GRBとは何か?
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/30 01:34 UTC 版)
「ガンマ線バースト」の記事における「GRBとは何か?」の解説
GRB 990123 の明るさと推定される距離とから、二つの可能性が考えられる。 第一は、このガンマ線バーストの放射は等方的に広がったというものである。これによると、バーストで放出されたガンマ線のエネルギーは太陽質量の1.3倍の恒星の質量を全てガンマ線の放射に完全に変換した場合に生み出されるエネルギーに等しい。可視光の波長では、もしこのバーストが我々の銀河系内の2000光年の距離で起きたとすると、太陽の2倍の明るさで輝いて見えることになる。 同様の議論は1997年に観測された GRB 971214 についても行なわれている。GRB 971214 も HST によって残光の位置に暗い銀河が発見されており、この銀河の赤方偏移が 3.4(距離に換算して約120億光年)と求まっている。この距離でバーストが起き、エネルギーが等方的に放出されたと仮定すると、そのエネルギーは通常の超新星爆発の数百倍に達し、バースト源の周囲100マイルの領域はビッグバンの1ミリ秒後に匹敵する温度に達したことになる。 もう一つの可能性は、ガンマ線は等方的な分布ではなく狭い領域に細く絞られて放出された、とするものである。この場合でも大きなエネルギー放出になるが、それは超新星と同等となり、それゆえ奇妙な物理過程をあまり必要とせずに済む。 天体物理学者たちは、バーストのパワーを完全に説明できる説得力のあるメカニズムを考え出す挑戦をしている。様々な考えの一つに、中性子星同士、あるいは中性子星とブラックホールとの衝突によって説明できるとする。また別の考え方では、バーストは極超新星によって起こるとするものもある。 詳細は「極超新星#ガンマ線バーストとの関係」および「中性子星#中性子星の形成」を参照 ハッブルの観測によって GRB 990123 に若い銀河が付随しているとわかり、超新星説にデータを加えた。これは、バーストが中性子星や他のコンパクト天体の衝突によって生じると考えていた衝突モデルの理論家達を失望させた。なぜなら、衝突説ではコンパクト天体がかなり高い個数密度で存在している必要があるが、これは若い銀河とは矛盾するからである。一方で超新星は星形成の盛んな若い銀河では頻繁に起こる。超新星爆発を起こして死を迎えるような大きな星は寿命が短いためである。 しかし、超新星説モデルもエネルギー生成の理論で困難があった。問題を避ける方法の一つに、バーストのエネルギーは全方向に等しく放射されるのではなく、星の回転軸方向だけに放出されると仮定する方法がある。これは激しい活動性を見せるある種の恒星や銀河が、決まった方向に高エネルギーの宇宙ジェットを放出するのと似ている。 バーストの強力な光度に対する別の説明として、バーストの光は地球と GRB の間にある大きな銀河によって作られる空間の歪みによる重力レンズで集光されているとするものもある。この重力レンズモデルは、実際に地球と GRB の間に銀河があると示唆する観測結果により当初支持された。しかしこの「銀河」は後に、撮像時の傷と分かった。そのために重力レンズ説が完全に否定されたわけではないが、イェール大学のブラッドリー・E・シェーファーが、赤方偏移 1.6 という距離での銀河の密度を考えると、重力レンズが起こる確率は 1/1000 程度にしかならないだろうと指摘し、この説に対する興味は薄れていった。 プリンストン大学のボーダン・パチンスキーとカリフォルニア大学サンタクルーズ校のスタン・ウーズレーはそれぞれ独立に、超新星爆発では爆縮によってブラックホールが作られる時にガンマ線のエネルギーが細いビームとなって放出され、この集中したビームによって実際よりもエネルギーの大きい現象として観測される可能性があると指摘した。爆縮でこのようなビームが作られる過程はいまだに謎である。しかし、2001年秋に発表された17個の GRB の残光の解析から、ビームの幅について上限が与えられた。これによれば、ビームの幅はわずか数度の角度範囲に限られる。このような細いビームとして放射されるなら、GRB のエネルギーは 1044 J の数倍のオーダーとなり、平均より少し規模の大きな超新星でエネルギーをまかなえる。 細いビームでガンマ線が放射されていると、おそらく500個に1個程度の GRB しか地球からは観測されず、GRB は実際には宇宙でごくありふれた現象であり、毎分1回程度は起きていると見積もれる。となると、ガンマ線バーストに続いて起こる残光現象だけが見られる「親なしの残光」を観測できるかもしれない。 GRB の明るさは短時間で変化するから、バースト源の天体(もしくは発生領域)は非常に小さいと考えられる。天体の一部から起きた変化は光速を超えずに天体全体に及ぶが、天体が大きければその分時間がかかる。明るさの変化がどのような原因でも、短時間で天体全体の明るさが変化できるなら、天体は大きくはないと考えられるからである。非常に高密度の環境では光子は外へ逃げ出せないため、天文学者たちは最初天体から物質のジェットとしてエネルギーが放出され、ガンマ線は天体からある程度離れた領域で内部衝撃波によって作られると理論付けている。 GRB が超新星と関連する直接的な証拠もある。超新星爆発の爆縮過程によって広い範囲の重元素が合成され、とりわけニッケルの同位体は非常に不安定なためごく短い時間で崩壊し、放射線を出す。これによって、超新星は爆発の数日後、あるいは数週間後により明るくなる。 2001年11月21日、BeppoSAX はある GRB を捉えた。これはハッブル宇宙望遠鏡によって観測され、GRB 011121 の進化が長期間にわたって追跡された。観測で得られた光度曲線は超新星の光度変化モデルと一致した。しかし GRB 011121 のスペクトルは得られなかったため、超新星とのつながりは結論付けられなかった。
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