ペルシア語のアラビア文字表記法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/17 05:41 UTC 版)
「アラビア文字化」の記事における「ペルシア語のアラビア文字表記法」の解説
「ペルシア文字」も参照 ペルシア語はインド・ヨーロッパ語族-インド・イラン語派-イラン語群(西イラン語)に分類される言語であり、アラビア語が属すセム語派とは系統を大きく異にする。しかし、イラン語群はパルティア語、中期ペルシア語(パフラヴィー語)、ソグド語など主な中期イラン語は紀元前後から(帝国)アラム文字系の文字による表記の伝統があり、同じく帝国アラム文字を起源とするナバタイ文字、アラビア文字を使用していたアラビア語と状況が似る。現行の近世ペルシア語は7世紀に始まるイスラム帝国の拡大によって、9世紀に勃興したサーマーン朝以降に中央アジア・イランにおいてアラビア文字によって書かれ、アラビア語の語彙を多数採用して成立した言語である。当初は通常のアラビア文字のみで書かれたが、本来ペルシア語が有していた p、č、ž、g などの音については ب b、ف f、ج j、ز z などフスハーでは音価が異なる文字で代用されていた。母音についても ē や ō といった長母音もあったが、近世ペルシア語では ـى ī や ـو ū に吸収されてしまっている。14世紀頃に پ p 、چ č(ch)、ژ ž(zh) などの文字が登場しはじめるが(『集史』などにあらわれる)、これらはモンゴル帝国時代にテュルク語やモンゴル語、ペルシア語の音表記を明確に可能にするためにイルハン朝などで開発されたものだと考えられている。例えば、中期ペルシア語で「勝利を得た」を意味する単語、 pērōz は従来のアラビア文字表記によるペルシア語であれば فيروز fīrūz であるが、現在では پيروز pīrūz という表現も通常使われる。ペルシア文字特有のこれらの文字の内 g の文字は17世紀になってサファヴィー朝周辺で成立したようで、ペルシア語から多大な影響を受けたウルドゥー語などでもこれらの文字を採用され、さらにインド諸語の音に対応する文字が新たに加えられている。 近世ペルシア語は「書き言葉」として発達した面もあり、時代毎の様式の変化はあったものの近代以前には激しい方言差はすくなかったが、イランのペルシア語とアフガニスタンのペルシア語であるダリー語などをはじめ、枝分かれしていった言語が存在する。特に現在のイランの場合、近代化の過程で旧来のアラビア語のみの表現から新たにペルシア語のみを用いた言い換えや造語が多数作られている。しかしその中心的位置をなすイランの公用語としてのペルシア語をひとつとっても、上述のように正則アラビア語のフスハーとは発音が異なり、文字の読みも綴りも異なっている。これは、日本語も韓国語・朝鮮語も中国由来の漢字を用いていながら、必ずしもその国の人名などの読みが同じではないということと似ている。 このため、アラビア文字とは言えどもペルシア語で書かれた文書は、たとえそれが固有名詞であっても、そのままではほとんどのアラビア語話者には読むことができない。イスラームに起因する人名などはアラビア語が起源であり、それがペルシア語化しているものであるから改めてアラビア語に戻せば良いが、それ以外の名詞はアラビア語の読みとして音訳される。また、最近では英語などの欧米言語を経由して音訳されるケースも見られる。 例1 ペルシア語: عبدالله → アラビア語: عبد الله عبد الله (アブドゥッラー)は「神の下僕」という意味でイスラームの預言者 محمد (ムハンマド)の父の名前。イスラーム圏ではひじょうによく見られる代表的な名前のひとつ。ペルシア語では字形で区切りつつも1つの単語になっているが、もともとは2つの単語からなるアラビア語の名前であり、綴りの上では分割される。同様にホメイニ師の名前(イスム)である روحالله (ルーホッラー)もアラビア語では روح الله (字義は「神の魂」)のように空白を挿入して2つの単語に分けられる。 例2 ペルシア語: علی → アラビア語: علي علي (アリー)は第四代正統カリフ。後述するようにペルシア語の文字では語尾形では常に二点が省略される字形となるが、アラビア語ではアリフマクスーラ以外は ي と綴る。 例3 ペルシア語: فاطمه → アラビア語: فاطمة فاطمة (ファーティマ)はムハンマドの娘。もともと女性形を表す ة であったものがペルシア語では使わない文字となり、hの音価を持つهに置き換えられることとなった。従ってアラビア語に直すときには、このةを復元することになる。発音上においては、ペルシア語、特にテヘラン方言ではeの母音価を添えるが、アラビア語のフスハーでは直前の子音価にaの母音価を付す。また、これは語末母音がaとなる女性の人名に通ずる原則である。 以下にペルシア語とアラビア語におけるアリフバー(アラビア文字)の対応表を掲げる。なお、これはあくまでも個々の文字の音価の対応であって、アラビア文字表記における綴りの上での置換表ではないことに留意されたい。 ابپتثجچحخدذرزژسشأا ب بپ ت سث ج تشش هح خ د زذ ر ز جز س ش صضطظعغفقکگلمنوهیص زض طت ظز ع غ ف ق ك غ ل م ن و ه يى ک と ك は音価は同じkであるが、前者はペルシア語の、後者はアラビア語で用いられる文字であり、字形が異なる。またyの発音である ی はペルシア語では単独形や語尾形では二点を打たないが、アラビア語では通常 ي を使う。 人名の場合、多くは出身地や部族名などを付し、これをニスバ(アラビア語: نسبة )と呼ぶ。ペルシア語では定冠詞を付ける習慣がなく、ニスバも定冠詞を伴わない。アラビア語では文法的な理由もあり、ほとんどの場合ニスバには定冠詞を伴うこととなるため、ペルシア語圏の人名であってもニスバには定冠詞を改めて付すことになる。
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