ローマ水道とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 同じ種類の言葉 > 地理 > 地形 > 水道 > ローマ水道の意味・解説 

ローマ水道

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/14 14:06 UTC 版)

フランスのポン・デュ・ガール

ローマ水道(ローマすいどう)は、紀元前312年から3世紀にかけて古代ローマで建築された水道ローマ水路とも。古代ローマでは、都市や工場地に水を供給するために、数多くの水道が建設された。これらの水道は古代のもっとも偉大な業績の一つであり、古代ローマ滅亡後1000年以上もこれに匹敵するものは作られなかった。現代においてもこの古代の水道は多くの都市で実用に供され、実に2000年以上も水を供給しつづけている。

ローマ人帝国内のどのような大都市においても水道を建設した。中でもローマは最大の都市であり、500年かけて建造された11の水道から水が供給される、最大の水道の集積地であった。その内、ヴィルゴ水道の一部は今でも使われている。

技術

都市ローマ内の水道の長さを合わせると350キロメートル(260マイル)になる。しかし、地上より上にあるのは47キロ(29マイル)だけで、その他は地下を流れていた。地下に作ることで動物の死骸が水路に落ちて腐敗するのを避けることができ、敵の攻撃からも守ることができた。最も長いものは、2世紀カルタゴ(現チュニジア)に作られたハドリアヌス水道 (Aqueduct of Hadrian) で、141キロ(87マイル)の長さがある。

ローマ水道は非常に精巧に作られており、厳密な許容誤差内で建築されていた。通常規格で、1キロあたり34センチの傾斜(1:3000)、50キロメートル(31マイル)の距離で垂直方向にわずか17メートル下がるだけである。完全に重力に頼っており、非常に効率よく大量の水を運んでいた。フランスポン・デュ・ガールでは、1日に2万立方メートル(約600万ガロン相当)、また11本の水道によりローマ市に供給された水量は1日に100万立方メートル(3億ガロン相当)にもなり、1人当たり1m3/日(1000リットル)[注釈 1]と、現代の東京都民の水使用量233リットル/日[1]を遥かに凌いでいた。同水準の水道が新たに建設されるのは19世紀後半になってからである。50メートル以上のくぼ地を通る個所で、サイフォンを用いて水を高所に持ち上げている。現代においても、上下水道で同様の技術が使用されている。ほとんど全ての水道で、水道橋が使用されている。

水道施設を構成する建造物には、地下や地上の導水渠のほかに、導水渠を載せるための連続アーチ構造の水道橋、不純物を沈殿除去する沈殿池、末端の分水施設(カステルム・アクアエ)などがあった。これらの施設は石、ローマン・コンクリートやレンガを用いて建設されており、水密性を高めるために導水渠内面[2]などには水硬性セメント[3]も使われていた。市街地の分水施設に到達した水は、陶管・鉛管・青銅管等を通り公衆浴場・ドムスやヴィッラ等の邸宅・公共施設や庶民が水を汲みに来る噴水(泉)などに配水されていた[4]。水道水に溶け出す鉛が有害であることは既に知られており、古代ローマの建築家ウィトルウィウスが「水は鉛によって有害になる」と述べている[5][6]ほどだが、陶管に比べ自在な形に曲げやすい鉛管が末端の給水管に使われることも多かった。これが鉛中毒の原因の一つであったという説もある。

ローマ水道は高度な建築技術のみならず、偶然の故障や、堆積物の掃除、天然水に含まれる炭酸カルシウムの析出物の除去のために、包括的なメンテナンスシステムを必要とした。

ローマ水道の最後

ローマ帝国の滅亡で、ローマ水道は敵により徐々に破壊されていき、その他の水路もメンテナンス不足により故障していった。水路による水の供給が欠如して、古代では100万人以上を誇った都市ローマの人口は、中世には激減する。しかし、ヴィルゴ水道等の一部の水道は今でも使われている。

ローマ水道の一覧

都市ローマを流れる水道

都市ローマの莫大な人口の需要を満たすため、11本の水道が引かれていた。水道は合計で、少なくとも1日あたり1,127,220立方メートル(約3億ガロン)の供給能力を持っていた。ネルウァ治世の時代を通して、ローマの水道管理委員 (curator aquarum) であったセクストゥス・ユリウス・フロンティヌスにより、97個所の市内の水道の詳細な統計資料が記録されている。フロンティヌス以降に建設された水道について知られている情報は少ない。

Aqueducts in Rome
名称 建築年 全長
(km)
高さ
水源地 (m)
高さ
ローマ (m)
送水量
(m³ a day)
その他
アッピア水道 前312 16.561 30 20 73,000 -
旧アニオ水道 前272 - 前269 63.640 280 48 61,640 -
マルキア水道 前144 - 前140 91.331 318 59 187,600 -
テプラ水道 前125 17.745 151 61 17,800 -
ユリア水道 前33 22.831 350 64 48,240 -
ヴィルゴ水道 前19 20.875 24 20 100,160 トレヴィの泉
アルシエティナ水道 前2 32.815 209 17 15,680
(飲用不可)
-
クラウディア水道 38 - 52 68.681 320 67 184,280 -
新アニオ水道 38 - 52 86.876 400 70 189,520 -
トライアーナ水道 109 32.500 - - - -
アレクサンドリナ水道 226 22 - - - -

※フロンティヌスによる記述がある場合、全長は1 passus = 1.48m, 1 quinaria = 40m^3/day で換算している。

これら11本の水道のうち、6本が通過するローマ南東郊外のアッピア街道州立公園内の一区画はローマ水道橋公園と呼ばれている。

その他の地域

ローマ人は帝国内の大都市に水道を建設した。今日でも、多くの場所でその遺跡が残っており、水道の機能を保ったものもある。

脚注

注釈

  1. ^ 1世紀から2世紀にかけて、歴史上の推定都市人口より人口100万人

出典

関連項目


ローマ水道

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/24 00:20 UTC 版)

セクストゥス・ユリウス・フロンティヌス」の記事における「ローマ水道」の解説

フロンティヌス最大著作2巻の『水道書』 De aquaeductu で、ローマ水道の現状皇帝報告した式文書である。ローマ水供給歴史と詳細記されており、水道利用保守関連する規則含んでいる。全てのローマ水道の歴史が、水路大きさ水量詳細含めて記されており、アッピア水道アルシエティナ水道テプラ水道新アニオ水道ヴィルゴ水道クラウディア水道トライアーナ水道などを扱っている。また、それぞれの水質についても、主に水源が川か湖か泉かという点から記述している。 水道長官となって最初に行ったことは水道地図作ることで、それによって保守を行う前にそれらの状態を評価できるようにした。彼は水道多く軽視され能力最大限発揮していなかったと述べている。中でも農夫商人不法に水道流用することを特に心配した誰でも水路に管を挿し込んで無断利用することが可能だったためである。そこで彼は、取水口での取水量各地への供給量を几帳面に調べ上げ不一致がないかを調査したフロンティヌスウィトルウィウス前世紀著作建築について』 (De Architectura) をよく知っていた。『建築について』には用水路建設とその保守についても記述があり、フロンティヌスは自らを「配管工」だとしたこともある。

※この「ローマ水道」の解説は、「セクストゥス・ユリウス・フロンティヌス」の解説の一部です。
「ローマ水道」を含む「セクストゥス・ユリウス・フロンティヌス」の記事については、「セクストゥス・ユリウス・フロンティヌス」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「ローマ水道」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ



ローマ水道と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ローマ水道」の関連用語

ローマ水道のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ローマ水道のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのローマ水道 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのセクストゥス・ユリウス・フロンティヌス (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS