公的見解と異なる立場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/30 19:40 UTC 版)
「同性愛とカトリック」の記事における「公的見解と異なる立場」の解説
同性愛に対するカトリック教会の公式見解については、叙任された聖職者を含め一般のカトリック信者や神学者などから議論が提起されており、教会の権威的方針に異論を唱えた結果として役職から除かれた者もいる。教会内部にも多くの賛否の議論があるものの、公式の見解は決定的で変更の余地のない権威的教義と見なされているのが実情である。 バチカン市国国務省長官で枢機卿のタルチジオ・ベルトーネが2008年5月19日に発布した Rescriptum ex audientia と呼ばれる文書では、カトリック教会教理省 (Congregation for Catholic Education) が2005年に示した基準が、例外のない普遍的なものであるということが再度強調された。 こうした教会の方針への反論、あるいはカトリック信仰と同性愛の共存の訴えとしては、一連の神学者による議論がよく知られている。後にアメリカカトリック大学 (The Catholic University of America) の職を解かれることとなった元司祭の神学教授チャールズ・カラン (Professor Charles Curran) もこの中の一人である。カランは肉体的な観点から行為の道徳性を判断することは不適当であると主張する。 私は(1970年代には)すでに、2人のゲイ男性もしくはレズビアン女性の関係に、道徳上の正当性を認めていた[…]私は、物質的に見れば間違っているが精神的には罪ではない、という牧師的な理解のしかたは中途半端であると考え、反対した。 カランはまた、カトリック教理省 (Congregation for the Doctrine of the Faith) が、教会の立場に批判的な著述活動を行なう者に対し、発言の抑圧を行なっていると指摘している。これはジョン・マクネイル (John J. McNeill) の著作 The Church and the Homosexual について教会が行なっている批判について述べたものである。 また、カトリック司祭であるジェームズ・アリソン (Dr. James Alison) は、当時枢機卿であったヨーゼフ・ラッツィンガー(後の265代ローマ教皇ベネディクト16世)が「同性愛者についての司牧における配慮」 (On the Pastoral Care of Homosexual Persons) で示した見解は「福音書と整合していない」もので、端的に言えば「事実上教会の教えになり得ないもの」であるとしている。アリソンは以下のように述べている。 この教説はキリストを尊重することと我々自身の感覚の間の障害となるもので、我々をありのままに愛する神への素朴な崇敬を屈折させるものである。我々は、神に愛された者として出発しそれぞれの個への道を歩む。この教えはそれとは裏腹に、神はどこか別の出発点に立った者だけを愛すると説いているのだ。 さらに、ドミニコ会司祭ギャレス・ムーア (Gareth Moore) は、A Question of Truth において、教会は性の問題とその道徳的「意味」に過剰な懸念を抱いていると指摘している。ムーアは、実際にはそうした「意味」はそうあれと望む者によって形成されているものとみなし、結論として以下のように述べている。 […] 同性愛関係として知られるものについては、聖書からも自然法からも良質の見解を引き出すことはできない。そして、さまざまな議論はそうした関係が背徳的で悪であることを示すために提示されるのである。 学者による教会への反論に加え、教会組織の内部においても聖職者による論争や実践が続けられてきた。同性愛に対する教会の活動や職務を巡る論争では、ニュー・ウェイズ・ミニストリー (New Ways Ministry) を設立した神父ロバート・ナジェントとジャニーヌ・グラミック (Dr. Jeannine Grammick) が知られている。彼らはいずれもカトリック教理省により、公式見解に異論を唱え、同性愛者に対して同性愛行為がカトリックの教義に反しないという誤まった認識を与えているとの理由で懲戒を受けている。 カトリック教会デトロイト大司教区のトマス・ガンブルトン (Thomas Gumbleton) とニューヨーク市ロチェスターのマシュー・クラーク (Matthew Clark) も、ニュー・ウェイズ・ミニストリーへの関与と教義を歪めた廉によって同様の批判を浴びた。また、フランスで司教ジャック・ゲイヨ (Bishop Jacques Gaillot) がその司教座から追われた理由は、彼が同性愛の問題について教会の立場とは異なった説教を続けていたことであるとみられている。 同性結婚に関しても一定の譲歩を認める立場があり、ドイツ・フライブルク大司教でドイツ司教会 (Conference of German Bishops) 会長のロバート・ツォリチュ (Dr. Robert Zollitsch) は、ドイツの雑誌『デア・シュピーゲル』上の記事において、国が認めるシビル・ユニオンは容認、同性結婚には反対との立場を示している。アイルランド・ダブリン大司教のディアミド・マーティン (Dr. Diarmuid Martin) も、アイルランドでのシビル・ユニオンの議論について同様の立場を表明している。
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