ニセレゾ(エセレゾ)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 05:19 UTC 版)
「ハイレゾリューションオーディオ」の記事における「ニセレゾ(エセレゾ)」の解説
録音時にCD品質やDAT品質以下のフォーマットで作成されたマスター音源をアップサンプリングしてハイレゾ化する方法があり、市場でもそういった音源がハイレゾ音源として大々的に売り出されているが、この方法で作成されたハイレゾ音源は倍音成分が欠落しているか、あるいは推測で倍音成分が埋め合わせされているため、偽物のハイレゾという意味で俗に「ニセレゾ」(または「エセ〈似非〉レゾ」)と呼ばれる。下記のような現状から、ハイレゾを巡る現実は厳しいと言える。 CD品質のデジタルレコーディングデジタルレコーディング黎明期の1978年~1983年の期間には3M社のDMSや三菱のX800等の様々なデジタルMTRが現れた、その後は生産中止が相次いだアナログMTRからの置き換えで利便性の高いソニーのPCM3324やPCM-1610+Umaticの組み合わせが主流になり、CD最盛期の1989年から2000年代前半のスタジオレコーディングでは世界的にソニーのPCM3348(16ビット/48kHz対応)が標準となり、CD品質に合わせて録音されたマスター音源が数多く作成された。従って、CD最盛期のマスター音源にはハイレゾ品質のマスター音源が存在しないことから、ハイレゾのオーディオシステムに合わせて数多くの倍音補完技術が開発されて来ている。最先端では機械学習も導入されており、CD全盛期に残された限られたデータに膨大な楽器の特徴を当てはめて、より正確に倍音を補完できるように技術開発が行われている(例・ソニーのDSEE HXやJVCケンウッドのK2テクノロジー、デノンのウルトラAL32プロセッシング、パイオニアのマスターサウンドリバイブ等)。 アナログマスターテープの劣化オーディオマニアが好むクラシック音楽にしても、デジタル化以前の名演についてはアナログマスターテープの劣化によってダイナミックレンジの低下が起きており、最新のハイレゾデータよりも過去に発売されたCDやレコードの方がデータ品質として良好な場合もある。 制作環境の限界と音圧競争但し、最新のハイレゾ作品であっても、レコーディング時に超高音域が収録出来ない従来型のマイクを使用したり、レコーディング部屋や機器の構造が悪くて外来ノイズが混入したり、データ編集の手間の問題でサンプリングレートを抑えたりすれば、倍音の正確性と言う意味でニセレゾと同等の品質になる場合もある。これらの音質劣化原因を本格的に改善するには、ADCより前のアナログ段階で様々な工夫が必要になり、高額なコストが必要であるため、改善が難しい面がある。特に低予算で作られたスタジオや宅録におけるノイズ対策は非常に難しい。また新作になる程、ダイナミックレンジが限られた安いオーディオ機器で迫力を出すため強烈なコンプレッサーが掛けられる場合が増えており(音圧競争)、特に人気のポップス作品ではダイナミックレンジも犠牲になっている場合が多い。そうした作品がハイレゾで販売されたとしても高性能な再生機器で聴くと粗が目立つ劣悪な(空間を感じない平板で歪んだ聴き疲れする)音として再生される場合が多い。 つまり一口にハイレゾと言っても、完全対応するには制作者側では録音時のノイズ除去を含めた制作工程全体の見直しが必要で、消費者側においても20kHz以上の高音が忠実に再生できる超高品質な再生デバイスと、モスキート音などの高音が聴き取れる劣化していない聴覚が必要であるため、ハイレゾが登場して10年以上経過した時代においても、真のハイレゾを容易に体感できる状況にはないという現状がある。それどころか、オーディオマニアの間では環境を整えればCDからでも生々しい音が再生できるとの評判もあり、オーディオに疎い一般消費者においては、CD品質の音源すらも真価を発揮出来ていない可能性が高い。 ハイレゾ対応を謳う再生装置にしてみても、再生音源のフォーマットの数値(サンプリング周波数,量子化ビット数)が高い場合にDACがデジタルフィルタの処理を簡略化したり、DACの処理負荷が高くなる結果として電源回路や周辺のコンデンサにも負荷が掛かって電力供給が乱れるような場合があり、それがノイズやジッターの増加に繋がるため、むしろフォーマットの数値を下げた方が高音質になる場合もある(ハイレゾ初期の時代にこうした問題が多く発生していたが、その後は改善されてきている)。また、量子化ビット数が24bitでデータ上は144dbのダイナミックレンジを確保できるが、DAC以降のアナログ回路が123db程度を上限としているため、ハイレゾフォーマット通りのダイナミックレンジを持つ再生装置は存在しない(抵抗の熱雑音を減らすことが出来ないため、既に物理的な限界に到達している)。従って、フォーマット上の数値ばかりに頼るのは問題である。 対義語は「マジレゾ」(真のハイレゾという意味)である。
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