大陸哲学と言語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/06 20:04 UTC 版)
大陸哲学では分析哲学と違い言語が独立した一分野としては研究されていない。むしろ、言語は思想の他の多くの領域、例えば現象学、記号学、解釈学、ハイデッガー存在論、実存主義、構造主義、脱構築、批判理論などと分かちがたいものとされる。言語の思想は論理学の思想としばしば結びつけて考えられる。ここでいう論理学とはギリシア語のロゴス、談話や対話の意味である。また、言語と概念は歴史と政治によって、さらには歴史的な哲学そのものによって形成されてきたとみなされてもいる。 解釈学の分野は、そして一般的に解釈の理論は、ハイデッガーに始まる存在論と言語の20世紀大陸哲学において重要な役割を演じてきた。ハイデッガーはヴィルヘルム・ディルタイの解釈学を現象学と統合している。言語は「現存在」にとって最も重要な概念の一つだとハイデッガーは信じていた。「言語は存在の家であり、存在が言語を所有し、存在が言語に染み渡っている。」 しかし、重要な言葉の濫用により今日の言語は摩耗しており、存在(「Sein」)の徹底的な探求には堪えないとハイデッガーは考えていた。例えば、「Sein」(「存在」)という言葉自体は複数の意味をもつ。それゆえ、彼は一般的に使われている言葉と区別するために古代ギリシアとドイツの語源学的関係に基づいて新しい語彙・文体を生み出した。彼は意識、エゴ、人間、自然等々の言葉の使用を避けて代わりに「世界内存在」や「現存在」を総体として語った。 「世界内存在」という新しい概念と共に、ハイデッガーは音声による意思疎通に焦点を当てた独自の言語理論を打ち立てた。音声(発話、聴取、沈黙)は言語の最も本質的で純粋な形式だと彼は考えた。読者も読んでいる間人の独自の「発話」を構築するのだから書記は音声の補足にすぎないとハイデッガーは主張した。言語の最も重要な特性はその「射影性」、つまり言語は人間の発話に先立つということである。これはつまり、世界に投げ込まれたものの存在は世界の明らかな事前理解による始まりから特徴づけられるということである。しかし、名づけ、つまり「明瞭な発音」のみが「現存在」や「世界内存在」を一次的に参照できる。 ハンス・ゲオルク・ガダマーはハイデッガーの思想を発展させて完成された解釈学的存在論を提示した。『真理と方法』において、ガーダマーは言語を「本質的な理解と承認が二人の人の間で起こるための媒体」であるとした。また、世界は言語によって構成されており、言語を離れては存在できないとガーダマーは主張した。例えば、言語の助けなしには記念碑や彫像は自身の持つ意味を伝達できない。世界の言語的本性は個々の物を対象的環境から解放するので、全ての言語は一つの世界観を構成するともガーダマーは主張している: 「[…]私たちが完全に[言語]に依存した世界を持っていてその中にそれ自体を現前させているという事実。世界としての世界は世界の他の生物のためとしてではなく人のために存在する。」 一方ポール・リクールは解釈学(仏:Herméneutique)をギリシア語における言葉の本来の意味と再連結した形で提示し、日常言語の曖昧な言葉(あるいは「象徴」)の中の隠れた意味を発見することを重視した、この流れに属する哲学者にはほかにルイジ・パレイゾンとジャック・デリダがいる。 記号学は一般的に記号や象徴による情報伝達、反応、意味を研究する。この分野では、(自然にしろ人工にしろ)人間の言語は人間(や他の知的生命体)が情報伝達するのに使える多くの手段のうちの一つにすぎないとされる。この考えをとることにより、自分たちのために意味を作り他者に意味を伝達するために利点を得て外的世界を効率的に操作できるようになる。あらゆる対象、あらゆる人、あらゆる出来事そしてあらゆる力が情報伝達(あるいは「表現」)し続けている。例えば電話が鳴るのは電話「である」。地平線上に煙が立つのを見たらそれは火事をあらわす記号である。煙は表現している。この観点では世の中に存在する物事は人間がそうするのと同様にそれらを解釈することだけを求めている知的存在にとって正確に符号を貼られているように思われる。全ての物は意味である。しかしながら人間の言語の使用を含む真の情報伝達は受け手に対して何らかの信号において「メッセージ」つまり「文書」を送る者(「送り手」)を要求している。言語はこういった情報伝達形式(の中でも最も洗練された形式)の一つである限りで研究される。記号学の歴史の中で重要な人物としてチャールズ・サンダース・パース、ロラン・バルト、ロマーン・ヤーコブソンがいる。近代においてはそのもっともよく知られた人物としてウンベルト・エーコ、アルジルダス・ジュリアン グレマス(英語版)、ルイス・イェルムスレウ、トゥッリオ・デ・マウロがいる。人間以外の情報伝達における記号の研究は生物記号学の主題である。生物記号学は20世紀後半にセボーク・トマスとトゥーレ・フォン・ユフクエルによって創始された。
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