磐城無線電信局長 関東大震災海外への第1報
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「米村嘉一郎」の記事における「磐城無線電信局長 関東大震災海外への第1報」の解説
船橋無線電信局開局3年後の1919年(大正8年)には電報取扱数は56238通を数え、日を追って増加した。国際電信は貿易に最も多く利用され、東京、横浜、大阪、神戸などの大都市にある貿易業者に発着する商用電報が大部分を占めていた。船橋無線局は軍用と商用と兼ねていたため、逓信省は公衆通信専用の無線電信局を福島県に建設した。 当時送信と受信は同時に行えず、二重通信をするために、送信機と受信機の設置場所を分けることとし、相馬郡原町(現・南相馬市原町区)に送信局(1921年3月完成)、双葉郡富岡に受信局(1920年4月完成)をそれぞれ設置した。これらは「磐城無線電信局富岡受信所」「磐城無線電信局原町送信所」と名付けられた。1920年5月に正式に磐城無線電信局が開局されると、嘉一郎は初代局長となった。磐城無線電信局原町送信所は、1923年9月1日の関東大震災の災害情報をアメリカに伝え、海外への第一報となった。 嘉一郎は「電波界50年思い出の記」の中でこう書いている。 磐城無線局では同時刻、かなり強い地震を感じたと同時に、東京と横浜へ直通であった陸上電信線が2線とも不通になり、何とはなしに「これはただ事ではないぞ」という予感がした。東京方面の事情が一時全く不明となったが、有線電信が切れたなら無線電信だということは無線従事者の誰もが気付くことで、富岡受信所では早速国内通信用の周波数を受ける受信機をいくつも急造して他局発信の傍受を試みたところ、東京横浜の大惨害の状況を放送する通信が次々と受信機へ入ってきた。(中略)地震のために国内電信連絡が途絶したことはアメリカのRCA相手局へ公電を発したが、日本の中心にこんな大変災が起こって、一報は一報毎に惨害の甚だしい事が伝えられるので、横浜といえば外国人も多数いることだから、これ外国へも知らせる必要がある。それだのに今は政府や新聞社から知らせたくも採る方法がない。当時東京はあらゆる交通通信の機関が止まり、小笠原島経由の日米間海底ケーブルも既に切れたことはホノルルへ無線で問い合わせてわかったので、全く日本は孤立無援の有様であった。ここでちょっと電波を発すればすぐにアメリカへ届くものを黙っているに忍びない、簡単であるがかなり強い意味を含めたつもりで、次のような20語の電文を書いて、午後11時にホノルルを経てサンフランシスコのRCA局長へ発信した。 ”Conflagration subsequent to severe earthquake at Yokohama at noon today. Whole city practically ablaze with numerous casualties. All traffic stopped." 「本日正午横浜において大地震に次いで大火災起こり、全市ほとんど猛火の中にあり、死傷算なく、全ての交通通信機関途絶した」 この電報はホノルルのRCA局へ送ったのだが、サンフランシスコのRCA局でも折良く直接受信したので、直ちに同市の各新聞社に配布され、アメリカの全新聞に出た日本大地震の第1報となり、アメリカからさらにヨーロッパ諸国へ伝わり世界各国の同情と救援が我が国に集まるきっかけとなった。 アメリカワシントンポスト紙1923年9月4日付にもこの無線通信士のことが紹介されている。その後、諸外国からこの無線通信による災害情報の伝達について感謝が複数寄せられた。沖野岩三郎の『童話読本』に収録された「事実童話編」に「世界の英雄」として紹介されている。 嘉一郎は後に振り返り、 このように無線の活躍はすばらしいものであったが、非常災害時にいかに無線通信連絡を開き運用するかについて、当時定められた順序、法則がなかったから互いに緊密な連絡を取って救助のための緊急通信をそ通できるまでに数時間を費やし、長きは数日を要したものもあった。当時筆者はこの非常通信網の中にいてそのような非常時連絡に処する平素の準備がなかったことを悔いた一人であり、非常に貴重な経験を得た。また磐城局の震災第一報が広く全世界に伝わり、同局の存在が認められるようになったのは、当時我が国に外国相手の大無線局がこの局一つしかなかったからで、反面に我が国の国際無線設備の不足を物語るものでその後の無線施設の拡張を促進する機縁となった。 とも述べている。
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