マインドフルネス マインドフルネスの概要

マインドフルネス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/12 10:16 UTC 版)

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心をリラックスさせたり、清めたり、思考を制御したり、不快感を即解決することではない[10]

概要

マインドフルネス(mindfulness)という用語は、仏教の重要な教えである中道の具体的内容として説かれる八正道のうち、第七支にあたるパーリ語の仏教用語サンマ・サティ(Samma-Sati、漢語:正念、正しいマインドフルネス)のサティの英訳である[11][12]。サンマ・サティは「常に落ちついた心の行動(状態)」を意味する[13]。サティはいくつかの仏教の伝統における重要な要素である[14][15]

仏教において、八正道として説かれる8つの教えは互いに有機的に関連し合った一つの修行システムであり、独立して行われることは想定されていない。八正道により「分離した自我」、孤立的に存在する実体的存在としての自我という(仏教において)誤った認識を解体し(無我)、全てが相互につながりあって生起している(縁起)という正しい認識に基づいて生きることができるようになると考えられ、正念もこのヴィジョンに基づいて理解され実践された[12][16]。正念は、人を苦しみからの完全な解放や悟りと呼ばれるものへと徐々に導いていく自己認識や智慧を発達させることに役立ち、「無我」や「無常」という真理を悟り解脱に至るための方法として実践されてきた[14][16]

近年の西洋におけるマインドフルネスの流行は、1965年にアメリカで移民国籍法が成立してアジアからの移民が増加したことを背景に、ドイツ生まれのスリランカ上座部仏教僧ニャナポニカ・テラ英語版やベトナム人のティク・ナット・ハンといった僧侶たちが、マインドフルネスが仏教の中心であると説き、英語でマインドフルネスに関する著作を多く書いたことに始まる[8][17]。医療としてのマインドフルネスは、を学んだアメリカ人分子生物学者のジョン・カバット・ジンが1979年にマサチューセッツ大学で、仏教色を排し現代的にアレンジしたマインドフルネスストレス低減法(MBSR)を始めたことが端緒となっており[18][17][19][20]、この新しい精神療法の基本理念は道元禅師の曹洞宗であった[21]。西洋には仏教的な前提がないか、かなり希薄であったこともあり、マインドフルネスは仏教の文脈や真理との関係、八正道の最初に置かれ修行の方向性の指針となる正(仏教の真理である四諦(苦・集・滅・道)や十二縁起の現法などを自覚する正しい見解、正しいヴィジョン)とも切り離され、「単体の注意のスキル」として受容され、展開した[22][23][13][16]。西洋の世俗的なマインドフルネスは、「わたし」を中心に据えた自己修養、自己成就、自己増進のためのものと理解され、実践されている[24]。MBSRは当初さほど注目されず、行動療法の一環として普及していった[13]。瞑想研究は1980年代以降、世界的に低迷が続いていた[13]

2000年代に入るとアメリカでは東洋の思想実践への興味が高まり、アメリカ現代社会に欠けている「『今』への集中」が仏教の思想実践に見られると考えられ、マインドフルネス瞑想が改めて注目されるようになった[13]。ニャナポニカ・テラに始まる潮流のもとで、今日では多くの研究者が、マインドフルネス瞑想とは「気づき」や「ありのままの注意」を重視する「洞察瞑想」であり、ヴィパッサナー瞑想とぼぼ同義であるとみなしている[17]。心理的・身体的健康や良好な人間関係、冷静な意思決定、仕事や学業への集中、全般的な生活の向上などに効果があるとして注目を集めている[17]

日本では、1993年に開催されたワークショップはあまり関心を集めなかったが、2016年にNHKでストレスの対処技法として特集が複数回放送される等、近年メディアで取り上げられる機会が増加した[13][25]。2016年後半には、Apple社のスマートフォン「iPhone」でヘルスケアアプリに「マインドフルネス」のカテゴリが追加されるなど、急速に一般に浸透しつつある[25]。それに伴いビジネス化も進み、マインドフルネスの名称を利用し、本来のマインドフルネスとかけ離れたあやしいものも出回っている[25]

反すう英語版心配は、うつ病不安のような精神疾患を引き起こす一因となるが[26][3]、マインドフルネスに基づく医学的な介入は、反すうや心配を減らすのに有効であると複数の研究が示している[26][27]

1970年代以来の臨床心理学精神医学は、様々な心理的な状態を経験している人々を助けるために、マインドフルネスに基づく多くの治療応用を開発してきた[20]。例えばマインドフルネスの実践は、うつ病の症状を和らげることや[28][29][30]ストレス[29][31][32]や心配を減らすこと[28][29][32]薬物依存への手当に用いられてきた[33][34][35]。また、精神病の患者に対する多くの治療効果も示し[36][37]、心の健康に関する問題を停めるための予防的な方策にもなっている[38]

異なる患者カテゴリーと、健康な成人および子供における、マインドフルネスによる身体的健康と精神的健康の両面への効果を、複数の臨床研究が記録している[3][39][40]。ジョン・カバット・ジンによるプログラムと、それに類似した方式のプログラムは、学校、刑務所、病院、退役軍人センターなどに広く採用されている。マインドフルネスのプログラムは、健康的な老化、体重管理、運動能力の向上、特別なニーズをもつ子供への支援、周産期への介入などへも適用されている。この分野でのより質の高い学術研究のために、より多くの無作為化比較研究と、研究における方法論の詳細が提供されること、より大きな標本数の使用が必要とされている[3][41]

瞑想

マインドフルネス瞑想は、今現在において起こっている物事に注意を向ける能力を発達させるプロセスを含んでいる[2][14][42]。臨床的にデザインされた世俗的なマインドフルネスでは、non-judgmental(判断を加えない)、present-centered(現在の瞬間を中心に置く)の2つが特に強調されている[43]。non-judgmental には、心理療法では「脱中心化」と呼ばれる自分の体験から少し距離を置く、またはスペースを作る技法に通じるものがあり、マインドフルネスの効果は、主にこの特質によると考えられている[43]。present-centered は、non-judgmental な「being あること」モードと judgmental な「doing すること」モードの対比として説明されることが多く、現在の瞬間を中心に置くことで、過去や未来への関連付けでの評価をやめ、今現在起きていることに注意を向ける[43]。マインドフルネスとは、いわば doing モードから being モードにギアをシフトすることであるとされ、心配事にとらわれて現在の瞬間から離れ、自分の行っていることや経験していることに無自覚なまま「自動操縦状態」に陥ってしまうことへの非常に有効な対策であると考えられている[43]

マインドフルネス瞑想をするためにデザインされた瞑想エクササイズが幾つかある。その一つは、背もたれがまっすぐな椅子に座るか、もしくは床やクッションの上に脚を組んで座り、目を閉じて、息が入ったり出たりする時の感覚に注意を向けるという方法である。その際に注意を向ける対象は、鼻孔の近くでの呼吸の感覚、もしくは腹部の動きのどちらかとする[44][45][1]。この瞑想実践では、実践者は呼吸をコントロールしようとせず、自分の自然な呼吸のプロセスやリズムにただ気づいていることを試みる[2]。これを行っている時、心が思考や連想へと流れていくことがよく起こる。それが起こった場合、実践者は、注意が散漫になっているということに受動的に気づき、偏った個人的な判断をせず受容的な仕方で、注意を呼吸へ戻す。

マインドフルネスを発達させるその他の瞑想エクササイズとしては、身体の様々な場所に注意を向けて、その時に起こっている身体の感覚に気づくというボディスキャン瞑想がある[2][1]ヨーガにおいて動きや身体感覚に注意を向けることや、歩く瞑想(ウォーキング・メディテーション)をすることも、マインドフルネスを発達させる方法となる[2][1]。今現在において起こっている、感覚、思考、感情、動作などに注意を向けることもできる[2][42]。この点で有名なエクササイズは、ジョン・カバット・ジンがマインドフルネスストレス低減法のプログラムで導入した、レーズンをマインドフルに味わうというものであり[46]、そこではレーズンが注意深く味わわれ食されている[47][注釈 1]

瞑想者は、1日に10分間ほどの短い時間で瞑想を始めるよう推奨される。定期的に実践するにつれて、呼吸に向けられた注意を保つことは容易になっていく[2][48]


注釈

  1. ^ See also Eating One Raisin: A First Taste of Mindfulness for a hand-out file
  2. ^ mindfulnessという英単語は、「心にかける、忘れずにいる、気をつける、注意深い」という意味の形容詞である: mindful[51]名詞[52]であり、英語における意味は「注意していること、忘れないこと[52]」。
  3. ^ 動詞: saratiに由来し“to remember”(思い出す、記憶している[54]を意味する)を意味するsatiは、記憶という観念と結びつけて説明されることが今でも時々ある。しかしsatiが瞑想実践との関連で用いられるときは、そのsatiが指す意味を的確に表す英単語は無い。初期の翻訳者は巧みにmindfulnessという英単語を用いたが、この語は私の辞書にさえも無い。この語は立派に役割を果たしてきているが、「記憶」との関係を保持しておらず、意味を成すためには文章の一節を必要とすることも時々あった[69]」。
  4. ^ Vipassana movementの指導者によって教授されたヴィパッサナー瞑想は、西洋のモダニズムに影響を受け且つそれに反発して19世紀に開発されたものである[91][92]Buddhist modernismも参照。
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