空中給油 空中給油の方法

空中給油

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/04 06:06 UTC 版)

空中給油の方法

現在使用されている空中給油の方法には、大きく分けフライングブーム方式とプローブアンドドローグ方式の2つがある。

フライングブーム方式

主にアメリカ空軍及びF-15F-16を用いている各国空軍が採用している方式で、給油機側がブームの動きを操作し被給油機の燃料口(リセプタクル)に燃料パイプを挿し込み給油を行う。ブームの操作は先端についた動翼によって空力的に行われるが、これはブームの根元から操作しようとしても、気流の中ではうまく制御できないからである。

航空自衛隊はフライングブーム方式の空中給油機として、ボーイング767の改造型KC-767を4機を導入した。

利点

  • 被給油機側(給油を受ける側)は給油機のブームが届く位置を保持するだけでよいため、被給油機側の負担が少ない。
  • 時間当たりに給油できる量がプローブアンドドローグ方式に比べ多いため、大量の燃料を必要とする大型機(輸送機爆撃機など)にも適する。
  • フライングブーム先端にドローグが付いたホースのアタッチメントを使用すればプローブアンドドローグ方式の給油も行える[注 2]
  • この方式の給油口は機外にプローブを露出するプローブアンドドローグ方式の給油口に比べて、空力の影響が小さい。よって被給油機の空力的な性能向上にもなる。プローブを機外に固定装備する場合と比較するなら、ステルス性についても同様[注 3]

欠点

  • 給油機側にブームを操作する人員が必要なため、設備が大掛かりになり小型機を給油機にすることができないうえ、一度に1機にしか給油ができない。
  • 給油開始までの時間や揺れなどの影響はブームを操作する人員の技量に左右される。また人員の訓練も必要である。
  • 給油機側の改造に手間がかかる。給油を受ける戦闘機や輸送機は、フライングブーム式からプローブアンドドローグ式への改造は容易だが[注 4]、逆に改造するのは困難である[注 5]
  • 給油を受ける側が小型機の場合は、給油量を絞ってやらねばならない。
  • もっぱら米国機で用いられている方法のため、米国のサポートがないと維持が困難になる(革命後のイラン空軍など)。

この方式に適した航空機

微妙な位置合わせが難しく大量の燃料が必要な大型機への給油に向く。

プローブアンドドローグ方式

KC-130によるF-35給油のビデオ
NASAによる空中給油の自動化試験(2002年)
F/A-18E/F同士のバディ給油

アメリカ海軍をはじめ多くの空軍及び海軍航空隊で採用されている方法[注 6]で、給油機側は先端に漏斗状のエアシュートが付いたホース(ドローグ)を伸ばし、被給油機側が漏斗の内側にパイプ(プローブ)を挿し込み給油を受ける。ホースアンドドローグ方式と呼ばれることもある。

主に艦載機で広く行われている、空中給油ポッドを搭載した戦闘機もしくは小型給油機(既存の艦上攻撃機艦上対潜哨戒機を改造)を用いたバディ給油もこの応用である。このバディ給油は、大型の空中給油機では危険な敵勢力圏内での実施を想定したものである。

プローブの位置合わせに技量が必要なことが問題となっているため、NASAでは給油時に自動で機体を制御する研究「AAR」を行いF/A-18の改造機で実地テストも実施した[1]

航空自衛隊では一部のC-130Hにプローブアンドドローグ方式の空中給油ポッドの増設や空中給油受油能力の付与を行い、KC-130Hとして運用している。

プローブアンドドローグ方式の利点

  • 設備はポッドに収められるほど小ぶりであるため、フライングブーム方式に比べ比較的簡単な改造で給油機にできる。
  • 給油機側は特別な操作を行う必要が無く単に給油ホースを垂らすだけであり、そのための操作員も不要。
  • 給油機のホースを増設することで複数機同時に給油ができる。
  • 給油ポッドを搭載すれば戦闘機同士での給油(バディ給油)が可能。
  • ヘリコプターへの給油[注 7]が可能。

プローブアンドドローグ方式の欠点

  • フライングブーム方式に比べ時間当たりに給油できる量が少ない。
  • 被給油機側がプローブを合わせる必要があり、高度な技術を要する。このため被給油機のパイロットの技術が未熟であり、かつ被給油機がヘリコプターなどの回転翼を持つ機体であった場合、ホースと回転翼が接触することにより損傷を受けるおそれがある。
  • フライングブーム方式に比べ気象の影響を受けやすい。装置を翼端に設置している場合は給油機から発生する翼端渦に被給油機が入らなければならなくなる。
  • プローブの周囲にはピトー管等の他機器が設けられている場合があり、ドローグの先端がそれらと接触するおそれがある。
  • プローブの先端から異物が侵入し、燃料に混じってエンジントラブルを起こすおそれがある。

プローブアンドドローグ方式に適した航空機

繊細な操縦が比較的容易で大型機に比べ必要な燃料が少ない小型機への給油に適する。

その他

HIFR

艦船から空中に飛行したままのヘリコプターへの給油は、HIFR(Helicopter In Flight Refuling)と呼ばれる。HIFRによる給油を受けるヘリは、艦船の上を並走しながら機上ホイストでワイヤを下ろして給油ホースを引き上げ、機内の給油口に接続する。給油は艦船側から圧送されるので手違いで燃料が艦上に振りそそぐことがないよう、ヘリは通常、右側に座る機長が位置を確認しやすい艦船の左舷側の海上を並んで飛行しながら行われる。

艦船側に着艦できる場所がない場合や、海況が悪く着艦に危険を伴う場合などに取られる方法であり、航空燃料と適切なポンプやホース類があれば艦船を改造することなく実施できる。

各国海軍では艦載ヘリコプターでは常にHIFRの訓練を行っている[注 8][2]イギリス海軍ではインヴィンシブル級軽空母に搭載された早期警戒ヘリコプターの哨戒時間を延長する為にHIFRを行っている。

ループドホース方式

ループドホース方式
B-50「ラッキーレディ・ツー」への給油

最初期にイギリスで開発された方式。前を行く被給油機側がフック付きワイヤーを、後ろの給油機側がホースと結ばれた重り付きワイヤーをそれぞれ引きながら飛び、両機が横滑りで交差してワイヤー同士を引っかけると、被給油機は給油機に横付けしながらホースを巻き取って給油口に接続し給油を行う。初期のKB-29などで採用されたほか、ロシアのTu-16戦略爆撃機は主翼端に送油・給油装置を取り付けて行っていたため翼端式とも呼ばれる。ただしその曲芸じみた操作から確実性が低く、鈍重な爆撃機では困難だったことから、現在は使用されていない。


注釈

  1. ^ 例えばイギリス空軍のVC-10の場合、胴体に4基のエンジンが集中しているため、戦闘機用の主翼下ポッドではエンジン排気に入る心配がなく給油を受けやすいが、大型機用の胴体内給油装置で給油を行うと被給油機側は4基分のエンジン排気をもろに浴びることになった。実際VC-10同士で給油を行った場合、被給油機側のT字尾翼にエンジン排気が直撃することで激しい振動が発生するため、着陸後に尾翼のファスナーが緩んでいないか全て点検しなければならなかったという。
  2. ^ フランス空軍で運用されているC-135Fは、今までフランス空軍の空中受油能力のある機体が全てプローブアンドドローグ方式だったため、アタッチメントを装着し基本的に常時プローブアンドドローグ方式で運用されている。
  3. ^ ステルス機の多くが用いているRAMなどの特殊塗装は比較的強度が低く空中で安定しないドローグでは機体外面に接触することで剥離が起きる可能性が高い。フライングブーム方式ではブームがほぼ安定しているのでこのような可能性は低い。
  4. ^ 被給油機側については、フライングブーム式の給油口にプローブを差し込むか、フライングブーム式給油口とは別に給油プローブを取り付ける。
    主に輸送機などの大型機で行われるが、イスラエル空軍F-4EやRF-4Eは、同時期に導入したA-4H/Nスカイホークと給油方法を統一するために機体背面のフライングブーム式給油口にプローブアンドドローグ式の給油ドローグを差し込んでボルト止めする改修を行っていた。
    なお、スペイン空軍のRF-4Cにも同型のボルト固定式プローブが装備された。
  5. ^ フライングブーム式給油口を後付けしたA-7DC-141Bは、給油口付近が膨らんだデザインになってしまっている。
  6. ^ アメリカ空軍でも初期はこの方式を戦闘機に採用したことがあった(F-100F-101F-104)。
  7. ^ 回転翼のホースへの接触を避ける細心の注意が必要。映画『パーフェクト ストーム』では暴風雨の中、KC-130から空中給油を受けようとして失敗、燃料不足で墜落する空軍州兵HH-60 ペイブ・ホークが登場する。
  8. ^ 米海軍ではHIFRを俗に「ハイ・ドリンク」と呼んでいる。

出典

  1. ^ Refueling Store on F/A-18 for AAR Project - NASA
  2. ^ 坪田敦史著、『軍用ヘリのすべて』、イカロス出版、2006年3月1日発行、ISBN 4871497895


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