基本組織と組成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/21 15:55 UTC 版)
「オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼」の記事における「基本組織と組成」の解説
オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼とは、金属組織がオーステナイトとフェライトという2つの相から成るステンレス鋼で、二相ステンレス鋼や二相系ステンレス鋼(英語:duplex stainless steel)という名でも呼ばれる。英語名の略称からDSSとも呼ばれる。オーステナイトとフェライトの組み合わせ以外から成る二相組織のステンレス鋼もあるが、ステンレス鋼の二相系としてはフェライト・オーステナイト系が主流であり、二相ステンレス鋼といえば通常はフェライト・オーステナイト系を指す。本記事でも特に断りない限りオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼のことを二相系や二相ステンレス鋼と呼ぶ。 鉄にクロム、モリブデン、チタン、ニオブ、ケイ素などの元素を添加すると、鉄合金組織中にフェライト(δ フェライト)が形成されやすくなる。このような元素を「フェライト形成元素」と呼ぶ。一方、ニッケル、マンガン、銅、炭素、窒素などの添加はオーステナイトを形成しやすくするので、これらの元素を「オーステナイト形成元素」と呼ぶ。フェライト形成元素とオーステナイト形成元素の含有量の割合で、組織中のフェライトの生成量が決まる。 二相系とは、フェライト形成元素とオーステナイト形成元素の量を調整することによって、フェライトとオーステナイトが並存するように造られた鋼種である。フェライトとオーステナイトの存在比率は、具体的な鋼種や熱処理過程によって異なるが、約1対1を狙いとするのが基本である。存在割合が1対1でない場合でも、フェライトの存在割合は多くて約 70 % 程度、少ない場合で約 40 % 程度である。組成からフェライト量割合を予測する線形近似式として PCTf = −20.93 + 4.01 × Creq − 5.6 × Nieq + 0.016 × T Creq = Cr + 1.73 × Si + 0.88 × Mo Nieq = Ni + 24.55 × C + 21.75 × N + 0.4 × Cu がある。ここで、PCTf がフェライト量割合(%)で、Cr, Si, Mo, Ni, C, N, Cu はそれぞれの元素量の重量パーセント濃度、T は1050–1150℃の範囲で与えられる固溶化温度(℃)である。ただし、実際のほとんどの二相系は、フェライト・オーステナイト比率が約1対1になるように造られている。1対1の比率が好まれる理由は、この割合近辺で優れた耐応力腐食割れ性と耐孔食性が得られるためである。 組織中のオーステナイトとフェライトの様相は、それぞれ微細な結晶粒として組織中に分散・混在している。結晶粒サイズはオーステナイト単相(オーステナイト系)およびフェライト単相(フェライト系)の場合よりも微細で、平均結晶粒径が 10 μm 前後ないし数 μm である。オーステナイトとフェライトは組成が異なるため、組織観察時には明暗に差が見られる。組織上のやや暗い部分がフェライトで、明るい部分がオーステナイトである。圧延された場合の組織は、それぞれの結晶粒が圧延方向に引き伸ばされた様相になる。その他、熱履歴によっては、鉄・クロムまたは鉄・クロム・モリブデンの金属化合物から成るσ相やクロム窒化物なども析出して組織中に存在する。 二相系にとって主要な合金元素は、クロム、ニッケル、モリブデン、窒素の4つである。クロムは、ステンレス鋼の耐食性を生み出す不働態被膜の形成元素であり、フェライト形成元素でもある。実際に二相系に添加されるクロム量は、最小 17 % 程度、最大 30 % 程度となっている。ニッケルは、二相系における主要なオーステナイト形成元素である。含有量は最小 3 % 程度、最大 17 % 程度である。モリブデンは、二相系の耐食性を向上させる効果を持ち、フェライト形成元素でもある。ただし、含有量を増やし過ぎると有害な金属化合物の相が生じるため、モリブデンの添加量は最大で 4 % 程度とされる。窒素は、二相系の耐食性と強度を向上させる目的で添加される。窒素は強いオーステナイト形成元素であり、ニッケルを窒素へ部分的に置き換えることができる。ステンレス鋼を主要成分で分類すると、大きく「クロム系ステンレス鋼」と「クロム・ニッケル系ステンレス鋼」に分かれる。二相系はクロムとニッケルを主成分として含むため、クロム・ニッケル系ステンレス鋼に該当する。
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基本組織と組成
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「フェライト系ステンレス鋼」の記事における「基本組織と組成」の解説
フェライト系ステンレス鋼は、その名称のとおり、常温での主な金属組織が体心立方格子構造のフェライト相である鋼である。900 ℃ から 1200 ℃ の高温の状態では、フェライト単一相またはフェライトと少量のオーステナイト相の2相から成る。フェライト系に分類されるものであれば、高温でオーステナイトが現れるものでも焼なましを適切に施すことによってフェライト単相にすることができる。クロム炭化物や窒化物が析出する。組成や熱処理によっては、フェライト系に分類されるものの中でもオーステナイト相やマルテンサイト相を常温でいくらか含むものもある。 ステンレス鋼の耐食性はクロムの含有によって現れる。フェライト系ステンレス鋼の場合、含有されるクロムの量はおよそ 11 % から 32 % 程度まで亘る。クロム含有量 18 %(質量パーセント濃度)がフェライト系の代表的鋼種の含有量である。規格に制定されているものとしてはAISI・ASTMの430やJISのSUS430が代表的鋼種で、18クロムステンレス、18-0ステンレス鋼、18Cr鋼、17Cr系などとも呼ばれる。フェライト系標準鋼種SUS430とそれに等価な鋼種について、各規格で定められた組成を以下の表に示す。 フェライト系標準鋼種の組成例規格材料記号CMnPSSiCrNiISO X6Cr17 0.08以下 1.0以下 0.040以下 0.030以下 1.0以下 16.0–18.0 - EN 1.4016 0.08以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 1.00以下 16.0–18.0 - ASTM 430(S43000) 0.12以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 1.00以下 16.0–18.0 0.75以下 JIS SUS430 0.12以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 0.75以下 16.0–18.0 - 鉄・クロム系2元状態図によると、クロム濃度ゼロ%ではおよそ 900 ℃ から 1400 ℃ の範囲で組織はオーステナイトとなる。クロム濃度がゼロから高まっていくと、オーステナイトが存在する温度域は狭くなっていき、ついにはオーステナイト存在領域は消失して、組織は融点までフェライト単相となる。このオーステナイト(γ 相)の存在領域は、「γ ループ」とよばれる。一般的には、融点までフェライト単相のフェライト系を得るには、クロム濃度約 13 % 以上が必要となる。ただし、炭素と窒素の含有量が増えていくと、γ ループが高クロム濃度の領域まで広がる。例えば、炭素 0.004 %、窒素 0.002 % であればγ ループはクロム 11 % 程度までの広さだが、炭素 0.05 %、窒素 0.025 % であればγ ループはクロム 28 % 程度まで広がる。 炭素および窒素の含有量を 0.03 % 以下のような極低量まで低減してチタンやニオブなどの炭化物安定化元素を添加し、耐食性や加工性を従来のフェライト系ステンレス鋼よりも高めた鋼種を高純度フェライト系ステンレス鋼と呼ぶ。高純度フェライト系ステンレス鋼の場合は、組織は融点までフェライト単相となる。JISでは、SUS444などが高純度フェライト系ステンレス鋼の代表例である。高純度フェライト系ステンレス鋼の一つであるSUS444とそれに等価な鋼種について、各規格で定められた組成を以下の表に示す。 高純度フェライト系鋼種の組成例規格材料記号CMnPSSiCrNiNMoその他ISO X2CrMoTi18-2 0.025以下 1.0以下 0.040以下 0.015以下 1.0以下 17.0–20.0 - 0.025以下 1.80–2.50 Ti・Nb量規定 EN 1.4521 0.025以下 1.00以下 0.040以下 0.015以下 1.00以下 17.0–20.0 - 0.030以下 1.80–2.50 Ti量規定 ASTM 444(S44400) 0.025以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 1.00以下 17.5–19.5 1.00以下 0.035以下 1.75–2.50 Ti・Nb量規定 JIS SUS444 0.025以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 1.00以下 17.0–20.0 - 0.025以下 1.75–2.50 Ti・Nb・Zr量規定
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