小脳 小脳の概要

小脳

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/20 21:55 UTC 版)

脳: 小脳
脳の矢状断。緑色が小脳。
ヒトの脳の外側面。小脳は図の右下、紫色で示す部分。
脳内での小脳の位置(赤色で示す部分)。
左図は側面から、右図は正面から見たとき。
名称
日本語 小脳
英語 cerebellum
ラテン語 cerebellum
略号 Cb
関連構造
上位構造 菱脳、後脳
構成要素 小脳虫部、小脳半球、小脳片葉、小脳核など
動脈 上小脳動脈、前下小脳動脈、後下小脳動脈
画像
アナトモグラフィー 三次元CG
Digital Anatomist 左側面
右側面
内側面
前方
下方
後方
脳幹
冠状断(海馬采/脳弓)
水平断
傍矢状断
関連情報
IBVD 体積(面積)
Brede Database 階層関係、座標情報
NeuroNames 関連情報一覧
NIF 総合検索
MeSH Cerebellum
グレイの解剖学 書籍中の説明(英語)
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概要

脳の神経細胞の大部分は、小脳にあり、その数は1000億個以上である。小脳の主要な機能知覚と運動機能の統合であり、平衡・筋緊張・随意筋運動の調節などを司る。このため、小脳が損傷を受けると、運動や平衡感覚に異常をきたし、精密な運動ができなくなったり酒に酔っているようなふらふらとした歩行となることがある。小脳が損傷されると、そうした症状が起きるが、意識に異常をきたしたり知覚に異常を引き起こすことはない。このため、かつては高次の脳機能には関係がなく、もっぱら運動を巧緻に行うための調節器官だとみなされ、脳死問題に関する議論が起きた際も人の生死には関係がないので、小脳は脳死判定の検査対象から外すべきと主張する学者もいた。ところがその後、小脳がもっと高次な機能を有していると考えられる現象が相次いで報告[要出典]された。また、アルツハイマー病の患者の脳をPETで調べたところ、頭頂連合野や側頭連合野が全く機能していないにもかかわらず、小脳が活発に活動していることが判明した。アルツハイマー病の患者では例外なく小脳が活動しており、通常より強化されている。これは大脳から失われたメンタルな機能を小脳が代替していると考えられている。伊藤正男は、小脳は大脳のシミュレーターであって、体で覚える記憶の座と表現した[1]

小脳の傷害が運動障害を引き起こすことを最初に示したのは、18世紀生理学者たちであった。その後19世紀初頭〜中盤にかけて、実験動物を用いた小脳切除・病変形成実験が行われ、小脳傷害が異常運動・異常歩様・筋力低下の原因となることが明らかにされた。これらの研究成果に基づき、小脳が運動制御に重要な役割を果たすという結論が導かれたのである[2]

協調運動制御のため、小脳と大脳運動野(情報を筋肉に伝達し運動を起こさせる)および脊髄小脳路(身体位置保持のための固有受容フィードバックを起こす)を結ぶ多くの神経回路が存在する。小脳は運動を微調整するため体位に対し絶えずフィードバックをかけることで、これらの経路を統合している[2]

発生と進化

小脳の位置を様々な角度から見た動画。赤いところが小脳。
S. カハールによるニワトリ小脳のスケッチ。その構造や構成細胞は、ヒトを含む哺乳類とほとんど変化が無い。左上に見える、樹状の突起を伸ばした細胞がプルキンエ細胞である。

脳の発生は、胚発生の早期における前脳中脳菱脳の形成から始まる。菱脳は胚脳の最も尾側に位置し、ここから小脳の発生が起こる。菱脳から菱形部 (rhombomeres) と呼ばれる8つの隆起が形成され、このうち神経管(最終的に脳と脊髄になる)の翼板に位置する2つから小脳が発生する。

小脳を構成する神経細胞は2つの領域から発生すると考えられている。1つ目の領域は第四脳室上方に位置する脳室帯である。この領域からは、小脳皮質の主要な出力ニューロンであるプルキンエ細胞と深部小脳核神経細胞が作られる。2つ目の領域は外顆粒層として知られる領域である。この細胞層は小脳の外側を覆い、顆粒細胞を産生する。ヒトの場合、外顆粒層の顆粒細胞は出生後に内側に移動し、内顆粒層に到達する。この移動により、外顆粒層は成熟した小脳では消失している。これら2つの領域に加え、小脳白質からも神経細胞の発生があるかについては統一見解が得られていない。

小脳の系統発生学的起源は、古皮質 (archipallium) と呼ばれる最も原始的な脳の構成領域の1つにまでさかのぼる。小脳皮質の神経回路は、魚類から哺乳類に至る脊椎動物全般にほぼ共通した構造を持つ。これは小脳が全脊椎動物において重要な機能を果たしていることの証拠であると考えられている。


  1. ^ 立花隆『脳を究める』朝日文庫 2001年3月1日
  2. ^ a b Fine EJ, Ionita CC, Lohr L (2002). “The history of the development of the cerebellar examination”. Semin Neurol 22 (4): 375-84. PMID 12539058. 
  3. ^ Kingsley, R. E. (2000). Consise Text of Neuroscience (2nd edition ed.). Lippincott Williams and Wilkins. ISBN 0-683-30460-7 
  4. ^ Yamamoto T,Fukuda M,Llinas R:Bilaterally synchronous complex spike Purkinje cell activity in the mammalian cerebellum. Eur J Neurosci 13:327-339,2001
  5. ^ Gilman S (1998). “Imaging the brain. Second of two parts”. NEJM. 338 (13): 889-96. PMID 9516225. 


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