自律調節
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/21 10:09 UTC 版)
脳の自律神経系による自律機能としては、心拍数と呼吸数の調節と周期統制、恒常性(ホメオスタシス)の維持といったものがある。 延髄の血管運動中枢(英語版)は血圧と心拍数に影響を及ぼし、動脈と静脈が静止していくぶん収縮した状態にする。これは迷走神経を介して交感神経系と副交感神経系に影響を及ぼすことで実現する。血圧に関する情報は大動脈弓の大動脈体(英語版)にある圧受容器で生み出され、迷走神経の求心性神経を通じて脳に伝わる。頸動脈洞での血圧変化に関する情報は総頸動脈の近くにある頸動脈小体から来て、舌咽神経につながる頸動脈洞神経(英語版)を介して伝えられる。この情報は延髄の孤束核(英語版)へ上る。ここからの信号は、それに従って静脈と動脈の収縮を調整するよう血圧運動中枢に作用する。 脳は主に延髄と橋の呼吸中枢で呼吸数を調整する。呼吸中枢は呼吸を調整するが、それは運動信号を生成して脊髄に下ろし、横隔神経を通じて横隔膜と呼吸筋へ伝えることで行なわれる。これは感覚情報を中枢神経へ送り返しもする混合神経である。呼吸中枢には4種類あり、うち3つはその機能が明確になっているが、持続性吸息中枢は機能があまり明確でない。延髄において、背側の吸息性ニューロンが集まっている領域は息を吸い込もうとする働きをし、体から直接に感覚情報を受け取る。同じく延髄において、腹側の呼息性ニューロンが集まっている領域は、運動中に息を吐こうとする働きをする。橋の呼吸調節中枢は一息ごとの長さに作用し、持続性吸息中枢は息の吸い込みに作用しているようである。呼吸中枢は血液の二酸化炭素濃度と水素イオン指数 (pH) を直接感知する。血液の酸素濃度、二酸化炭素濃度、pH は大動脈体と頸動脈小体の末梢性化学受容器(英語版)における動脈の血管壁でも感知される。この情報は迷走神経と舌咽神経を介して呼吸中枢へ伝えられる。二酸化炭素濃度の上昇、pH の低下、酸素濃度の低下は呼吸中枢を刺激する。息を吸おうとする作用は、肺の肺伸展受容器(英語版)からも影響を受け、それが活性化されている時は迷走神経を介して呼吸中枢へ情報を送ることにより、肺へ空気が入りすぎないようにしている。 間脳の視床下部は身体の多くの機能の調整に関わっている。具体的には、神経内分泌の調整、概日リズム(サーカディアンリズム)の調整、自律神経の統制、分泌液の調整、摂食行動、といったものがある。概日リズムは視床下部の2つの主な細胞群により統制されている。視床下部の前部には視交叉上核と視索前核(英語版)があり、後者は遺伝子発現の循環を通じて約24時間の概日時計を作り出しており、そこにおいて超日リズム(英語版)が睡眠パターンを統制している。睡眠は身体と脳にとって欠かせないものであり、身体の様々な系を沈静化させ休ませるものである。また日毎に蓄積する脳内の毒素が睡眠中に除去されることを示す知見がいくつかある。一方で脳は起きている時には身体のエネルギー消費全体の5分の1を消費する。睡眠はこのエネルギー消費を必然的に抑え、エネルギーを供給するATPを回復させる時間を与える。睡眠不足がもたらす影響は、睡眠欲が絶対的なものであることを示している。 外側視床下部(英語版)には、上行網様体賦活系への投射を通じて食欲と覚醒を制御するオレキシン神経がある。視床下部は、オキシトシン、バゾプレッシン、ドーパミンといったペプチドを正中隆起へ放出することにより、脳下垂体を制御する。自律神経の投射を通じて視床下部は、血圧、心拍数、呼吸、発汗、その他のホメオスタシスのメカニズム制御に関与する。視床下部は体温調節にも役割を果たし、免疫機構から刺激を受けて身体を発熱させることができる。視床下部は腎臓から影響を受け、血圧が下がると腎臓が分泌したレニンが渇水感を促す。また視床下部は、自律性のシグナルと消化器系統からのホルモン分泌に応じて、摂食行動(満腹感、空腹感)を調整する。
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