大嶺炭田の炭層とその特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 03:11 UTC 版)
「大嶺炭田」の記事における「大嶺炭田の炭層とその特徴」の解説
大嶺炭田は三畳紀に形成された厚保層群と美祢層群に炭層が分布しているが、主要炭層は全て美祢層群内にある。厚保層群は大嶺炭田の南東部、美祢線南大嶺駅の南方に美祢線を挟むように分布し、下層の本郷層と上層の熊倉層に二分される。うち、石炭層があるのは熊倉層であるが炭質は粗悪で、これまでほとんど石炭としては採掘されたことがない。しかし花崗岩体による熱変成を受けたためと考えられているが、熊倉層西部の花崗岩体周辺の無煙炭は土状黒鉛となっており、終戦後一時期黒鉛を採掘したものの、1949年(昭和24年)頃までに採掘が中止された。 美祢層群は北東から南西方向に向斜軸を持つ向斜構造をしており、地層の走向もおおよそ北東から南西方向である。層位は下位から平原層、桃木層、麻生層の3層に分けられている。それぞれの層に石炭層が分布しているが、大嶺炭田の主要石炭層は桃木層に集中している。平原層は炭田の南東部を中心として分布しており、層厚は北部は約350メートルであるのに対して南部では約1000メートルに達する。平原層は主に汽水性の堆積物と考えられる礫岩、砂岩、泥岩によって形成されており、その中に4層の石炭層が挟まっている。中でも平原層最下部には稗田層と呼ばれる3層の石炭層があり、炭層の発達が悪い地域では稼行対象とはなりえないものの、大嶺炭田南東部の旧大嶺駅南方の滝口付近では炭層がよく発達しており、滝口炭鉱、西嶺炭鉱が採掘対象としたが、カロリーが低い低質炭であった。これは石炭のもととなる植物の遺骸が堆積した際の条件が悪かったか、または地殻変動の影響によって炭質が悪化したものと考えられている。 桃木層は下層の平原層とは軽微な不整合で乗った形となっており、層厚約1600メートルである、下部から下部層、桃木層主部、猪ノ木夾炭層の3層で構成されており、大嶺炭田の主力炭層が含まれている。 桃木層の炭層で最下部にあるのが麦川層である。麦川層は3〜8層の炭層で構成されており、大嶺炭田南部では炭田開発初期から稼行対象となり、炭田北部の竜現地炭鉱でも採掘されたものの、炭層が不安定である上に平原層の稗田層と同じくカロリーが低い低質炭であった。炭質不良の原因はやはり稗田層と同じく、石炭のもととなる植物の遺骸が堆積した際の条件が悪かったか、または地殻変動の影響によって炭質が悪化したものと考えられている。 麦川層の上部にある炭層である藤河内層は大嶺炭田内に比較的安定した形で広く分布しており、炭田北部では炭層が厚く南部では薄くなる傾向が見られる。塊炭が多くカロリーが高い良質炭であり、榎山炭鉱、大明炭鉱、そして炭田北部の神田無煙炭鉱、美福炭鉱などで採掘された。藤河内層の上部には櫨ケ谷層があるが、全般的に炭層が薄い上に炭層内に頁岩が挟まっているなど採掘条件が悪いため、炭層の発達が比較的良い地域であった榎山炭鉱、大明炭鉱、櫨ケ谷炭鉱などで採掘された。炭質は塊炭が中心である。 藤河内層の上部には最下層、下層という炭層がある。中でも下層は大嶺炭田内に広く分布し、しかも1.5メートルから2メートルという比較的厚い炭層である上にカロリーも高い上質炭であり、大嶺炭田を代表する炭層の一つとされていた。炭質はやや塊炭が多いという特徴があり、炭層上下の地盤が固いため採掘が容易という利点があった。 下層の上に分布する上層は大嶺炭田随一とされた良質な炭層であった。炭層は平均3メートルで厚い部分では10メートルに及び、分布範囲も広くカロリーも高い良質炭であった。欠点としては炭質が粉炭中心である上に炭層上部が頁岩層であるため、採掘が他の炭層よりも難しいという問題があったが、採掘技術の革新によって採掘が容易となり増産がなされるようになった。なお粉炭中心という特徴は、大嶺炭田の歴史を通じて練炭としての需要が主であったことを考えると、逆に有利な面もあった。 桃木層最上部にある猪ノ木層は通常2層の炭層からなるが、場所によっては5層にまで分岐する。塊炭質でカロリーが高い上質炭を産し、下層、上層に次ぐ大嶺炭田の主力炭層であった。炭層上下の地盤が固いため水力採炭が行われたことがあり、下層、上層とともに1964年(昭和39年)以降、露天掘りが行われた。 ところで桃木層内の泥岩からは三畳紀に栄えた多くの植物化石や、ハエ、ゴキブリ、トンボ類の多くの昆虫化石が見つかっている。桃木層の多くは地層の特徴から川と氾濫原がある蛇行河川による堆積物であると推定されている。 桃木層の上位に当たる麻生層は美祢層全体の向斜軸周辺に分布しており、三ツ杉砂岩部層、小田夾炭層、三ノ瀬砂岩部層の3層で構成されている。麻生層の主体は浅海で堆積したものと考えられている砂岩層であるが、中に3層の炭層が含まれていて、小田層と呼ばれている。小田層の炭層は大嶺炭田西部の長門無煙炭鉱で採掘されたが、炭質は粉炭約90パーセント、塊炭10パーセントで、桃木層内の大嶺炭田主要炭層から産出される石炭と比較して灰分が多く、カロリーも低く炭質は劣っていた。 上記のように大嶺炭田の炭層は、麦川層以外の美祢層群の桃木層にある炭層が主力であり、産出される石炭は夾雑物が比較的少ない良質な無煙炭であった。桃木層内の主力炭層から採掘された無煙炭は、平均して灰分が20〜30パーセントで1キログラム当たりのカロリーは5000キロカロリー程度であった。一方、稗田層、麦川層は1キログラム当たりのカロリーが4000キロカロリー程度、小田層は3000キロカロリー程度と、主力炭層と比較して炭質が劣っていた。 大嶺炭田の無煙炭の特徴としては粉炭の割合が高く、しかも粉炭の粒度が小さくなるにつれて品位も高くなり、硫黄分が低く、無煙炭としては火付きが良いといった特徴があった。また炭層は東側(大嶺側)は30度前後の傾斜を持ち、西側(豊田前側)は傾斜が40度以上となる。そして各所に断層、褶曲があるため、走向や炭層の厚みに変化が多く一定しないという特徴が見られた。これらの特徴は大嶺炭田における採炭、選炭の手法、そして採掘された無煙炭の利用方法に影響を与えることになる。 大嶺炭田は大きく分けて美祢線於福駅周辺の於福地区と、於福地区より南側の美祢市西部から下関市(旧豊田町)にかけて広がる大嶺・豊田前地区の二地区に大別される。大嶺・豊田前地区が大嶺炭田の主要部であり、於福地区はいわば飛び地に当たる。於福地区には美祢層が分布しているが上部と下部が欠けており、炭層としては麦川層と藤河内層が分布している。また大嶺・豊田前地区の炭層は東側(大嶺側)の方がよく発達しており、西側(豊田前側)は炭層の傾斜が急な上に断層による乱れも大きく、炭田の開発は主として東部の大嶺側から進められることになった。 大嶺炭田の地層、炭層、炭鉱の一覧表炭層名層群地層区分層状稼行炭鉱の層厚稼行炭鉱厚保層群 熊倉層 3層 1メートル 終戦後の一時期、黒鉛を産出 稗田層美祢層群 平原層 3〜4層 3メートル 滝口炭鉱、西嶺炭鉱 麦川層美祢層群 桃木層 3〜8層 1メートル 竜現地炭鉱 藤河内層美祢層群 桃木層 2〜3層 1.5〜2.5メートル 榎山炭鉱、大明炭鉱、神田無煙炭鉱、美福炭鉱 櫨ケ谷層美祢層群 桃木層 1.5メートル 榎山炭鉱、大明炭鉱、櫨ケ谷炭鉱 最下層、下層美祢層群 桃木層 下層は3層で構成されている 1.5〜2メートル 榎山炭鉱、大明炭鉱、山陽無煙炭鉱 上層美祢層群 桃木層 平均3メートル、最も厚い部分で10メートル 榎山炭鉱、大明炭鉱、山陽無煙炭鉱 猪ノ木層美祢層群 桃木層 通常2層、場所によっては5層まで分岐 1.5メートル 榎山炭鉱、山陽無煙炭鉱 小田層美祢層群 麻生層 3層 0.5〜0.8メートル 長門無煙炭鉱
※この「大嶺炭田の炭層とその特徴」の解説は、「大嶺炭田」の解説の一部です。
「大嶺炭田の炭層とその特徴」を含む「大嶺炭田」の記事については、「大嶺炭田」の概要を参照ください。
- 大嶺炭田の炭層とその特徴のページへのリンク