生物が持つ色素の機能
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/14 14:31 UTC 版)
「Biological pigment(英語版) 」を参照 生物が獲得した色素の機能を役割別に見ると、生体の内部組織の生理活性に寄与する色素と、生物の進化に寄与するシグナル理論(英語版)で利用される求愛行動や保護色、警告色(警戒色)のような色素に大別することができる。 生理活性では、植物に由来する色素が非常に多い。なかでも代表的な色素が光合成を行う葉緑素(クロロフィル)である。葉緑素は太陽光の中から赤から近赤外の光エネルギーを効率よく吸収する為の色素である。その上、光エネルギーの収集効率を上げるためにわずかに極大吸収を換えた複数の色素が配置され、中心の色素分子に光エネルギーが集中するようになっている(アンテナ色素、光受容性タンパク質(英語版)に詳しい)。クロロフィル類以外にもカロテノイドやフィコビリンなど多種多様な光合成色素が知られている。 動物や細菌にも広く分布する光受容体においても色素が光シグナルを受容する重要な役割を果たしている。その代表はヒトの色覚を担うロドプシン類である。植物では、日長の測定して開花を調節するなどいわゆる概日リズムに関わる赤外線受容体のフィトクロム、紫外線や青色光受容体のクリプトクロム、光屈性に関与するフォトトロピンなどが知られている。また紫外線によるDNA損傷を防止するメラニンの機能も色が生物学的機能を持つ例である。人間の胎児では発生過程で神経節から生じる聴覚や視覚の原基である眼胞、耳胞には早い時期からメラニンの沈着が認められている。酸素を運搬を担う重要な色素のヘムには、中心金属が鉄であるヘモグロビンとミオグロビン、あるいは金属が銅であるヘモシアニンとが存在する。チトクローム等ほかにも生体内では種々の色素として存在する。 一部の生物は、これらの色素を生存戦略や繁殖戦略に応用している。色素は動物が獲得した五感とよばれる感覚器のうちの視覚に対して応用される。個体が自己防衛のためにen:Venom(生体が他者を攻撃するために使用する液体毒)を獲得することがあるが、これを保持していることを色覚に提示し、有害であることを「正当に」示して(英: Honest signals)攻撃を避ける。一般的には色素が明るくて目立つほど、獲得している生物毒が強いと認識され、色素には赤、黄、黒、白が効果的に使われている。また、毒は持たないがこれに類似した色の提示をして自身への攻撃を避ける警告色、また体表に色素胞を提示したり、皮膚組織に沈着させて周囲の環境と同化させ保護色としている例がある。また昆虫や鳥類など多様な植物で、体の一部に鮮やかな色彩で異性を惹きつける求愛行動に利用している例が知られる。ただし、色素にだけ寄らず光の反射や屈折など構造的な発色や、形状の変化(擬態など)、他の感覚や行動の併用も見られる。植物では虫媒花で花弁や果実を特別に鮮やかに発色させて確実な結実を促す例が知られる。 これらの機能は生物が能動的に獲得したのではなく、変異のなかから有利に働いた自然淘汰の結果として残り増強された色素と考えられている。
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