1997年の消費税増税の影響
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「日本の消費税議論」の記事における「1997年の消費税増税の影響」の解説
「法人税#法人税率」、「法人税#税収の推移」、「所得税#税率の推移」、および「所得税#税収の推移」も参照 1997年の消費税増税のその後、税収全体は1997年には50兆円強あったところから、2011年には40兆円強というところまで約10兆円減った。1997年の消費税増税後、日本経済のデフレ不況が深刻化し、法人税や所得税が減ったため、税収は1997年の水準を一度も回復していない。1998年(平成10年)、1999年(平成11年)の所得税・法人税の税収減については、法人税(両年)・所得税(1999年(平成11年)のみ)の双方で減税が実施されているため、それによる減収分も含まれている。当時の首相であった橋本龍太郎は後に「私は平成9年から10年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くおわびしたい」「財政再建のタイミングを早まって経済低迷をもたらした」との自責の念も示している。 八田達夫は、1997年の消費税率引き上げが家計の資金制約に影響を与え、半耐久消費財・耐久消費財、住宅投資を下落させたとしている。住宅着工件数は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が増加した1996年には、バブル期並みの164万戸まで拡大した一方で、1997年以降は駆け込み着工による反動・景気後退により、1997年は139万戸、1998年は120万戸、1999年は121万戸と急減している。 安達誠司は「1997年の日本は消費増税を実施後に大不況を経験し、その後15年超にも及ぶデフレのきっかけとなったが、これも消費増税が理由か否かは必ずしも明確ではない。多数の専門家は同年夏に発生したアジア通貨危機の影響の方がはるかに大きいと結論づけており、アジア通貨危機がなければ、1997年の消費増税も景気に影響を与えなかっただろうと考えている」と指摘している。 経済学者の中里透は消費が急激に落ち込んだのは、金融システム不安定化(北海道拓殖銀行と山一證券の破綻)が生じた1997年(平成9年)11月以降であって、消費や生産の動向をみるかぎりは、消費税率の引き上げがその後の景気の落ち込みの主要因になったとは考えにくく、金融システムの不安定化にともなう景況感の悪化が、1997年末から1998年にかけての不況の深刻化をもたらしたとしている。そして留意点として、消費税率の引き上げや特別減税の廃止等の負担増が将来にわたる家計の可処分所得を減少させる要因として認識され、消費抑制に影響した可能性があるとしている。よって消費税率引き上げは将来にわたる家計の可処分所得の減少要因として認識された可能性はあるものの、消費への影響は限定的であると指摘している。 森信茂樹は、竹中平蔵らが提唱する消費増税が歳入を増やすことはないとする説は間違っていると主張している。森信によれば、1997年の消費増税後の歳入が増加しなかった理由は、小渕政権における減税(所得税・法人税)と小泉政権における財源の地方移譲が、消費増税による歳入の増加分を打ち消したからであるという。 竹中平蔵は「1995-1996年の日本経済は、一種のミニ・バブル状態であった。1997年の消費税率引き上げによって経済が悪化したという一部の指摘は誤りであり、ミニ・バブルの崩壊が原因である」と指摘している。 元日銀審議委員の中原伸之は1997年以降の不況の原因について「『増税ではなくアジア通貨危機などの金融危機である』という人がいるがまったく逆である。そのようなリスクを予想しないで増税したことで、金融危機が来たときに日本経済はもろくもやられてしまった。それが引き金で山一証券などの大型倒産に発展した。国家経営も会社経営も、重要なのは不確実性に備えることである」と指摘している。 片岡剛士は「消費税率引き上げの経済に与える影響について、1997年の経験を考えると、経済に与える影響は一時的かつ小さいものとは考えられず、かつ早期の消費税率引き上げは緩やかな回復基調にある日本経済を、再び失速させる可能性が高い。1997年に消費税率を引き上げた際には消費税収は増加したものの、景気悪化により所得税収および法人税収が減ることで全体の税収は減少している」と指摘している。 高橋洋一は「消費税だけの増税面だけではなく他の税・財政支出と総合的に見るべきであり、1997年の消費税引き上げを捉えて、それだけが景気悪化の要因というのは適切ではない。ただし、消費税増税が他の所得減税などで相殺されてネットでは増税でなかったとしても、その後のアジア危機などの経済変動で景気が悪化したのも事実である」「1997年の消費税増税では景気に影響がなかったという学者が多いが、それは『増税して政府が使ったから景気の落ち込みはなかった』というのをキモとしている。そんなまともじゃない方法をとったせいで、その後の経済成長が上手くできなくなった点を見落としている」「アジア危機の震源地である韓国は、たしかに危機時は景気が落ち込んだが、少し経つと回復している。一方、日本は回復していない」と指摘している。 エコノミストのリック・カッツは当時の景気後退の71%は消費の3.5%縮小が招いたものだと見積もっている。 経済学者の田中秀臣は「1997年の消費増税で起こったのは、名目GDPが減少するという不況であり、それに伴い、結局税収全体が減るという事だった」「財務省は『消費税を上げると、翌年の税収がガクンと減るという論者がいるが、その後は穏やかに回復していく』と言う。財務省は、全体の税収の変化を見ずに、消費税収の変化だけをとらえて、消費税を増税すれば、税収が上がると言っている」と指摘している。 経済学者の若田部昌澄は「橋本龍太郎内閣だった1997年に、消費財の引き上げなどによって、約9兆円の国民負担の増加があった。これはそのときのGDP比で約2%であり、その後の景気後退に影響を与えたとみられている」「あのとき(1997年度に実施した消費増税)に不況に陥ったのはアジア通貨危機が主因だという話になっているが、負担の増加が悪影響をもたらしたことを否定できる人は少ない」と指摘している。 竹中平蔵は、1997年の消費税引き上げで経済が一気に悪化し、橋本政権の責任が問われたと指摘している。 経済学者の浅田統一郎は「1996年から1997年にかけてインフレ率が1年間だけ約2%上昇したが、それは、橋本政権下で消費税が3%から5%へ引き上げられたことを反映しており、このことが、その後のデフレ不況の悪化を助長させてしまった」と指摘している。 森永卓郎は「1997年の5%への引き上げの際、それ以後、15年に及ぶデフレが続き、名目GDPが1997年の時点より55兆円、率にして11%落ちた。その間に、日本の株式市場の株価や不動産価格は半値になってしまった」と指摘している。
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