オキナワモズク 人間との関わり

オキナワモズク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/02 22:11 UTC 版)

人間との関わり

おきなわもずく/塩蔵/塩抜き[15]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 27 kJ (6.5 kcal)
2.0 g
糖類 0
食物繊維 2.0 g
0.2 g
飽和脂肪酸 0.05 g
一価不飽和 0.02 g
多価不飽和 0.04 g
0.02 g
0.02 g
0.3 g
トリプトファン 5 mg
トレオニン 16 mg
イソロイシン 13 mg
ロイシン 24 mg
リシン 14 mg
メチオニン 9 mg
シスチン 5 mg
フェニルアラニン 16 mg
チロシン 12 mg
バリン 17 mg
アルギニン 16 mg
ヒスチジン 6 mg
アラニン 20 mg
アスパラギン酸 31 mg
グルタミン酸 33 mg
グリシン 17 mg
プロリン 16 mg
セリン 16 mg
ビタミン
ビタミンA相当量
(2%)
18 µg
(2%)
220 µg
リボフラビン (B2)
(8%)
0.09 mg
ナイアシン (B3)
(0%)
0 mg
パントテン酸 (B5)
(0%)
0 mg
ビタミンB6
(0%)
0 mg
葉酸 (B9)
(1%)
2 µg
ビタミンB12
(0%)
0 µg
ビタミンC
(0%)
0 mg
ビタミンD
(0%)
0 µg
ビタミンE
(1%)
0.1 mg
ビタミンK
(17%)
18 µg
ミネラル
ナトリウム
(16%)
240 mg
カリウム
(0%)
7 mg
カルシウム
(2%)
22 mg
マグネシウム
(6%)
21 mg
リン
(0%)
2 mg
鉄分
(2%)
0.2 mg
(1%)
0.01 mg
マンガン
(0%)
0.01 mg
セレン
(1%)
1 µg
他の成分
水分 96.7
ヨウ素 140 μg
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)

食用

オキナワモズクは南西諸島で古くから食用とされており、天然藻体を酢の物天ぷら味噌ピーナッツ和えとして食べてきた[2](下図)。琉球王朝薬膳料理としても、オキナワモズクの酢の物や天ぷらが記録されている[2]

食用とされるオキナワモズク
奄美料理の揚げ物3種(左からもずく天ぷら、糯米天ぷら、あおさ天ぷら)

養殖技術が確立すると(下記参照)、オキナワモズクは産業規模で利用されるようになり、特にパック入りの酢モズクが全国に広く流通している[2]。塩蔵または生のオキナワモズクを利用した料理として、かき揚げ天ぷら)や雑煮カルパッチョ餃子ヒラヤーチー味噌汁などがある[16][17][18]。また中国では乾燥地に生育する群体性藍藻である髪菜が縁起物の食材とされているが、この種は2000年以降採集禁止とされており、オキナワモズクがその代用食材とされることがあり、「海鮮髪菜」、「美海髪菜」ともよばれる[19][20]

成分

オキナワモズクは低カロリーであり、ミネラル食物繊維に富む[21](右表)。

特に注目され、健康食品などにも利用される成分として、フコイダンフコキサンチンがある[22]。ただしこれらの成分はオキナワモズクに特有ではなく、他の褐藻にも含まれる。

フコイダンは細胞外被のぬめり成分に含まれ、フコースからなる主鎖に硫酸基ウロン酸ガラクトースなどの単糖が側鎖として結合した多糖類である[23]褐藻に広く見られるが、種によって側鎖などの構造が異なる[23]。抗血栓作用、抗炎症作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、免疫調整作用などさまざまな生理活性作用が報告されており、健康食品化粧品などに幅広く使用されている[23]ワカメアラメアカモクなど他の褐藻にくらべて、オキナワモズクはフコイダン含量が多いことが報告されている[24]

褐藻などに含まれるカロテノイドの1つであるフコキサンチンは、抗酸化作用や抗肥満作用、抗腫瘍活性などの有用な生理活性が報告されている[25]。ただし褐藻の中で、オキナワモズクのフコキサンチン含量は多くはない[26]

養殖

元来、オキナワモズクは天然の藻体が採取され、利用されていた。天然藻体収穫量は、1977-1983年の間に最大2,292トン/年であったが、下記のような養殖技術の確立とともに天然藻体の利用は漸減している[2]。しかし、天然藻体は養殖藻体にくらべて粘液量が多く枝が太いなどの特徴があるため根強い需要があり、2012年現在でも100トン前後が水揚げされている(主に久米島八重山[2]

1972年頃から沖縄県鹿児島県水産試験場においてオキナワモズクの養殖技術開発が進められ、1977年頃には生産が拡大し、1990年には生産量が10,000トンを超え、その後はおよそ10,000トンから20,000トンの間を推移している[27][28][29]。2019年現在、日本のモズク類生産の90%以上は、沖縄県で養殖されるオキナワモズクが占めている[30][31](下表)。

日本におけるモズク類の生産量(トン
全国(モズク類)[30] 沖縄県(オキナワモズク)[31] 沖縄県(モズク[31]
2017 19,392 17,392 680
2018 22,036 20,313 718
2019 16,470 15,228 517
2020 ? 22,357 550
2021 ? 18,541 737

オキナワモズクの養殖の方法は、次第に改良されている[32]。2012年現在では、まず養殖用の網に遊走子を付着させ、これを中間育成した後に本養殖する[2][33]。養殖場に設置して遊走子を自然に着生させたビニールシート(天然採苗)や、室内培養したフリー盤状体(微小な胞子体)(人工採苗)を、水槽内で養殖網とともに10日から14日間通気培養することによって、網に遊走子を付着させる(種付け)[2][5][33]。種付けした網は、5-10枚を重ねて中間育成漁場(「苗床」とよばれる)の海底に設置し、胞子体が長さ1-5センチメートルになるまで50-60日間育苗する[2][5][33]。この中間育成をすることにより、胞子体の初期生長(「芽だし」とよばれる)が格段に向上する[2]。中間育成した網は本張り漁場に移動し、海底から40-50 cmの深さに1枚ずつ張り、約60日間養殖する(本養殖)[2][5][33]。天然採苗は8-11月、種付けは11-2月、中間育成は12-3月、本養殖は1月から5月であり、4月から6月に収穫される[33]

上記のように沖縄におけるオキナワモズク収穫の最盛期は4月から6月であり、その普及のため4月の第3日曜日を「もずくの日」としている[3]

長さ30センチメートル程度まで成長し、ある程度硬くなった状態(「熟」とよばれる)の藻体は、船上から吸引ポンプ用いて収穫される[2][33]。漁港に水揚げされたものは検量され、加工場内で洗浄・選別される[33]。その後容器に塩蔵、冷凍保存、二次加工メーカーへ出荷され、味付けモズクなどに加工される[2][33]。塩蔵・冷凍せずに冷蔵して出荷される生モズクも一部流通しており、またフコイダンなどの成分抽出原料としても利用されている[2][33][34]

オキナワモズクが養殖されるようになると、沖縄県水産海洋技術センターは、収量が高いなどの優れた特徴をもつ株の探索を行った[5]。その結果、収量が大きく食感が柔らかい有望株が選抜され、2015年に「イノーの恵み」の名で品種登録された(「イノー」はサンゴ礁に囲まれた礁池のことであり、しばしばオキナワモズクの養殖場所とされる)[5][6]。この株は伊平屋から単離されたものであり、S-strain(試験場株)ともよばれる[13][35]


注釈

  1. ^ a b ただし標準和名でフトモズクとよばれるものは別種(Tinocladia crassa)である[4]
  2. ^ a b ただしモズクNemacystus decipiens)のことをホンモズクとよぶこともある[4]

出典

  1. ^ Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2021年). “Cladosiphon okamuranus”. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. 2021年10月11日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 須藤祐介 (2012). “オキナワモズク”. In 渡邉信(監). 藻類ハンドブック. エヌ・ティー・エス. pp. 575-579. ISBN 978-4864690027 
  3. ^ a b c d e f g もずくとは”. 沖縄県もずく養殖業振興協議会. 2021年10月14日閲覧。
  4. ^ a b 鰺坂哲郎 (2012). “モズク、イシモズク、フトモズク、クロモ、キシュウモズク”. In 渡邉信(監). 藻類ハンドブック. エヌ・ティー・エス. pp. 580-584. ISBN 978-4864690027 
  5. ^ a b c d e f 岩井憲司 (2016). “オキナワモズクの品種登録:「イノーの恵み」”. 豊かな海 38: 8-10. http://www.yutakanaumi.jp/assets/file/pdf/yutakanaumi/No038.pdf. 
  6. ^ a b “モズク有望種、品種登録 「イノーの恵み」、生食にも”. 琉球新報. (2015年10月28日). https://ryukyushimpo.jp/news/entry-161753.html 
  7. ^ a b c d e f g h 新村巌 (1993). “オキナワモズク”. In 堀輝三. 藻類の生活史集成 第2巻 褐藻・紅藻類. 内田老鶴圃. pp. 20-21. ISBN 978-4753640584 
  8. ^ a b c d e f g h i j 吉田忠生 (1998). “おきなわもずく属”. 新日本海藻誌. 内田老鶴圃. pp. 240-241. ISBN 978-4753640492 
  9. ^ 新村巌「オキナワモズクの養殖に関する研究-III:中性複子嚢の遊走子の発生」『日本水産学会誌』第40巻第12号、日本水産學會、1974年、1213-1222頁、doi:10.2331/suisan.40.1213ISSN 0021-5392NAID 130001548704 
  10. ^ a b 新村巌 (1975). “オキナワモズクの養殖に関する研究-IV 単子嚢の遊走子の発生”. 日本水産学会誌 41 (12): 1229-1235. doi:10.2331/suisan.41.1229. 
  11. ^ 新村巌「オキナワモズクの養殖に関する研究-V : 配偶子の接合と接合子の発生」『日本水産学会誌』第42巻第1号、日本水産學會、1976年、21-28頁、doi:10.2331/suisan.42.21ISSN 0021-5392NAID 130000920036 
  12. ^ Nishitsuji, K., Arimoto, A., Iwai, K., Sudo, Y., Hisata, K., Fujie, M., ... & Shoguchi, E. (2016). “A draft genome of the brown alga, Cladosiphon okamuranus, S-strain: a platform for future studies of ‘mozuku’biology”. DNA Research 23 (6): 561-570. doi:10.1093/dnares/dsw039. 
  13. ^ a b Nishitsuji, K., Arimoto, A., Yonashiro, Y., Hisata, K., Fujie, M., Kawamitsu, M., ... & Satoh, N. (2020). “Comparative genomics of four strains of the edible brown alga, Cladosiphon okamuranus”. BMC Genomics 21 (1): 1-12. doi:10.1186/s12864-020-06792-8. 
  14. ^ 吉田忠生 (1998). “もずく属”. 新日本海藻誌. 内田老鶴圃. p. 275. ISBN 978-4753640492 
  15. ^ おきなわもずく”. 食品成分データベース. 文部科学省. 2021年10月15日閲覧。
  16. ^ もずくのレシピ”. 沖縄県もずく養殖業振興協議会. 2021年10月16日閲覧。
  17. ^ もずく料理”. 沖縄県漁業協同組合連合会. 2021年10月16日閲覧。
  18. ^ オキナワモズク”. ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑. 2021年11月3日閲覧。
  19. ^ 折原司 (2005). “輸出先進地域を行く モズク”. aff 2005 (2): 22-23. https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/torikumi_zirei/pdf/aff2005_02.pdf. 
  20. ^ 金城 清 (2004). “これからの産業振興と諸問題”. 南方資源利用技術研究会 総会・特別講演会資料 18: 9-16. http://okinawa-repo.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/20.500.12001/16535. 
  21. ^ 健康食材「もずく」”. 沖縄県もずく養殖業振興協議会. 2021年10月16日閲覧。
  22. ^ オキナワモズク(本もずく)”. 沖縄科学技術大学院大学. 2021年10月16日閲覧。
  23. ^ a b c 長嶺竹明 (2012). “フコイダンの生理活性と新規フコイダンELISA測定法”. In 渡邉信(監). 藻類ハンドブック. エヌ・ティー・エス. pp. 709-715. ISBN 978-4864690027 
  24. ^ 森本真由美、上田京子、黒田理恵子「福岡県産養殖フトモズクTinocladia crassa (Suringar) Kylinの フコイダン量の変動及びその構成成分」『Algal Resources』第10巻第2号、日本応用藻類学会、2017年、67-74頁、doi:10.20804/jsap.10.2_67ISSN 1883-3284NAID 130007785638 
  25. ^ 宮下和夫 (2012). “海藻の生理活性カロテノイド”. In 渡邉信(監). 藻類ハンドブック. エヌ・ティー・エス. pp. 699-708. ISBN 978-4864690027 
  26. ^ 嘉手苅崇,諸見里聡, 直木秀夫 & 安元健「沖縄産褐藻類における健康機能成分フコキサンチンおよびブコステロールの含量分布と利用技術開発」『南方資源利用技術研究会 研究発表会・特別講演会』第24巻、2004年、2-3頁。 
  27. ^ “モズクの生産量が最高 2万2907トン 好天、水温安定で豊作”. 琉球新報. (2021年8月4日). https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1168273.html 
  28. ^ もずくの話し、7。沖縄県のもずく生産量は日本一と同時に世界一”. イトサン (2021年3月27日). 2021年10月17日閲覧。
  29. ^ (養殖)もずく類の収穫量”. ieben 家勉キッズ. 2021年10月15日閲覧。
  30. ^ a b 養殖魚種別収獲量(種苗養殖を除く。)”. e-Stat. 2021年10月22日閲覧。
  31. ^ a b c “モズク生産量15%減 21年県産 台風2号影響”. 沖縄タイムス. (2021年8月14日). https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/804000 
  32. ^ 諸見里聰、増田篤稔、洞口公俊、村上克介「オキナワモズクの採苗と育苗技術の変遷」『Eco-engineering= 生態工学』第17巻第1号、生態工学会、2005年1月、23-26頁、doi:10.11450/seitaikogaku.17.23ISSN 13470485NAID 10014380329 
  33. ^ a b c d e f g h i もずく養殖の流れ”. 沖縄県もずく養殖業振興協議会. 2021年10月16日閲覧。
  34. ^ 沖縄県漁連モズク加工場内・冷蔵施設完成”. 沖縄県漁業協同組合連合会. 2021年10月16日閲覧。
  35. ^ Hwang, E. K., Yotsukura, N., Pang, S. J., Su, L. & Shan, T. F. (2019). “Seaweed breeding programs and progress in eastern Asian countries”. Phycologia 58 (5): 484-495. doi:10.1080/00318884.2019.1639436. 


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