『カナの婚礼』
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「パオロ・ヴェロネーゼ」の記事における「『カナの婚礼』」の解説
『カナの婚礼』はバルバロ邸と同じくアンドレーア・パッラーディオとの共作となった作品で、『新約聖書』の『ヨハネ福音書』2章1-11節に記述されている、ガリラヤのカナで催された婚宴に招待されたキリストが水をワインに変えたとする、キリストが起こす最初の奇跡のエピソードが描れている。1562年にヴェネツィアのサン・マルク島サン・ジョルジョ・マッジョーレ修道院のベネディクト会修道僧から依頼を受けて制作された。このときの制作契約条件として、66平方メートルの壁を覆う巨大な絵画とすることがうたわれており、使用する顔料の品質と種類も最上級のものが求められている。例えば青色の顔料には天然鉱物であるラピスラズリを使用した、非常に高価なウルトラマリンを使用することなどが契約書に指定されていた。さらに契約書には、可能な限り多くの人物像を描くことも盛り込まれている。『カナの婚礼』は、15か月かけて1563年に完成し、その後235年間サン・ジョルジョ・マッジョーレ修道院の食堂に飾られていた。しかしながら、1797年のナポレオン・ボナパルト率いるフランス軍のイタリア侵攻時に修道院から略奪された。輸送するにはあまりに大きな絵画だったために2枚に裁断され、パリに持ち込まれた後に元通りに修復されている。 ナポレオン失脚後に結ばれた講和条約でフランスからイタリアへ返還された略奪美術品もあったが、『カナの婚礼』はフランスが返還を拒否した。その代償としてシャルル・ルブランの絵画がヴェネツィアへと送られ、現在もこの作品はアカデミア美術館に所蔵されている。『カナの婚礼』は普仏戦争時には箱詰めされてフランス西部のブレストへと疎開していたほか、第二次世界大戦時には巻き上げられた状態でトラックに積まれてフランス各地を転々としている。 1989年にルーヴル美術館が100万ドルの費用をかけて、システィーナ礼拝堂天井画の修復に比肩するような『カナの婚礼』の修復計画を開始した。これに対し、歴史的美術品の擁護者を自認する芸術家の集団が異議を唱え、再検討を要求していた。そして1992年6月にルーヴル美術館は『カナの婚礼』の修復途中に、2つの異なる要因によって作品に損傷を与えてしまったと不面目にも公表することを余儀なくされた。空気弁から吹き出した水がキャンバスに飛び散ったことと、その二日後に総重量1.5トンに及ぶ『カナの婚礼』を壁の高い位置に掛けようとしたときに誤って床にたたきつけてしまったことである。このとき修復用に使用されていた金属枠が『カナの婚礼』に五カ所、最長4フィートの裂け目を生じさせた。建物が描かれている部分と背景部分が損傷を受けたが、人物が描かれた箇所には影響がなかった。噂が広まるまで、これらの事故についてルーヴル美術館は一カ月の間公表しなかったため大きな批判を受けている。 画面には当時最新の事物と古典的な事物の両方が描きこまれている。建物は古典的なグレコローマン様式で、低い手すりに囲まれた中庭にはドーリア式とコリント式の柱が建ち、遠景にはアーチが付いた空想的な尖塔が描かれている。前面中央で楽器を奏でる人物のうち、白のチュニックを着てヴィオラ・ダ・ガンバを手にしているのはヴェロネーゼの自画像、その向かい側の赤い服の人物はティツィアーノ、さらにヴェロネーゼの背後にはティントレットが描かれているといわれている。その他、フランス王フランソワ1世、フランス王妃レオノール・デ・アウストリア、イングランド女王メアリー1世、オスマン帝国皇帝スレイマン1世、オスマン帝国大宰相ソコルル・メフメト・パシャ、ペスカーラ侯爵夫人ヴィットリア・コロンナ、神聖ローマ皇帝カール5世、ヴェネツィア共和国外交官マルカントニオ・バルバロ (en:Marcantonio Barbaro)、イタリア貴族ジュリア・ゴンザーガ (en:Giulia Gonzaga)、枢機卿レジナルド・ポールら、当時の貴顕が描かれているとされている。 画面中央には背光とともにキリストと聖母マリアの姿が見える。その背後のバルコニーには肉を解体する人物が描かれており、美術史家からは解体されているのは羊で、キリストの真上の人物が刃物を振り上げていることとともに、将来キリストが神の子羊として処刑されることの象徴だとされている。『カナの婚礼』には宗教的象徴が描かれているために、正式な饗宴儀礼が無視されており、客人であるはずのキリスト、マリア、使徒が中央の席を占め、新郎新婦は画面左横の隅に追いやられている。
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