公益及び公の秩序
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 00:11 UTC 版)
日本国憲法12条・13条・29条は、国民の生命・自由・財産権・幸福追求といった日本国憲法の柱である基本的人権の尊重が保障されている条項であり、この条項の人権制限条件である「公共の福祉」の法解釈に論争があった。 詳細は「公共の福祉」を参照 現在の通説(一元的内在制約説)において、人権相互の矛盾衝突を調整するために認められる衡平の原理のこととされている。この条文が2012年自民党憲法改正草案において「公益及び公の秩序に反しない限り」に差し替えられている事に対する論議。 自民党憲法調査会の趣旨説明としては戦後導入された「個人主義」が(国民に)正しく理解されず利己主義に変じて家族と共同体の破壊につながっているので、そのように変更したい」という説明である。 一方、弁護士9条の会は、自民党草案を(大日本帝国憲法・全体主義国憲法と同じ)『外在制約』型人権条項とみなし、「憲法12条・13条自民党案は、時の為政者により「公益」「公の秩序」と判断された基準により(国民の生命・身体や言論の自由等の基本的)人権の制約することを可能とするものである。」、「自民党12条、13条改正案の文面置き換えは『これが可決されると、政治家が公益・公秩序名目で勝手に国民の人権を制限する事が可能になり、近代民主政の基盤の立憲制が根底から覆りかねない』内容を含んでいる」と主張している。 『公共の福祉』が『公益及び公の秩序』に差し替えられ、微妙な表現に見えるが大きな違いがある。「公共」と訳されてきた元々の英語「public(パブリック)」は、「all people」、つまり「みんな」を指し示すものであるが、日本語の「公(おおやけ)」の原義は「大宅(大きな家)」とされ、人々が集まる場所、そこから管理する長、朝廷を示すようになり、天皇を頂点とした政府権力を指す「おおやけ」が定着した。この経緯からもわかるように「公(おおやけ)」は人民のものでなく権力性を多分に含んだ言葉であった。歴史的に「わたくし」に対する「おおやけ」の権力性の優位が確立し、個人より集団が優先される戦時中の国民精神総動員につながり、現代にも根強い「お上」意識として残った。現代でも周囲に同調せずに自分の意見を主張する人のことを「KY語(空気読まない系)場の空気も参照)と批判するなど同調圧力の強い集団主義的風潮は日本社会に残っている。「公共の福祉」を「公の秩序」に変えることは、「みんなの(public)」という意味を後退させ、「権力性(おおやけ)」という意味を前面に出すことを意味する。それは「公共性」を確保する、という言葉とは裏腹に権力側の都合・利益による自由の制限を許しかねない危うさをはらんでいるという指摘がある 。
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