主要部
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/17 21:36 UTC 版)
主要部と言語類型論
主要部先導型言語と主要部終端型言語
言語類型論では、統語論的な語順に基づく分類法を用いる学者もいる。すなわち、各言語における語順が定まっているという前提で、句構造が主要部先導型(=右枝分かれ)か主要部終端型(=左枝分かれ)かを比較・分類する研究法である。
例えば、フランツ・カフカ著の『変身』の冒頭文の英語訳を依存関係ツリーで示すと、次のようになる。
このツリー図の構造は右下がりになっており、英語が基本的に主要部先導型であることを示している。ただし、例外も一部ある。例えば、限定詞と名詞や、形容詞と名詞、そして主語と動詞[9]の関係は、主要部終端型になっている。
主要部先導型の句と主要部終端型の句が混在する構造は多くの言語に見られ、むしろ、完全にどちらかの型になっている言語はおそらく存在しない。しかし、ほぼ完全な主要部終端型言語の例として、日本語が挙げられる。
カフカの同じ文の日本語訳をツリー図にすると、次のようになる。なお、ここではレーマン式の注釈法を採用。
このツリー図の構造は右上がりであり、日本語が主要部終端型であることを示している。つまり、英語と日本語の語順は、ツリー構造という観点からすると、ほぼ逆だということになる。
主要部標示と従属部標示
言語類型論では、各言語における句が主要部標示か従属部標示かという、形態論的な比較・分類が行われることもある。主要部標示とは、従属部の性質が主要部の形態に影響を与える現象である。従属部標示とは、逆に主要部の性質が従属部の形態に影響を与える現象を指す。
例えば、英語の所有格を示す 's は、従属部(所有者)に付く(日本語の「の」も同様)。一方、ハンガリー語では、所有格マーカーが主要部名詞に付く[10]。
英語: | the man's house | |
ハンガリー語: | az ember ház-a (the man house-所有格) |
- ^ 主要部に関する一般的な説明については、Miller (2011:41ff.) を参照。
- ^ Xバー理論では、本来は語形変化・活用・時制などを担う要素として捉えられていた屈折詞(inflection)を主要部に据えた屈折句(inflectional phrase、略してIP)という概念を導入することにより、文も内心構造的であるという解釈を可能にした。つまり、SすなわちIPは、屈折詞を主要部とする屈折句だという考え方である。これにより、同じツリー構造を、最小の句から文全体までのあらゆる階層で適用できることになった。Xバー理論#文の構造およびen:Endocentric and exocentricも参照。
- ^ Zwicky (1985, 1993) と Hudson (1987) のやり取りを参照。
- ^ ここでは、限定詞が不要な(またはゼロ限定詞が使われている)複数形の例を紹介。限定詞の有無については、英語の冠詞、名詞句#限定詞なしの名詞句および名詞句#名詞句のツリー構造を参照。
- ^ ここで紹介しているような依存文法のツリー図は、例えばÁgel et al. (2003/6) で閲覧可能。
- ^ 単語そのものをラベルとして使用するのは、裸句構造(bare phrase structure、略してBPS)という考え方に準拠した表示法である。Chomsky (1995) を参照。なお、BPSは素句構造、最小句構造とも訳される。
- ^ Xバー理論では、to不定詞のtoも屈折詞(inflection)の1つで、よって、to句もinflectional phrase(IP)となる。
- ^ 屈折句(IP)の指定部には主語名詞句が入る。
- ^ ここでは、主語が動詞の従属部だという理論が採用されている。
- ^ Nichols (1986).
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