フェミニスト・セックス戦争と議論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 06:45 UTC 版)
「性的対象化」の記事における「フェミニスト・セックス戦争と議論」の解説
「まなざし (哲学)」も参照 1970年代後半~1980年代初頭にかけて起きたフェミニストの議論・論争は、フェミニスト・セックス戦争、ポルノグラフィ論争などの通称で知られる。 キャサリン・マッキノンは、「日本のレディースコミック(ティーンズラブやボーイズラブなど)を女性たちが買ってポルノとして使っているのをどう思うか」に対し、「女性向けのポルノというのは、実は男が男向けに作っているのであり、その読者の99 %は男である」と答えているが、ナディーン・ストロッセンやエリザベット・バダンテールなどのリベラル・フェミニストを始め、森岡正博など、ラディカル・フェミニストの極端ともとれる主張に批判や疑問を抱く者も多い。エリザベット・バダンテールは、女性に対する暴力は断固として糾弾せねばならないとしつつ、女性というジェンダーを「犠牲者化」するきらいのあるラディカル・フェミニズムを批判し、とくにアンドレア・ドウォーキンとキャサリン・マッキノンに対しては、「極端すぎて女性を笑いものにする」と強く反対している。 フェミニストで東京大学名誉教授でありNPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長の上野千鶴子は、ラディカル・フェミニズムにもいろいろあり、フェミニズムの論者は多様で、一枚岩ではくくれないとしている。これは俗に「フェミニズムは一人一派」といわれる。特に一番大きな誤解は、フェミニストと、フェミニストではない保守的なモラル・マジョリティ(PTA連合など)が混同されることだとしている。 上野千鶴子自身は、自分の意見がフェミニズムの主流ではないとしたうえで、「『ポルノは理論であり、レイプは実践』だというキャサリン・マッキノンの主張に同意しない。インターネットやDVDなどバーチャルな性的表現物をたくさん消費する男性が、実際の性生活で必ずしも積極的ではないという調査結果がある」「(ポルノの商業化されたイメージに頻繁にハマると、実際の女性たちには性的興味を感じられなくなる状況も発生すると言われるが)彼らはレイプ犯になるはずのない平和な男たちで、何の問題も感じない」とした。 性的対象化はフェミニスト理論の中核的な概念であるが、性的対象化の原因やその倫理的な位置づけについての議論は決着を見ていない。ナオミ・ウルフを始めとするリベラル・フェミニストはフィジカル・アトラクション(physical attractiveness)の概念を発見し、他者に対するあらゆる性的査定に反対するラディカル・フェミニストとの間に論争を巻き起こした。ラディカル・フェミニストで作家のジョン・ストルテンバーグ(John Stoltenberg)は、非現実的な性的イメージをもたらす女性の視覚化に全面的に反対している。 ラディカル・フェミニストは性的対象化こそが女性を「抑圧された性」と呼ぶべき階層に押し込めている原因だと捉えている。マスメディアで行われる性的対象化は家父長的・パターナリズム的であり、ポルノグラフィこそが男性全般の性的対象化を正当化する役割を果たしていると指摘する。それ以外の、主にセックス・ポジティブ・フェミニズムに属する者は異なる立場を取り、男性による性的対象化が女性のセルフイメージと一致しない場合のみ問題にすべきだと考えている。 社会保守主義者たちは、フェミニストの主張に対して部分的に反論している。保守主義の観点からいえば、西洋文化における性的対象化の進展は性の革命における負の遺産である。アメリカの作家であるウェンディー・シャリット(Wendy Shalit)は、性道徳を革命前の水準に引き戻すことを主張しており、これを「謙虚さ(modesty)への回帰」と名付け、性的対象化への処方箋として提案している。 他のフェミニストも性的対象化について各自の見解を表明している。アメリカの社会学者・社会批評家・作家であるカミール・パーリア(Camille Paglia)は、「他の個体を性的対象とすることは、ヒトという生物に特有の現象だ」と考えている。パーリアによれば、性的対象化はヒトの高度な知能の働きであり、それは美学的な要素さえ兼ね備えている。 無政府資本主義であり個人主義的フェミニスト(Individualist feminist)であるカナダのウェンディー・マッケルロイ(Wendy McElroy)は、「性的対象化」が女性を性的なオブジェにすることを意味するのであれば、オブジェは無生物でありセクシュアリティを持たないために語義矛盾に陥ると指摘している。しかし、マッケルロイによれば女性は身体と心、魂を備えた全体であって、特定の部分だけを取り出すことは女性への冒涜にほかならない。
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