免疫寛容
免疫寛容
免疫寛容
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 21:02 UTC 版)
ニューヨークのノエル・ローズとエルンスト・ウィテブスキー、ロンドン大学のロイットとドニアックによる先駆的な研究により、少なくとも抗体産生B細胞(Bリンパ球)に関しては、関節リウマチや甲状腺中毒症などの疾患は、免疫寛容(「非自己」に反応する一方で「自己」を無視する個人の能力)の喪失と関連しているという明確な証拠が示された。この破綻により、免疫系は、自己決定因子に対して効果的かつ特異的な免疫応答を始めるようになる。免疫寛容の正確な起源はまだ解明されていないが、20世紀半ば以降、その起源を説明するために、いくつかの理論が提案されてきた。 免疫学者の間では、3つの仮説が広く注目されている。 クローン削除理論(英語版)は、バーネットにより提唱され、自己反応性リンパ系細胞が、個体の免疫系の発達過程で破壊されるというものである。フランク・バーネットとピーター・メダワーは、「後天的免疫寛容の発見」により、1960年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。 クローン・アネルギー理論は、ノッサル(英語版)によって提案され、自己反応性のT細胞やB細胞が正常な個体では不活性化され、免疫応答を増幅することができないというものである。 イディオタイプネットワーク理論は、イェルネによって提案され、自己反応性抗体を中和できる抗体のネットワークが体内に自然に存在するというものである。 さらに、他の2つの理論に対する研究が一心に取り組まれている。 クローン無視理論:胸腺に存在しない自己反応性T細胞が成熟して末梢に移動する時、適切な抗原と遭遇できない(到達不能の組織のため)。したがって、破壊を免れた自己反応性B細胞は、抗原または特定のヘルパーT細胞を見つけることができないという理論である[訳語疑問点]。 抑制因子集団理論または制御性T細胞理論は、制御性T細胞(一般的にはCD4+FoxP3+細胞など)が、免疫系における自己攻撃的な免疫応答を防止、ダウンレギュレート、または制限するように作用する。 また、寛容は「中枢性」寛容と「末梢性」寛容に区別することができ、これは上述したチェック機構が中枢リンパ器官(胸腺および骨髄)で働くか、末梢リンパ器官(リンパ節、脾臓など、自己反応性B細胞が破壊される可能性がある)で働くかによって決まる。これらの理論は相互に排他的ではなく、これらの機構のすべてが脊椎動物の免疫寛容に積極的に貢献していることを示唆する証拠が増えていることを強調しておく必要がある。 ヒトの自然発生的な自己免疫において認められる寛容性の喪失については、そのほとんどがBリンパ球によって生じる自己抗体応答に限定されているという不可解な特徴がある。T細胞による寛容性の喪失を証明することは非常に困難であり、異常なT細胞応答を示す証拠がある場合、それは通常、自己抗体によって認識される抗原に対するものではない。したがって、関節リウマチでは、IgG Fcに対する自己抗体が存在するが、対応するT細胞応答は明らかに見られない。全身性エリテマトーデスでは、DNAに対する自己抗体があるがT細胞応答を引き起こすことはできず、また、T細胞応答に関する限られた証拠は、核タンパク質抗原を示唆している。セリアック病では、組織トランスグルタミナーゼに対する自己抗体があるが、T細胞応答は外来タンパク質のグリアジンに対するものである。このような違いから、ヒトの自己免疫疾患は、ほとんどの場合(1型糖尿病などの例外を除いて)、外来抗原に対する正常なT細胞応答をさまざまな異常な方法で利用しているB細胞寛容性の喪失に基づいていると考えられている。
※この「免疫寛容」の解説は、「自己免疫」の解説の一部です。
「免疫寛容」を含む「自己免疫」の記事については、「自己免疫」の概要を参照ください。
免疫寛容と同じ種類の言葉
- 免疫寛容のページへのリンク