タイヤとブレーキ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/12 20:56 UTC 版)
タイヤは地上では航空機の重量を支え、着陸時には内部の空気によって衝撃を緩和するクッションとなり、路面との摩擦によって滑走中の制動力を生み出す。旅客機用タイヤは内部に空気を詰めたチューブレス・タイヤが使用される。空気圧は乗用車等の1.9kg/cm2程度に比べて12.5-15.0kg/cm2程と高く、内部のプライ数も乗用車等が4層程度であるのに対して30層前後になっている。路面に接して磨耗するトレッドは規定に基づいて複数回まで貼り直す「再生タイヤ」(リトレッド・タイヤ、Retread tire、リキャップ・タイヤ、Recap tire)の使用が認められている。航空機用タイヤの本来の性能が求められるのは離着陸時のわずかな時間だけであり、飛行中は重く空間を占有するだけなので可能な限り軽く小さいことが求められ、耐久性の優先順位は高くない。このため航空機用タイヤは比較的小さく済むように内圧が高く設定されており、発熱の小さなゴムが用いられ、トレッドの溝は浅くゴムの使用量が少ない。トレッドの溝が浅いために、平均的200-300回程度の離着陸サイクルで摩滅によって溝が浅くなるため、タイヤは交換されて検査後に新たなトレッド面が貼り付けられ加硫されて5-6回程度は再生使用される。旧型機種ではバイアスタイヤが用いられていたが、新型機種ではラジアルタイヤが採用されているので、航空機の入れ替わりに応じて徐々にラジアル方式に切り替わつつある。旅客機用タイヤは高空飛行中に外気により-50℃程度まで冷やされているが、着陸時には地面との摩擦やタイヤ自身の変形と内部摩擦によって最大200℃にまで加熱される。このような場合にタイヤ内部のカーカスと呼ばれる補強繊維層内の残留空気が膨張してタイヤのゴム内部で剥離させるような力が生じる恐れがあるため、タイヤのサイドウォール部内周側近くの6箇所にガス抜き用に外部からカーカス層まで達する針穴が空けられており、丸いマークで示されている。 航空機用タイヤは温度変化に応じて膨らみ内圧が変化する。適正な内圧であるかは随時、専用ゲージで確認されねばならず、着陸後も通常環境で2時間以上、高温環境では3時間以上経ってタイヤが冷えてから計らねばならない。タイヤ内圧はタイヤ圧力表示装置によってタイヤごとのひずみセンサーの情報が集められ、タイヤ圧力監視装置で処理されて操縦席のEFISなどに表示される。 主脚のタイヤにはディスク・ブレーキが備わり、地上での滑走時の制動に使用される。離陸中止時や問題のある着陸時などで高速で運動する機体を短距離で停止させようとすると、その運動エネルギーの多くがディスク・ブレーキのディスクやライニングでの過大な熱となって放熱され、周囲のタイヤやブレーキホースなどを損傷する危険がある。それぞれのブレーキ部の温度をセンサーで捕らえて操縦席に表示するブレーキ温度感知装置が備わっており、いくつかの機体ではこれに加えて、それぞれのタイヤホイール内にファンと電動モーターを備え、操縦席のスイッチ操作で全てのファンが回転してディスク・ブレーキに外気を当てて冷やすブレーキ冷却装置を備えるものがある。新しい機種ではそれぞれのタイヤ内の圧力を常時測定して操縦席に表示するタイヤ圧力表示装置を備えるものもある。ディスク・ブレーキは多板型に似たセグメンテッド・ロータ型が多い。タイヤのブレーキはブレーキ・ペダル操作を行っても着陸進入途中では接地保護回路によって働かないようにされており、接地の瞬間にはタイヤは回転する状態におかれる。ブレーキにはアンチスキッド装置が備わっており、ホイール車軸の車軸発電機が作るホイール回転信号と操縦席のオートブレーキ制御パネルの設定情報、スロットルの情報を受けて、ディスク・ブレーキを働かせる油圧の調整弁を制御している。アンチスキッド装置はスクワット・スイッチ、またはWOWスイッチ (Weight-On-Wheel proximity Switch) と呼ばれる機体重量が車軸に掛かったのを検知するセンサーと車軸発電機が24-35km/h程度の信号を出すことで働きはじめる。 また、ブレーキをコントロールするオートブレーキ装置も備わっている。オートブレーキ装置はブレーキ用油圧系統内のスキッド制御弁の上流部にあるオートブレーキ制御弁でブレーキの働きを制御している。オートブレーキ装置の制御パネルは通常、数段階の設定が可能であり、滑走路の状況などに応じて着陸前に設定しておくことで、機体が着陸してスロットル・レバーが全閉位置に戻されると同時にタイヤのブレーキが設定された強度で自動的に働くようになっている。スロットルを出力増加方向に動かすか、主翼上のスピードブレーキを収納位置に戻す、ブレーキペダルを踏む、オートブレーキ装置の制御パネルのノブを解除位置にする、という操作によって自動的にオートブレーキは解除され、マニュアル操作に従うようになる。 離陸時にはタイヤが機内の格納位置でしばらく空転し続けて、何も対処しなければ不快な振動が生じてしまう。主脚はオートブレーキ装置が自動的に働いて回転を止められるが、一般に前脚にはブレーキが備わっていないので、多くの機種では前脚格納室の天井部分にタイヤと接する回転止めが取り付けられている。 旅客機用タイヤの例747-400(前脚・主脚)777-200(主脚)MD-90(主脚)タイヤサイズ (インチ)49×19 50×20 44.5×16.5 プライ数32 26 26 タイヤ外径 (mm)1,240 1,270 1,130 タイヤ幅 (mm)480 510 417 空気圧 (kg/cm2)14.4 12.5 13.9 耐荷重 (kg)25,700 20,500 18,645 要求速度 (km/時)380 380 380
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