アズマモグラ
アズマモグラ
和名:アズマモグラ |
学名:Mogera imaizumii Kuroda |
モグラ目,モグラ科 |
分布:本州の中部以北 |
写真(上):アズマモグラ成獣 |
説明 日本に生息する7種のモグラのうち本州の中部以北に最も普通に分布するモグラ.低地から標高2000 mの高地まで分布するが,低地の農耕地に多い.体重は50-130 gと変異に富む.地中に網目のようなトンネルシステムをつくり,その中に落ちてくるミミズや昆虫などの土壌動物を餌とする.春から初夏にかけて繁殖し,産子数2-6子.寿命は最大3年程度.農耕地や芝地の土壌表面に土を盛り上げ,いわゆるモグラ塚をつくるので嫌われるが,作物を食べるといった直接的な害を及ぼすことはない.むしろ,土壌生態系の最も大きな捕食者(害虫の天敵)として重要である.近年,土壌汚染の指標生物として注目されており,本研究所の鳥獣生態研究室において,土壌−ミミズ−モグラという食物連鎖系における有害化学物質の生物濃縮の研究を行っている. |
吾妻鼹鼠
東鼹鼠
アズマモグラ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/07 14:20 UTC 版)
アズマモグラ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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アズマモグラ Mogera imaizumii
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保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) |
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Mogera imaizumii Hutterer, 2005[2] ( Kuroda, 1957)[1][3] | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
Mogera wogura minor Kuroda, 1936;[2] Talpa micrura imaizumii ( Kuroda, 1957);[2] Mogera minor Hutterer, 1993[2] |
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和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
アズマモグラ[3] | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Lesser Japanese mole[3] |
アズマモグラ(Mogera imaizumii)は、真無盲腸目モグラ科モグラ属に属する哺乳類。
分布
日本(静岡県・長野県・石川県以北(下北半島の山沿いまで[4])の本州<越後平野の一部を除く>、京都府の山地・広島県現:庄原市の山地・三重県の鈴鹿山脈、紀伊半島南部・四国<剣山や石鎚山などの山地>・小豆島の一部に隔離分布)固有種[3][5]
東京都内の生息状態は皇居の生物相 § 動物相に詳しい。東京都内では、ところどころ絶滅した箇所もある[注 1][6]。
モグラ戦争
要するに、東本州は名前通りアズマモグラの勢力、西はコウベモグラ(M. wogura)の勢力だとされる(西南本州で確認される本種は、"西南本州では山地に飛石的に分布しているにすぎない"[7])。いわゆる「モグラ戦争」の境界線は、静岡県にあり富士山西麓の溶岩流に食い止められていたものの[8]、箱根(神奈川県)に移行し[9]、さらにその箱根の北限まで迫っており、関東への突破も近いとも思われる[10]。箱根も溶岩流が理由でコウベモグラが突破できない理由になっていた[10]。
隔離個体群は遺存個体群とされる[5]。つまり、アズマモグラはかつては西のいたるところ、全土に分布していた[11]、古い型のモグラであるのが、生息地から駆逐されてきたのである[7]。コウベモグラに対し山地個体群では土壌が浅く生息好適地でない・あるいは紀伊半島や小豆島では断崖などにより土壌の浅い場所があり侵入が阻止されていると考えられている[5]。
形態
体長12.1 - 15.9センチメートル[3]。尾長1.4 - 2.2センチメートル[3]。体重48 - 127グラム[3]。地域変異が大きく山地個体群は小型で、太平洋岸平地個体群は大型になり体重では約2倍の差異がある[3]。視力は弱く尾はとても短い[12]。毛色は山地個体群は暗褐色、河川下流域の平野部個体群は褐色みが強い[3]。
吻上面の裸出部は長方形[3]。上顎口蓋部の大きさは普通[3]。上顎の切歯の歯列が浅いアルファベットのV字状[3]。上顎の小臼歯は左右に3本ずつ、下顎の小臼歯は左右に2本ずつ[3]。
コモグラ
かつては丘陵や山地高原などに分布する小型の個体群を「コモグラ」、平原や田畑などに分布する者を「アズマモグラ」として仕分けしてきた経歴がある[13]。
亜種(コモグラ) として黒田長礼が重ねて発表しているが(Mogera wogura minor Kuroda, 1936; Talpa micrura imaizumii (Kuroda, 1957))[14]、米哺乳類学者協会(ASM)データベースなどでは、これらを単に本種の別名としている[2]。いまだ亜種 M. i. minorとする文献もある[要出典]。
性別
モグラは繁殖期以外雌の膣口が閉じ(日本産は完全には閉じないがわかりにくい[15])、雄も陰嚢を持たないため[17]雌雄の区別がつきにくいが[15]、生殖突起と肛門との距離を測定することで雌雄判別が可能である[要出典]。
生態
低地の草原・農耕地から山地の森林にかけて生息するが、湿潤で土壌の深い平野部を好む[3]。森林内でも土壌が豊かな所には生息する。地下にトンネルを掘り、そこで生活をする。掘り出された土は地上に出され、モグラ塚を作る。活動と休息を含む1日3回の周期をもつ[3]。2025年2月、山形大学によって山地林におけるアズマモグラの生息密度の相対評価が報告された[18]。この研究は、登山道を歩きながらアズマモグラのトンネルを入念に探索することによって、生息密度は森林の植生や土壌環境によって大きく異なり、ミミズが多い場所ほど生息密度が高い傾向がみられることを明らかにした[19]。
主に昆虫やミミズを食べるが、ジムカデ類、ヒル、植物の種子なども食べる[3]。
トンネルの奥に、広葉樹の落ち葉を集めた径が約40cm、高さが約36cmになるボール状の巣を作り繁殖する。主に春(一部は秋)に1回に2 - 6匹の幼獣を産む[3]。アズマモグラの1 親子(母1 個体、仔3 個体)を対象に遺伝マーカーを使用した親子判定を行った研究[20]では、一腹の3 個体の仔の父親は1 個体であったことが明らかになっており、今後事例を増やした追加研究の実施が望まれている[21]。寿命は約3年[3]。
種の保全状態評価
- 都道府県版レッドデータブック[22]
西日本では分布が局地的なため、森林の伐採等による土壌の乾燥化や、それに伴う生息地の消滅が影響していると考えられている[要出典]。
一方東日本では広範囲で多数生息しているため、IUCNの保全状況では軽度懸念に分類されている[1]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d Abe, H. & Kawada, S. 2008. Mogera imaizumii. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T41465A10476951. doi:10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T41465A10476951.en. Downloaded on 15 February 2016.
- ^ a b c d e “Mogera imaizumii”. ASM Mammal Diversity. American Society of Mammalogists. 2025年7月7日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 阿部永 「アズマモグラ」『日本の哺乳類【改訂2版】』阿部永監修 東海大学出版会、2008年、23頁。
- ^ “恐山山地総合森林調査 報告書 6.野生生物 p.76-77”. 林野庁 (1994年3月). 2025年6月12日閲覧。
- ^ a b c 阿部永 「モグラ類における遺存個体群とその維持機構」日本哺乳類学会 『哺乳類科学』 2001年 41巻 1号 p.35-52, doi:10.11238/mammalianscience.41.35
- ^ a b 遠藤 et al. (2000), p. 49.
- ^ a b 鈴木茂恵、宮尾嶽雄、西沢寿晃、高田靖司「木曾駒ケ岳の哺乳動物に関する研究 第Ⅴ報 木曾駒ケ岳東斜面におけるミズラモグラ(Euroscaptor mizur)の生息確認について」『信州大学農学部紀要』第16巻第1号、1979年、44頁。 snippet@google
- ^ 堀越増興「日本の生物」『』第6巻、岩波書店、1985年、55面。
- ^ 『データしずおか: 静岡年鑑』静岡新聞社、2020年、297頁 。
- ^ a b 今泉忠明「モグラ戦争」『日本経済新聞』2019年7月12日。
- ^ 中島洋『埋もれた古代史: 日本書紀編纂の謎を探る』圭文社、1978 、233頁 。
- ^ “カワセミ通信 No.90”. 戸田市彩湖自然学習センター. 2019年10月31日閲覧。
- ^ 今泉吉典 (1970), p. 140.
- ^ 黒田長禮「日本産コモグラの亜種名変更について」『哺乳動物学雑誌』第1巻第3号、1957年6月、74頁。
- ^ a b 今泉吉典 (1970), p. 143.
- ^ 黒田長禮「食虫目 [Insect-eating Mammals INSECTIVORA]」『日本獣類図説 [A monograph of the mammals of Japan]』創元社、1954年、144頁 。「中古有胎盤類にその源を置き,一方は齧歯目に,他は食肉目に,そして他の一枝はこの食虫目となる。双角或は重複状子宮と盤状で脱落生の胎盤とを有する。睾丸は会陰部内に留まり,陰嚢はない」
- ^ 黒田(1954)は、今は廃されている分類である食虫目を、無盲腸亜目( Lipotyphla )と有盲腸亜目( Menotyphla)に分けたうえで、"睾丸は会陰部内に留まり,陰嚢はない"とする[16]。
- ^ “山のモグラの生息状況を定量化 ~土壌生態系の鍵を握る地下生物の生態に迫る~|国立大学法人 山形大学”. 国立大学法人 山形大学. 2025年3月9日閲覧。
- ^ Yamasawa, Tai; Tomimatsu, Hiroshi. “Quantifying relative abundance of the lesser Japanese mole (Mogera imaizumii) in mountain forests: A comparison between natural broad-leaved forests and conifer plantations” (英語). Ecological Research n/a (n/a). doi:10.1111/1440-1703.12548. ISSN 1440-1703 .
- ^ 山澤泰、高木俊人、兼子伸吾「アズマモグラ(Mogera imaizumii)の繁殖生態解明に向けたマイクロサテライトマーカー解析の有用性」『哺乳類科学』第63巻第2号、2023年、179–184頁、doi:10.11238/mammalianscience.63.179。
- ^ “アズマモグラの親子判定 ~アンダーグラウンドなモグラの交配事情を遺伝解析で解明へ~|国立大学法人 山形大学”. 国立大学法人 山形大学. 2025年3月9日閲覧。
- ^ a b c d e “アズマモグラ”. 日本のレッドデータ検索システム (2018–2023). 2025年7月6日閲覧。
- ^ 京都府レッドデータブックアズマモグラ (2015)
参考文献
- 今泉吉典『日本哺乳動物図説 [The handbook of Japanese land mammals]』新新潮社、1970年 。
- 遠藤秀紀、川嶋舟、佐々木基樹、山際大志郎「皇居産アズマモグラの頭骨に関する骨計測学的検討とミトコンドリアDNAの分子遺伝学的解析」『国立科学博物館専報』第35号、200、43–52頁。
- 小宮輝之 『日本の哺乳類』 学習研究社<フィールドベスト図鑑>、2002年、P101
関連項目
- モグラ科
- モグラ属
固有名詞の分類
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