大晦日
★1.大晦日は、神・鬼・霊など超自然的存在と出会う時。または死と再生の時。
『今昔物語集』巻16-32 12月晦日の夜更け、1人の生侍が一条堀川の橋を渡る時、百鬼夜行に出会う→〔唾〕1c。
『今昔物語集』巻24-13 地神(=土公神)に追われた陰陽師と大納言が隠れていると、「決して逃がさぬ。来たる12月晦の夜半に集まり、あらゆる所を探せ」と鬼神たちに命ずる声が聞こえる。大晦日の夜、陰陽師と大納言は嵯峨寺の堂の天井に上がって呪文を唱え、難を逃れる。
『日本霊異記』上-12 僧・道登の従者万呂が、奈良山で人や獣に踏まれている髑髏を拾い上げ、木の上に置く。その年の大晦日の夕刻に、1人の男が万呂のもとを訪れる。男は「自分は兄に殺されたのだ」と告げ、「恩返しをする」と言って、万呂を或る家へ連れて行き、飲食を饗する。そこへ男の霊を拝するために母と兄が来て、兄の悪事が露顕する〔*同・下-27の類話では伯父が甥を殺す〕。
『マッチ売りの少女』(アンデルセン) 雪の大晦日、少女がマッチを売り歩くが、誰も買ってくれぬまま、夜になる。往来の2軒の家の間に少女はうずくまり、こごえた指先を暖めようと、マッチをする。マッチの光の中に、おいしそうなご馳走やきれいなクリスマスツリーが浮かぶ。祖母の霊が現れ、少女を腕に抱き上げ、天に昇って行く。新年の朝、街の人々は、マッチを持った少女の死体を見る。
*→〔兄弟〕1の『海の水はなぜからい(塩挽き臼)』(昔話)。
『「年(ねん)」という獣』(中国の昔話) 毎年大晦日に「年」という獣がやって来るので、村人たちは山へ避難した。ある年の大晦日、乞食の老人が村はずれの一軒家の戸口に赤い紙を貼り、赤い着物を着て、「年」を待ちうける。老人は、両手に持った2本の包丁を叩きつけて絶え間なく音を立てた。「年」は赤い色と包丁の音を恐れ、逃げて行った。それ以来、大晦日には皆、戸口に赤い紙を貼り、赤い着物を着て、包丁で大きな音を立てて餃子を作るようになった(天津市)。
『妖怪談義』(柳田国男)「妖怪名彙(カネノカミノヒ)」 伊予(愛媛県)の怒和(ぬわ)島では、大晦日の夜更けに、氏神様の後ろに提灯のような火が下り、わめくような声が聞こえることがある。老人はこれを、「歳徳神が来られるのだ」と言う。肥後(熊本県)の天草島では、大晦日の真夜中に、「金ン主」という怪物が出る。これと力くらべをして勝てば大金持ちになる。武士の姿をして現れる、ともいわれる。
★3.大晦日は、祝祭の時である。
『こうもり』(J.シュトラウス2世) 裕福な銀行家アイゼンシュタインは、役人を侮辱した微罪で、明日から数日間、収監されることになった。友人のファルケ博士が訪れ、「刑務所に入る前に、夜会へ行って楽しいひと時を過ごそう」と誘う。アイゼンシュタインは、オルロフスキー公爵邸の舞踏会に出かけ、陽気に歌い、仮面の貴婦人を口説く(*→〔面〕7)。物語は、大晦日の夜から翌朝にかけての出来事として設定されるばあいがあり、そのため『こうもり』は、年末年始に上演されることが多い。
『大つごもり』(樋口一葉) 下女お峰は、病気の伯父の年越しに必要な2円の金を貸してくれるよう、主家の御新造に請うが、断られる。お峰はやむなく、大晦日に、主家の懸け硯の引出しにある20円の札束から、2円を抜き取る。その後で、主家の腹違いの道楽息子石之助が、引出しの中の金をすべて持ち出し借用書を残して去ったため、お峰の盗みは知られずにすむ。
『世間胸算用』(井原西鶴)巻2-4「門柱も皆かりの世」 大晦日の1日、人々は、包丁を研いで自殺をほのめかしたり、離婚沙汰の夫婦喧嘩を見せたりして、押しかけてきた借金取りたちを驚かせ、追い返すのだった〔*この話をはじめ『世間胸算用』5巻全20話は、すべて大晦日の経済活動に関わる物語である〕。
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