自律神経系の薬理学的基礎
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/22 00:54 UTC 版)
「自律神経系」の記事における「自律神経系の薬理学的基礎」の解説
交感および副交感神経線維は、1つの細胞またはニューロンだけから成る自発的な運動神経と対照して、「神経節前」及び「神経節後」神経細胞の両方がある。それらは神経節で会合し、シナプスの化学伝達物質アセチルコリン(ACh)により、神経インパルスが神経節で細胞から細胞へ伝達される。アセチルコリンは最初のニューロン(節前ニューロン)から放出され、2番目のニューロン(節後ニューロン)のニコチン型受容体に結合し、リガンド依存性Naチャネルを開き、脱分極を起こしてインパルスを発生、ニューロン末端で2番目の神経伝達物質を放出することによって、情報をシナプス後膜へ伝える。副交感神経系の2番目の伝達物質は同じくアセチルコリンであるが、交感神経系における2番目の伝達物質はノルアドレナリンが担う。副腎髄質を支配する神経は節前線維で終わる。普通、交感神経の節後線維からノルアドレナリンが放出されるが。機能的に見ると伝達物質を放出する代わりに副腎髄質からアドレナリン及びノルアドレナリンが分泌される。つまり副腎髄質自体が巨大な節後線維として働いていることとなる。神経節前自律神経細胞の細胞体は中枢神経系に位置し、交感神経系の細胞体は脊髄の内の胸随と腰随にあるのに対し、副交感神経系の細胞体は脳幹(頭蓋副交感神経=迷走神経などの脳神経の一部)と仙随(仙髄副交感神経)に位置している。 自律神経系の機能を担う、主な神経伝達物質はアセチルコリンとノルアドレナリンである。前述の通り、アセチルコリンは交感神経及び副交感神経の節前線維終末から放出され、ここでの受容体はニコチン性アセチルコリン受容体である。自律神経節では他にも、ムスカリン性アセチルコリン受容体、ドーパミン受容体等が存在することが知られており、これらは神経伝達物質というよりはむしろ神経修飾物質と呼ばれ興奮の伝達に関与していると考えられる。自律神経節のニコチン受容体をブロックするアンタゴニストとしてはトリメタファン、ヘキサメソウニウムが知られており、今日では使用は減ったものの、最も早くに導入された降圧薬である。アセチルコリン受容体にはニコチン性のものに加えて、他にムスカリン性受容体があり、これは副交感神経支配下の効果器に存在する。今日では、ムスカリン受容体はM1〜M5受容体というサブタイプが知られ、今後個々の臓器における、これらサブタイプの違いに基づくよりよい薬の開発等が期待されている。ムスカリン受容体の局在として、副交感神経終末以外に、汗腺支配下の交感神経終末がある。汗腺は原則として交感神経の一元的支配を受けているが、一方で伝達物質はアセチルコリン、受容体はムスカリン性アセチルコリン受容体であるという点で、特徴的である。ムスカリン受容体拮抗薬は、循環器、消化器薬として知られるアトロピンが有名である。近年、マクロファージの細胞表面にニコチン受容体が存在しており、マクロファージの炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-1など)産生、放出に抑制的に作用することが明らかになっている。このニコチン受容体はその後の解析でα7ニコチン受容体であることが判明し、炎症を伴う種々の病態、すなわち敗血症や関節リウマチ、潰瘍性大腸炎などの新たな薬物治療のターゲットとして期待されている。 ノルアドレナリンは交感神経終末から放出され、副腎髄質からアドレナリンとともに分泌される。アセチルコリン同様に、(ノル)アドレナリンの受容体にも、サブタイプが存在することが知られ、α受容体とβ受容体に大別される。交感神経が各器官に及ぼす作用のうち、血管収縮はα受容体によって、心拍数増大はβ受容体によってそれぞれ媒介されている。このような、受容体の差異を考慮して、交感神経の作用を選択的に再現もしくは遮断するα/β作動薬もしくは遮断薬が臨床的にも応用されている。今日では、αはさらにα1、α2、βはβ1、β2、β3という下位のサブタイプが存在することが知られている。β1アドレナリン受容体は主に心臓に局在し心拍数増加、心収縮力増加を介し心拍出量を増やす。これを踏まえ、β受容体拮抗薬は心機能を抑制する目的で高血圧の患者に用いられる。逆に心不全のときには、心機能を補助する目的でβ受容体刺激薬が用いられる。β2は多くの平滑筋に存在するが臨床的には気管支拡張薬として重要である。β3アドレナリン受容体は、最も遅くに報告された受容体であるが、脂肪組織、膀胱、消化管等に限局して存在することが知られ、β3受容体を選択的に刺激する薬が開発されることで、心臓や気管支に作用することなく脂肪を効率的に減少させることができるのではないかと期待されている。 近年のトピックスのひとつに交感神経系の標的器官としての骨が挙げられる。動物モデルでは、交感神経系がβ2受容体を介して、骨形成に抑制的に関与していることβ遮断薬が骨形成に促進的に作用することが内外から報告されている。このメカニズムには脂肪組織から分泌されるレプチンの関与も示唆されており、神経-骨連関として注目されている。 交感神経の軸索はいわゆる交感神経幹として、脊柱のそれぞれの側で、22の神経節の鎖を為す。これらからの内臓の神経は、大動脈の正面の不対臓側動脈が分岐するあたりにある、脊椎前神経節へ続く。交感神経の左右の神経幹は、骨盤の領域で合流し不対神経節を形成する。自律神経線維により支配される器官は心臓、肺、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、胆嚢、および生殖器を含んでいる。また、これらの器官は心室以外は副交感神経系によっても支配される。結腸の後部までの消化器系の末端は骨盤神経節を通して仙骨の副交感神経線維を通して調節される。それより前の消化管は迷走神経支配を受ける。
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