動物に付ける鈴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/16 16:58 UTC 版)
牛、放牧している家畜(カウベル) 牛といった家畜に鈴をつけることは古くから世界各国で行われてきた。放牧している牛の場合は音色を頼りに家畜の所在を把握するのに付けられる。牛と同様の目的では羊や山羊などにも付けられる。 馬、ロバなど運輸に使われた動物(馬鈴、駝鈴) 馬の場合は周りに馬の存在を知らしめ通行人に用心を促し駅馬・伝馬などの任務を滞り無く行えるようにする役割がある。馬と同様の目的では驢馬や駱駝等に鈴が取り付けられる。欧米では伝統的に牛馬にはカウベルを一つ首に括り付けている事が多いが、日本では馬に用いる場合トーラス型で外周部に全体を一周する開口部がある馬鈴(ばれい)が用いられる。この鈴は他の鈴に比べ接触による振動減衰が起こりにくい特徴がある。牛馬の中でも橇を輓く目的で用いられる個体には、多数のクロタルベル(英語版)がぶら下げられたスレイベル(ジングルベル)が取り付けられる。 羊 去勢した一頭の牡羊ベルウェザー(英語版)に着けられる。去勢されたことで羊飼いに従順になり、羊飼いの命令で羊を先導するようになる。羊は群れを作る動物なのでリーダーの羊一頭を見つければどこに行こうとしているのか群れの位置が判断できる。このように群れを率いるリーダーとしての姿から、政治やトレンドなどの先導者などをベルウェザーという場合がある。 犬 犬の首輪に鈴を付ける事も、中国では殷代から周代頃には戦車を輓く輓馬の装備品として馬鈴が用いられるのと同時期に既に行われていた。日本では現代でも猟犬向けに作られる青銅鈴が支那鈴(しなすず)の名称で呼ばれているが、これは中国で古代より馬鈴として用いられていた青銅製のクロタルベルを意匠をその儘に小型化したものである。狩猟者達は猟犬に支那鈴を付ける事で、猟犬が山中の何処に居るのか、獲物を追って走っているのか否か、そして猟犬と追われる獲物が自身に対してどの方向から現れうるのかを、鈴の音から判断する事が出来るのである。日本の文献上、犬に鈴をつけた記述は、『古事記』に、雄略天皇の時代(5世紀後半)、志幾の大県主がお詫びの品として献上した白犬に鈴をつけていたとする。 猫 猫に鈴を付ける行為は近代まであまり一般的ではなく、日本では江戸時代から昭和にかけて、主に農家以外で飼い猫の首輪の喉の部分に鈴を一つつけることが行われてきた。現在でも飼い猫用の首輪には鈴がつけられていることが多い。これは、江戸時代以降に日本に広まった西洋のイソップ寓話をもとにした「猫に鈴をつける話」の影響である。ネコは足音をたてずに歩き、己より体の小さい獣ネズミなどを狩る肉食獣である。音もなくやってくるネコに日々追われるネズミたちが相談をして、ネコに鈴をつければよいという案で一致した。しかし、実際に自分がネコに鈴をつけに行こうと申し出るネズミはいなかった。そのため今もネズミはネコに追われているのである、という話である。なお、ネズミがネコに追われる理由の説明として、東洋では十二支と関連づけて説明する別の話がある(「子 (十二支)」を参照)。 日本ではネコはネズミを獲るからこそ飼われてきた。ネズミは収穫した穀物すなわち自然から切り離して完全に人間の所属となったものを食いあらす害獣であり、己より大きな寝ている乳児や弱った病人をかじる動物である。ネコはその逆で、穀物は食べず、己より大きなものは襲わない。それゆえネズミを好んで捕え、寝た子を守る役目をする動物として珍重されてきた。日本ではネズミを除けるために、穀物を貯蔵する高床式倉庫や経典や書類や宝物を収蔵する正倉院にはネズミ返しとよばれる木の板の仕掛けが必ずつけられてきた。寺院では経典や木製の仏具がかじられて破損されるのを防ぐためにネズミ除けとしてネコを飼うことが行われ、日本には仏教文化の伝来とともにネコを飼うことが始まったともいわれるほどである。そうしたネズミの害を減らすために好まれてきたネコの首に鈴をつけるのは、ネズミの害を忘れ西洋的価値観を取り入れた江戸明治大正時代の富裕層や、昭和高度成長期の脱農したサラリーマン家庭の流行であった。 近年は、鈴の音がうるさい、ネコのストレスになるという理由で鈴をつけずにネコを飼うことが一般的である。
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