経営統合の失敗と会社清算
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/05 14:13 UTC 版)
「JPエクスプレス」の記事における「経営統合の失敗と会社清算」の解説
統合計画については、時の日本郵政社長西川善文の肝煎りで進められたものである。日本郵政が取り扱うゆうパックは、宅配便業界大手2強のヤマト運輸・佐川急便に対し、市場シェアで劣勢であることから、配送コストの面において常に劣勢であり、そのためシェア拡大は喫緊の課題であった。一方、ペリカン便を運営する日本通運においても同様の課題を抱えていたことから、必然的に両者間による統合計画が進展したと言える。しかし、計画策定の過程で算出された「統合後5年間の事業収支予測」によると、統合された宅配便事業の累積赤字は単独806億円、連結943億円に達するという厳しいものであった。 これに対して西川善文は、事業収支予測を算出した郵便事業株式会社を厳しく叱責、その結果、郵便事業株式会社は当初の事業収支予測を改竄し、統合後4年目には黒字化を達成できるとした数字を再提出することを余儀なくされてしまう。2008年8月、郵便事業会社・日本通運の間で、統合のための最終契約である株主間契約書が締結された。 統合実施時期は「2009年4月1日」と決められたものの、ゆうパックとペリカン便、両者のシステムの差異はあまりにも大きく、統合作業は困難を極めることになる。そのため統合日時とされた2009年4月1日の時点では、JPエクスプレスはペリカン便のみの受け皿会社としての事業開始を余儀なくされた。ゆうパックについてはJPエクスプレスへの統合が延期となり、「2009年10月1日」と改めて発表されたものの、「かんぽの宿」譲渡問題や東京中央郵便局の再開発問題に端を発する鳩山邦夫総務大臣(当時)と日本郵政の対立のあおりで、総務省へのゆうパック統合申請は再三却下された。統合新ブランドについても未発表の状況が続いた。 2009年8月11日、更迭された鳩山に代わって任じられた佐藤勉は、西川善文と会談し、宅配事業の統合について延期するよう申し入れた。その理由として以下の点が挙げられた。 現在の郵便事業会社の大口顧客について新統合会社への移行手続きが明確でないこと。 人とオペレーションの準備が統合までに間に合うのか不安が払拭されないこと(郵便事業会社においては、職員への研修を統合当日2009年10月1日に実施する、という極めて危ういものであった)。 統合計画では、取り扱い個数の少ない地方部においては、集配を郵便事業会社に委託する予定にしているが、委託料が安く設定されると郵便事業会社の採算が悪化する恐れが高いこと。 だが日本郵政は、統合を延期した場合、競合他社に比べ遅れが生じているコンピュータシステムの改善に更なる遅延が生じること、「かき入れ時」のお歳暮配達時期を逸することによる大口顧客の競合他社への流出、さらには、事業計画が不完全であることを認めた場合は日通から損害賠償を請求される事態になりかねないという状況に陥っており、「あくまで2009年10月1日にゆうパックを統合させる」とする姿勢を崩さず、その後も準備を続けたが、2009年9月8日、正式に総務省は「統合計画は日程に無理がある」と判断を下し、ゆうパックの統合については認可しない方針を伝えた。 それを受けて9月11日、日本郵政も宅配事業の統合の再延期を正式に発表した。その時点では新たな統合時期は明らかにされず、統合新ブランド名の発表もやはり無かった。 その頃、既に日本通運から先行して分離した「JPエクスプレス宅配便」の収支は、折からの景気悪化による荷動き低迷、並びに統合を見込んで設備を拡張したものの取り扱い個数が旧ペリカン便のものだけにとどまっていたため、結果として過剰設備となっており、維持費がかさむなど、毎日約1億円の赤字を計上、郵便事業、日本通運双方の持分法損益に悪影響を与える状況下にあった。それに対して日本通運の川合正矩社長は、「日本郵政側も単独では宅配便事業の経営は困難であり、統合自体がなくなることはない」との見通しを示している他、お歳暮配達時期の需要の取り込みのためには、「遅くとも11月上旬には統合しないと間に合わない」との見方を示していた。 しかし総務省は、統合計画が不採算の地方の集配を郵便事業側に任せるなど、日通側のいわゆる「いいとこ取り」であると断じ、ゆうパック部門の分離により郵便事業会社の事業が先細りになることを懸念、統合の目途は立たなくなった。 その後、日本通運は2009年10月23日にJPエクスプレスの所有株式34万株のうち20万株を郵便事業に譲渡することを発表した。出資比率は郵便事業86%、日本通運14%となり、これによりJPエクスプレスは日本通運の持分法適用関連会社から外れることになった。しかしながら、日本通運の出向者を中心とした運営は変わらないほか、今後とも日本通運はJPエクスプレスを支援していくことには変わりがない、としていた。 だが上述したように、2010年6月を以てペリカン便の取扱を取り止め、同年7月1日付で宅配便事業を日本郵便へ譲渡し、郵便事業が扱う「ゆうパック」にサービスを取り込む形で統一され、JPエクスプレスは解散・会社清算に至ることになった。JPエクスプレスの最終的な累積赤字は1,185億円に達し、このような結果に至った原因について総括が求められている。
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