皇居の生物相の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/26 01:36 UTC 版)
皇居は現在は大都市である東京都の中心部にあるが、多足類、クモ類などの状況から考えると、16世紀末の徳川家康の入城以前は海に面した照葉樹林帯であったと考えられる。江戸幕府の成立後、江戸城の建設が本格化し、現在の吹上御苑も御三家の邸宅など宅地化され、その後も庭園、馬場、そして昭和になってからはゴルフ場と様々な利用のされ方をすることになった。そのような中、武蔵野の自然を蘇らせる希望を持った昭和天皇の意向で、昭和12年(1937年)以降吹上御苑の公園的な管理は中止され、更には昭和23年(1948年)以降、武蔵野に自生する植物の移植が進められていった。その結果、最低限の管理が行われていることと成立の経緯から原生林とは言えないものの、現在の吹上御苑は豊かな森林に覆われるようになり、大都市の中心部としては異例の豊かな自然が見られるようになった。また吹上御苑内には田畑、桑畑などがあって里山的な環境もあり、小さいながらも流水域と湿地帯も見られるなど、極めて多様な環境に恵まれており、大都市の中心部にあるために都市に適応した種も見られる点を含めて、極めて多様な生物相に恵まれることとなった。また皇居は関東平野本来の自然環境を現在見ることが出来る場所であると考えることも出来る。それぞれの分類群で、皇居を「都内の他地方では見られなくなってしまった動・植物」が多数生息する場であるとの言及があるのは、その意味である。 しかしアズマモグラなど江戸時代以前から現在まで生き残り続けていると考えられる生物も存在するが、16世紀末の徳川家康の江戸城入城以降、姿を消していった生物も多かったと考えられる。特に都市化の影響は、多くの皇居内のモミ、スギの大木が枯れるなど明治末ごろから顕著となり、公害問題が深刻化する1970年代には光化学スモッグによって地衣類が打撃を受け、ガの仲間のコケガが姿を消すなど、近代以降多くの動植物が姿を消したと考えられる。大型地衣類については、現在もその姿が見られない。 皇居の生物相の構成要素としては、外部から意図的に持ち込まれた植栽や、それに付随する生物の移動も重要である。例えば江戸時代に植栽されたモミとともに生き続けてきたと考えられるカイガラムシの仲間のモミニセカキカイガラムシの存在や、御苑内の落葉広葉樹の森は、かつて庭園であった時代に植栽された木々が林になったものと考えられ、現在の吹上御苑の生物相にも江戸時代に庭園化された時代の影響が残っている。そして陸産貝類、カメムシ目のように植栽によって持ち込まれた可能性が高いとされる種も見られる。また陸産貝類など多くの分類群で外来種と考えられる種の存在も確認されている。 また調査の中で、藻類、ササラダニ、ミミズなどいくつもの分類群で、新種や未記載種が発見されている。それらについては皇居が持つ豊かで多様な自然環境を示しているとともに、クマムシについてはこれまであまり調査されていなかった環境から見つかったことなど、これらの群についての調査研究がこれまで十分に行われていなかった点が、皇居の生物相調査で新種や未記載種の発見が相次いだ原因と考えられる。 そして皇居は都市部に囲まれている上に周囲には濠があるため、移動能力が低い種は皇居に戻ることが困難である。後翅が退化して飛翔力を失った移動能力が低いハネカクシ類、地表性のクモ類、カニムシ類やコケガなど、自然環境が回復してきた現在もその姿を見ることが少ないはこのためであると考えられる。現在の皇居の自然環境は、海によって隔絶された大洋島の環境に類似しているとも言え、ウシガエルの大繁殖によって両生類、爬虫類、昆虫類に大きな打撃が加えられている現状も、外来種によって在来種が撹乱される事態が発生する大洋島の事例に近いものがある。 その一方、ショウジョウバエ相に見られるように皇居の環境が外部の生態系と関連を持っていることが明らかな事例もある。チョウ類やトンボ類、カワセミのように皇居を始めとする東京都内の緑地を移動しながら生活したり分布を維持している例も見られる。このことから、皇居の生物相は閉鎖性が強いとはいえ外部との関連が見られないわけではなく、皇居をはじめとする東京都内の緑地は生物の生存環境を守っていくためにも重要であることがわかる。 猛禽類であるオオタカの定住により皇居内の鳥類相に大きな変化が生じたように、皇居内の生物相は一面では常に変化を見せている。皇居の地が持つ環境的特性とともに江戸時代以前からの歴史的な経過の中で育まれていった皇居の生物相は、大都市東京の中心部にある貴重な自然環境として、最低限の維持管理のもと、保全され続けている。
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