2分類するような定義は策定・同意しかねるものである。
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