唐名 唐名の概要

唐名

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/15 06:33 UTC 版)

概要

8世紀前半、大宝律令養老律令により二官八省以下の職制が整備され、百官の職名が制定されていった前後からすでに、同様の職掌を有する唐風の職名および部署名を一種の雅称として用いることが行われていたが、唐風文化に心酔する藤原仲麻呂(恵美押勝)が政権を握ると、天平宝字2年(758年)百官名をすべて唐名で言い換えることになった(仲麻呂自らは新設した紫微中台皇太后宮職として紫微令を称した)。

天平宝字8年(764年)仲麻呂失脚後は旧に戻されたが、その後も官職の別名・雅称として唐風の官名が用いられることが多かった。奈良時代後半から平安時代にかけて生じた様々な令外の官についても、唐名がつけられた(蔵人頭検非違使などの令外官を置いた嵯峨天皇も唐風文化の心酔者であった)。

これらの唐名は、本家中国歴代王朝の職制と完全に一致するわけではないため、必ずしも一対一で置換ができるものではない。そのためいくつかの職においては重複するものがあり、逆にひとつの職に対し複数の唐名があるものも少なくない。

唐名は、除目における朝廷の正式な位記等に記されることこそ無かったが、書簡・日記漢詩など私的な文書には頻繁に用いられた。江戸時代になってからも武家官位に付随する雅称として存続し、明治維新で律令制が名実ともに終焉を迎えた後も、明治初期の太政官制に付随して引き継がれた。

明治18年(1885年)には内閣制度が発足するが、ここでも唐名の伝統は引き継がれ、内閣総理大臣を「首相」、外務大臣を「外相」などと呼んだ。また内閣制度とともに設置された枢密院議長を「枢相」、内大臣を「内府」とも呼んだ。

主な唐名の一覧

唐名は以下に挙げるものの他にも多数あった。なお、二官八省の官位を持つ者は卿と同様に唐名を用いた。例:中務大輔・中務少輔→中書。

部署名・官名 唐名(左右の官がある場合、原則として各々唐名の前に左右を付す)
天皇 南面之主(なんめんししゅ)、九五之尊(きゅうごしそん)、一人(いちじん)、金輪聖王(こんりんじょうおう)
皇后中宮 長秋宮(ちょうしゅうぐう)、椒房(しょうぼう)、椒庭(しょうてい)、椒掖(しょうえき)、椒風(しょうふう)、芣苢(ふい)、関雎之徳(かんしょしとく)、昭陽殿(しょうようでん)、螽斯(しゅうし)、陰教(いんきょう)、内則(ないそく)、鹿苑之関(ろくおんしかん)、樛木之詠(きゅうぼくしえい)、葛覃之詠(かったんしえい)
内裏 九重(きゅうじゅう)、禁中(きんちゅう)、紫禁(しきん)、九禁(きゅうきん) 、鳳禁(ほうきん)、鳳闕(ほうけつ)、魏闕(ぎけつ)、龍闕(りょうけつ)、象闕(ぞうけつ)、北闕(ほっけつ)、紫闕(しけつ)、紫庭(してい)、宸居(しんきょ)、丹墀(たんち)、龍図(りょうと)、瑶図(ようと)、蘿図(らと)、金輪(こんりん)、芸閣(げいかく)、鳳凰城(ほうおうじょう)、蓬莱宮(ほうらいきゅう) 、兄日(けいじつ)、姉月(しげつ)、鳳暦(ほうれき)
後宮 長秋宮(ちょうしゅうぐう)、長信宮(ちょうしんぐう)、堯母門(ぎょうぼもん)、蘭殿(らんでん)、蘭省(らんしょう)、椒園(しょうえん)、椒房(しょうぼう)、宮掖(ぐうえき)、掖庭(えきてい)、後庭(こうてい)
皇太子 東宮(とうぐう)、青宮(せいぐう)、昭陽(しょうよう)、少陽(しょうよう)、儲君(ちょくん)、鶴禁(かっきん)、前星(ぜんせい)、明両(めいりょう)、青闈(せいい)、儲闈(ちょい)、儲弐(ちょじ)、龍楼(りょうろう)、詹事(せんじ)
太上天皇 上九之尊(じょうきゅうしそん)、仙洞(せんとう)、芝砌(しせつ)、具茨山中国語版(ぐしさん)、茨山(しさん)、姑射山(こやさん)、藐姑射山(はこやさん)、射山(しゃざん)、姑射(こや)、脱屣(だっし)、虚舟(きょしゅう)、汾陽(ふんよう)、汾水(ふんすい)、茅闕(ほうけつ)、紫府(しふ)、丹台(たんだい)
皇太后 長楽宝(ちょうらくほう)
親王 大王(だいおう)、竹園(ちくえん)、蘭坂(らんはん)、蓮池(れんち)、梁園(りょうえん)、江都(こうと)、磐石(ばんじゃく)、宗枝(そうし)、天枝(てんし)、帝葉(ていよう)、藩王(はんおう)、藩邸(はんてい)、兎園(とえん)、龍岫(りょうしゅう)、淮南(わいなん)、天孫(てんそん)、瓊蘂(けいずい)、楽善(らくぜん)、延賛(えんさん)
内親王 湘陽(しょうよう)、牀黄之華(しょうこうしか)
摂政 摂籙(せつろく)、家宰(かさい)、大宰(たいさい)、納麓(のうろく)、負扆(ふほ)、垂衣(すいい)、大麓(たいろく)、曲阜(きょくふ)
関白 惣己百官(そうきひゃっかん)、博陸(はくろく)、執柄(しっぺい)、摂籙(せつろく)、阿衡(あこう)、太閤(大閤 たいこう)[1]
摂政関白 執政(しっせい)、執柄(しっぺい)、摂籙(せつろく)、博陸(はくろく)、補佐(ほさ)
神祇官 大常寺(だいじょうじ)
神祇伯 大常伯(だいじょうはく)、大常卿(だいじょうけい)、大卜令(だいぼくれい)、祠部尚書(しぶしょうしょ)
太政官 尚書省(しょうしょしょう)、鸞台(らんだい)、蘭省(らんしょう)、都省(としょう)、槐署(かいしょ)
太政大臣 相国(しょうこく)、司空(しくう)、太師(たいし)、太尉(たいい)、太保(たいほ)、太傅(たいふ)、太平侯(たいへいこう)、太閤(大閤 たいこう)[1]
左大臣 左府(さふ)、左丞相(さじょうしょう)、左僕射(さぼくや)、左太閤(さたいこう)、左相閤(さしょうこう)、左閤(さこう)
右大臣 右府(うふ)、右丞相(うじょうしょう)、右僕射(うぼくや)、右太閤(うたいこう)、右相閤(うしょうこう)、右閤(うこう)
内大臣 内府(だいふ、ないふ)、内丞相(ないじょうしょう)
大臣一般 丞相(じょうしょう)、相府(しょうふ)、僕射(ぼくや)、槐門(かいもん)、三槐(さんかい)、三台(さんだい)、三旌(さんせい)、蓮府(れんぷ)、蓮幕(れんばく)、黄閣(こうかく)、東閣(とうかく)、象岳(ぞうがく)、済川(さいせん)、塩梅(えんばい)
准大臣 儀同三司(ぎとうさんし)
大納言 亜相(あしょう、あそう)、亜塊(あかい) 、門下侍中(もんかじちゅう)
中納言 黄門侍郎(こうもんじろう)または略して黄門(こうもん)、門下侍郎(もんかじろう)
参議 宰相(さいしょう)、相公(しょうこう)、諌議大夫(かんぎたいふ)
少納言 尚書郎(しょうしょろう)、門下給事(もんかきゅうじ)
侍従 拾遺中国語版(しゅうい)
蔵人所 内謁者監、黄門署
蔵人頭 貫主貫首(かんず)、燕首
蔵人 侍中(じちゅう)、夕郎(せきろう)、夕拝郎(せきはいろう)、仙郎(せんろう)、紺蟬(こんせん)
外記 史官(しかん)、門下録事(もんかろくじ)、外史(がいし)、主書(しゅしょ)
大弁 大丞(だいじょう)
中弁 中丞(ちゅうじょう) 、司郎中(しろうちゅう)
少弁 司郎少丞(しろうしょうじょう)
大史 尚書都事(しょうしょとじ)、尚書主事(しょうしゅじ)、大都事(だいとじ)
中務省 中書省(ちゅうしょしょう)、紫微省(しびしょう)、殿中省(でんちゅうしょう) 、鳳閣(ほうかく)
中務卿 中書令(ちゅうしょれい)、紫微令(しびれい)、殿中監(でんちゅうかん) 、門下侍中(もんかじちゅう)
式部省 吏部省(りぶしょう)、李部(りぶ)
式部卿 吏部尚書(りぶしょうしょ)
治部省 礼部(れいぶ)、春官(しゅんかん)
治部卿 礼部尚書(れいぶしょうしょ)、大常卿(だいじょうけい)
民部省 戸部(こぶ)、地官(じかん)
民部卿 戸部尚書(こぶしょうしょ)
兵部省 兵部(へいぶ)、夏官(かかん) 、衛尉(えいい)
兵部卿 兵部尚書(へいぶしょうしょ) 、夏官尚書(かかんしょうしょ)、衛尉尚書(えいいしょうしょ)、衛尉卿(えいいけい)
刑部省 刑部(けいぶ)、秋官(しゅうかん)、大理(だいり)
刑部卿 刑部尚書(けいぶしょうしょ)、大理卿(だいりけい)
大蔵省 大府(だいふ)、大府寺(だいふじ)、天官(てんかん)、外官(がいかん)
大蔵卿 大府卿(だいふけい)、蔵部尚書(ぞうぶしょうしょ)
宮内省 工部(こうぶ)、冬官(とうかん)、司農寺(しのうじ)、殿中省(でんちゅうしょう)
宮内卿 工部尚書(こうぶしょうしょ)、禁省尚書(きんしょうしょうしょ)、司農卿(しのうけい)、光禄卿(こうろくけい)、殿中監(でんちゅうかん)、小府監(しょうふかん)
近衛府 羽林(うりん) 、親衛(しんえい)
近衛大将 羽林大将軍(うりんだいしょうぐん)、親衛大将軍(しんえいだいしょうぐん)、千牛大将軍(せんぎゅうだいしょうぐん)、虎賁大将軍(こふんだいしょうぐん)、大将軍(だいしょうぐん)、幕府(ばくふ)、幕下(ばっか)、大樹(たいじゅ)、柳営(りゅうえい)[2]
近衛中(少)将 羽林(うりん) 、羽林将軍(うりんしょうぐん)、羽林郎将(うりんろうしょう)、親衛中郎将(しんえいちゅうろうしょう)、千牛将軍(せんぎゅうしょうぐん)、千牛郎将(せんぎゅうろうしょう)、虎賁中郎将(こふんちゅうろうしょう)、亜将(あしょう)
近衛将監 衛長史(えいちょうし)、親衛校尉(しんえいこうい)、親衛軍長史(しんえいぐんちょうし)、参軍(さんぐん)、千牛長(せんぎゅうちょう)、録事(ろくじ)
近衛将曹 親衛録事(しんえいろくじ)、兵曹騎当(へいそうきとう)
兵衛府 武衛(ぶえい)、威衛(いえい)、鷹揚(おうよう)
兵衛督 武衛大将軍(ぶえいだいしょうぐん)、威衛大将軍(いえいだいしょうぐん)、鎮軍大将軍(ちんぐんだいしょうぐん)
兵衛佐 武衛将軍(ぶえいしょうぐん)、威衛将軍(いえいしょうぐん)、鎮軍将軍(ちんぐんしょうぐん)、鷹揚将軍(おうようしょうぐん)
兵衛尉 武衛長史(ぶえいちょうし)、武衛校尉(ぶえいこうい)、威衛長史(いえいちょうし)、鎮軍長史(ちんぐんちょうし)
兵衛志 武衛録事(ぶえいろくじ)、鎮軍録事(ちんぐんろくじ)
衛門府 金吾(きんご)、監府(かんぷ)、監門(かんもん)
衛門督 城門校尉(じょうもんこうい)、金吾大将軍(きんごだいしょうぐん)、監門衛大将軍(かんもんえいだいしょうぐん)、監門大将軍(かんもんだいしょうぐん)
衛門佐 金吾将軍(きんごしょうぐん)、監門衛将軍(かんもんえいしょうぐん)、監門将軍(かんもんしょうぐん)、金吾次将(きんごじしょう)、監門次将(かんもんじしょう)
衛門尉 金吾長史(きんごちょうし)、金吾少尉(きんごしょうい)、監門衛長史(かんもんえいちょうし)、録事参軍(ろくじさんぐん)
衛門志 金吾録事(きんごろくじ)、監門録事(かんもんろくじ)
大宰府 都督府(ととくふ)、大都督府
大宰帥 都督(ととく)、都督
大宰大弐 都督長史、都督大卿
大宰少弐 都督司馬、都督小卿
大宰監 都督録事、都督郎中、参軍事
大宰典 都督録事、都督主簿
国司(〜 太守(たいしゅ)、刺史(しし)[3]二千石(にせんせき)
国司(〜 長史(ちょうし)、別駕(べつが)
国司(〜 参軍事(さんぐんじ)、司馬(しば)
国司(〜 主簿(しゅぼ)
検非違使別当 大理卿(だいりけい)
検非違使尉 廷尉(ていい)
弾正台 霜台(そうたい)
弾正尹 御史大夫(ぎょしたいふ)
中宮大夫・皇后宮大夫 長秋監(ちょうしゅうかん)
大膳大夫 光禄卿(こうろくけい)
修理職 匠作(しょうさく)
修理大夫 匠作大尹(しょうさくたいいん)、将作監(しょうさくかん)、 将作大匠(しょうさくたいしょう)
玄蕃寮 鴻臚寺(こうろじ) 、崇玄署(すうげんしょ)、典客署(てんきゃくしょ)
玄蕃頭 鴻臚卿(こうろけい)
京職 京兆府(けいちょうのふ)、馮翊(ひょうよく) 、扶風(ふふう)
左京大夫・右京大夫 京兆尹(けいちょうのいん)
市司 市署(ししょ)
市正 市令(しれい)
兵庫頭 武庫令(ぶこれい)
馬頭 典厩(てんきゅう)
勘解由使 勾勘(こうかん)
位階 唐名(散官参照)
正一位 文散階、(武人)武散階
従一位 開府儀同三司、(武人)驃騎大将軍
正二位 特進、上柱国、(武人)輔国大将軍
従二位 光禄大夫、(武人)鎮軍大将軍
正三位 金紫光禄大夫、(武人)冠軍大将軍
従三位 銀青光禄大夫、(武人)雲麾大将軍
正四位 正議大夫、(武人)忠武大将軍
正四位下 通議大夫、(武人)壮武大将軍
従四位 太中大夫、(武人)宣威大将軍
従四位下 中大夫、(武人)明威大将軍
正五位 中散大夫、(武人)定遠将軍
正五位下 朝議大夫、(武人)寧遠将軍
従五位 朝請大夫、(武人)游騎大将軍
従五位下 朝散大夫、(武人)游撃将軍
正六位 朝議郎、(武人)游武校尉
正六位下 承議郎
従六位 奉議郎
従六位下 通直郎
正七位 朝請郎
正七位下 宣徳郎
従七位 朝散郎
従七位下 定議郎
正八位 給事郎
正八位下 徴事郎
従八位 承奉郎
従八位下 承務郎

  1. ^ a b 後に関白職を子弟に譲った前関白の称となる。さらに出家した前関白は「禅定太閤」「禅閤」という。
  2. ^ 職原抄』によれば本来は近衛大将に用いたものだが、源頼朝が右近衛大将(右大将)に任官後に征夷大将軍に就任したことから、以後は征夷大将軍の唐名としても扱われるようになる。
  3. ^ 受領名を唐名にする場合、国名は「○州」とした。例:美濃→濃州、三河→三州など。
  4. ^ 式部卿の唐名であるが、親王任官職であるため実質的な長官である式部大輔にも用いられるようになった。
  5. ^ 桧谷昭彦・江本裕校注『太閤記』岩波書店、新日本古典文学大系 60、1996
  6. ^ 乃至政彦 (2023年6月25日). “『「信長=男色家」に根拠なし…森蘭丸や前田利家を寵愛したという通説は後世の勝手な創作だった』” (jp). プレジデント社. 2023年7月17日閲覧。


「唐名」の続きの解説一覧




唐名と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「唐名」の関連用語

1
右僕射 デジタル大辞泉
100% |||||

2
吏部 デジタル大辞泉
100% |||||

3
左僕射 デジタル大辞泉
100% |||||

4
相府 デジタル大辞泉
100% |||||

5
羽林 デジタル大辞泉
100% |||||

6
100% |||||

7
司天 デジタル大辞泉
100% |||||

8
司辰 デジタル大辞泉
100% |||||

9
左相国 デジタル大辞泉
100% |||||

10
武衛 デジタル大辞泉
100% |||||

唐名のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



唐名のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの唐名 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS