T細胞受容体とは? わかりやすく解説

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T細胞受容体

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1) T-cell, Tは thymus/胸腺頭文字
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T細胞受容体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/01 05:21 UTC 版)

TCR-αとTCR-βから構成されるT細胞受容体(中央赤)と補助分子であるCD3。図の青い部分がITAM。
識別子
Pfam PF11628
InterPro IPR021663
OPM superfamily 261
OPM protein 2hac
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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T細胞受容体(ティーさいぼうじゅようたい)、以下TCR (T cell receptor) とはT細胞細胞膜上に発現している抗原受容体分子である。構造的にB細胞の産生する抗体のFabフラグメント[注 1]と非常に類似しており、MHC分子に結合した抗原分子を認識する。成熟T細胞の持つTCR遺伝子は遺伝子再編成を経ているため、一個体は多様性に富んだTCRを持ち、様々な抗原を認識することができる。

構造

TCRとHLA class IIの結晶構造。
赤色がTCRのα鎖で、橙色がTCRのβ鎖である。

TCRはα鎖とβ鎖、あるいはγ鎖とδ鎖の二量体から構成される。前者の組み合わせからなるTCRをαβTCR、後者の組み合わせからなるTCRをγδTCRと呼び、それぞれのTCRを持つT細胞はαβT細胞[注 2]γδT細胞と呼ばれる。TCRはさらに細胞膜に存在する不可変なCD3分子と結合し複合体を形成する。CD3は細胞内領域にITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) と呼ばれるアミノ酸配列を持ち、このモチーフが細胞内のシグナル伝達に関与する[1]

それぞれのTCR鎖は可変部 (V) と定常部 (C) から構成され、定常部は細胞膜を貫通して短い細胞質部分を持つ。可変部は細胞外に存在して、抗原-MHC複合体と結合する。可変部には超可変部、あるいは相補性決定領域 (CDR) と呼ばれる領域が3つ存在し、この領域が抗原-MHC複合体と結合する。3つのCDRはそれぞれCDR1、CDR2、CDR3と呼ばれるが、TCRの場合、この内CDR1とCDR2はMHCと結合し、CDR3が抗原と結合すると考えられている。

TCRは免疫グロブリンスーパーファミリーに属するタンパク質であり、上記のような構造は抗体のそれと非常によく似ているが、抗体と異なり、細胞外に分泌されることはない。

TCRの発現

免疫グロブリン重鎖の V(D)J 再編成の概観

TCRの構成は免疫グロブリンとして知られるB細胞受容体の過程と似ている。αβTCRの遺伝子再編成ではまず、β鎖のVDJ再編成が行われ、続いてα鎖のVJ再編成が行われる。α鎖の再編成が行われる際にδ鎖の遺伝子は染色体上から欠失するため、αβTCRを持つT細胞がγδTCRを同時に持つことはない。逆にγδTCRを持つT細胞ではこのTCRを介したシグナルがβ鎖の発現を抑制するため、γδTCRを持つT細胞がαβTCRを同時に持つこともない。

遺伝子再編成についてはV(D)J遺伝子再構成参照。

遺伝子再編成はB細胞の場合と同様にリコンビナーゼであるRAG-1とRAG-2に依存している。またターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ (TdT) は遺伝子再編成において生じる遺伝子断片接合部にN-ヌクレオチドをランダムに挿入することでTCRの多様性形成に寄与する。これらのメカニズムにより1個体が持つTCRの多様性の総数は計算上1018を超える。ただし、免疫グロブリンと異なり、TCR遺伝子の場合は体細胞高頻度突然変異は生じない。また、TdTによるN-ヌクレオチドの挿入の結果生じる多様性の拡大はCDR3のみに影響するため、TCRでは多様性がCDR3に集中する。これはCDR3をコードする領域のみが遺伝子断片の接合部を含むためである。

機能

TCRの役割は抗原認識である。CD4陽性細胞(Th細胞)の場合、特異的な抗原がTCRと結合すると、CD4に結合するLckがCD3のITAMをリン酸化し、これが起点となって細胞内にシグナルが伝達される。ナイーブT細胞は活性化するが、この時にTh細胞は補助刺激因子の存在を必要とする。この補助刺激因子はB7と呼ばれる分子で、TCRが抗原と結合した状態でさらにB7がT細胞上のCD28と結合すると、Th細胞は活性化に導かれる。補助刺激因子が存在しない場合、CD4陽性T細胞は不活化する(これをアネルギーという)[2]

αβT細胞はMHC上に存在するペプチドしか認識できない。また、別の個体のMHC上のペプチドは認識できない。これをMHC拘束性という。一方で一部には非MHC拘束性のT細胞が存在し、これはナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)と呼ばれる。NKT細胞の持つTCRはMHC上の抗原ではなく、CD1(特にCD1d)上の脂質抗原を抗原特異的に認識する。また、γδT細胞は抗原提示細胞やMHCの介在なしに一部の抗原と直接反応する。

補助刺激分子の存在下でTCRと抗原が結合すると、ナイーブT細胞の活性化が起きる。活性化したT細胞は細胞増殖やIL-2などのサイトカインの産生、細胞傷害作用といった機能を発揮できるようになる。細菌の毒素やウイルス感染細胞で産生される、ある種の物質はMHC IIと結合して、特定のサブファミリーに属するTCRを非特異的に活性化する。この抗原をスーパー抗原と呼び、T細胞を過剰に活性化するため、発熱、発疹、ショックなどの症状を引き起こす[3]

脚注

注釈

  1. ^ Y字状の構造を持つ抗体の、二本の腕の部分。可変部を含む。
  2. ^ 単にT細胞という場合はこちらを指すことが多い。

出典

  1. ^ P. Anton van der Merwe & Omer Dushek (2011). “Mechanisms for T cell receptor triggering”. Nat Rev Immunol. 11. doi:10.1038/nri2887. PMID 21127503. 
  2. ^ Oreste Acuto1 & Frédérique Miche (2003). “CD28-mediated co-stimulation: a quantitative support for TCR signalling”. Nat Rev Immunol. 3. doi:10.1126/stke.3772007re2. PMID 14647476. 
  3. ^ 平松啓一・中込治 編集『標準微生物学』(10版)、2009年。ISBN 978-4-260-00638-5 

参考文献


T細胞受容体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/04 23:02 UTC 版)

回文配列」の記事における「T細胞受容体」の解説

T細胞受容体 (TCR遺伝子は、生殖系列コードされた遺伝子断片V、D、およびJの再構成V(D)J遺伝子再構成)によって多様化され莫大な抗原特異性を得ることを可能にしている。このとき、V-DおよびD-Jつなぎ目では、塩基配列ランダムなNヌクレオチドと、生殖系列DNA配列相補的な1〜3塩基対回文構造ヌクレオチド(Pヌクレオチド)が挿入される

※この「T細胞受容体」の解説は、「回文配列」の解説の一部です。
「T細胞受容体」を含む「回文配列」の記事については、「回文配列」の概要を参照ください。

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