理論的考察
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 06:39 UTC 版)
元来、経済学者達は伝統的な完全競争モデルに基づき、最低賃金法を厳しく批判してきた。一般に経済学では、雇用量と賃金は労働の需要量(求人量)と供給量の一致する点(均衡賃金)で決定するため、失業は存在しないとされている。最低賃金法は社会保障の観点から、均衡賃金より低い場合は、それより高い水準に最低賃金を設定する。したがって、最低賃金を下回る労働生産性しか持たない人は雇用機会を奪われ、失業が発生するとされている。所得格差を是正するはずの最低賃金が、逆に格差を拡大させる可能性を生じさせるとされている。 ミクロ経済理論の代表的なものの一つに、最低賃金の存在がかえって低賃金労働者の厚生を引き下げるという命題がある。企業の労働コストを引き上げ、労働需要を減少させる最低賃金制度は、労働者の最低生活保証手段として有効なツールではないこと、労働市場の需給には直接介入せず、低賃金労働者への生活保障は事後的な政府からの所得移転によって行うべきであること、の二つの基本命題は、1990年代以降、主流派経済学者間のコンセンサスであり続けている。 しかし2013年現在、労働市場を完全競争だとみなすことの不備が、経済学者自身によって指摘されている。まず賃金の上昇は労働者に一生懸命働くインセンティブを与えるので、生産性が向上し、転職が抑止される。従って雇用者はこうした効果を期待して、均衡水準より高い賃金を労働者に与える傾向がある。ジョセフ・E・スティグリッツは、最低賃金法による賃金上昇は、こうした効果による賃金上昇により相殺されるため、最低賃金法は予想していたほどの悪影響を与えないかも知れないとしている。 また最低賃金法が長期的には雇用によい影響を与えるという意見もある。最低賃金法は短期的には低賃金労働者によって成り立っていた産業を壊滅させるかもしれないが、結果としてそれは労働者への投資を増大させる事に繋がり、長期的には生産性を増大させる可能性があるからである。たとえばスタンフォード大学の経済史家であるゲイビン・ライトによれば、最低賃金法は南北戦争から大恐慌の頃までのアメリカ南部での低賃金の解消に決定的役割を演じ、アメリカ南部の労働市場をより高賃金の産業へとシフトさせる上でダイナミックな役割を果たしたとしている。 別の指摘としては、労働市場は完全競争ではなく需要独占である可能性がある、というものがある。このモデルによれば、企業はその独占的立場を利用し、雇用の不当な縮小と賃金の不当な値下げを行う事ができてしまう。最低賃金法はこうした状況を改善するのに役立つとしている。更に、短期的ではあるが、最低賃金の引き上げが右の図の W'm を超えない範囲においては、雇用が増加していく。但し、長期的には、引き上げによって人件費増加し、利益が減少してしまうため、減少を理由に倒産する企業が出てくることが考えられ、その場合には雇用への減少圧力が働くことに注意する必要がある。 また、高い水準の最低賃金はワーキング・プアの問題をなくすという利点がある。高い最低賃金は、労働から得られる収入が失業時に生活保護から得られる額よりも高い事を保証し、結果的に失業者に職探しをさせるインセンティブをもたらすとされている。 カリフォルニア大学アーバイン校のニューマーク教授とFRBのワッシャーは、最低賃金が雇用へ与える影響を調べる上で、 賃金引上げの影響は短期ではなく、長期で出てくることが多いこと 特定の産業の影響だけでなく、低賃金労働者全体の雇用を分析すること 最低賃金の引き上げは、低賃金労働者の中で雇用の代替を発生させる可能性があること に注意する必要があるとしている。 特定最低賃金(産業別最低賃金)については、理論的には労働集約型産業に適用した場合には、労働者の厚生が高まるという理論的な裏づけがあるが、現実の適用業種は、支払能力が高い業種、産業に適用されており、理論的裏づけとは関係していない[誰?]。また、特定最低賃金には、その産業への新規参入への障壁となる効果もあるため、その産業側の利益という意味合いもある[要出典]。
※この「理論的考察」の解説は、「最低賃金」の解説の一部です。
「理論的考察」を含む「最低賃金」の記事については、「最低賃金」の概要を参照ください。
理論的考察
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/19 17:35 UTC 版)
エラトステネスの篩(ふるい)は x 1 / 2 {\displaystyle x^{1/2}} 以下の素数が既知のとき、( x 1 / 2 {\displaystyle x^{1/2}} 以上)x 以下の素数を決定するには、x 以下の整数で x 1 / 2 {\displaystyle x^{1/2}} 以下の素数の倍数を全て取り除けば(= 篩えば)よいことを意味する。このことから、包除原理を用いることによって x 以下の素数の個数に関する式を得ることができる。 具体的な式を書くために、いまx 以下の素数の個数を π ( x ) {\displaystyle \pi (x)} と書き、z 以下の全ての素数の積を P = P ( z ) {\displaystyle P=P(z)} とすると、この篩の操作が与える定量的な公式は π ( n ) − π ( n ) + 1 = ∑ d ∣ P ( n ) μ ( d ) [ x d ] {\displaystyle \pi (n)-\pi \left({\sqrt {n}}\,\right)+1=\sum _{d\mid P({\sqrt {n}})}\!\mu (d)\left[{\frac {\,x\,}{d}}\right]} となる(左辺の +1 は篩われずに残る数 {1} の分で、 μ ( d ) {\displaystyle \mu (d)} はメビウス関数)。 より一般に、整数の集合A から、z 以下の素数の倍数全てを篩うとき、残る元の個数 S ( A , P ) {\displaystyle S(A,P)} は、 S ( A , P ) = ∑ d ∣ P ( z ) μ ( d ) | A d | {\displaystyle S(A,P)=\sum _{d\mid P(z)}\!\mu (d)\left|A_{d\,}\right|} と表すことができる。ここで A d {\displaystyle A_{d}} は A の元で d で割り切れるもの全体の集合を表す。この定式化はルジャンドルの篩ともよばれる。 再び先の素数の個数の評価について述べれば、 z ≤ n {\displaystyle z\leq {\sqrt {n}}} のとき、不等式 π ( n ) − π ( z ) + 1 ≤ ∑ d ∣ P ( z ) μ ( d ) [ n d ] {\displaystyle \pi (n)-\pi (z)+1\leq \sum _{d\mid P(z)}\!\mu (d)\left[{\frac {\,n\,}{d}}\right]} が成り立つから、不等式 | [ n d ] − n d | ≤ 1 {\displaystyle \left|\left[{\frac {\,n\,}{d}}\right]-{\frac {\,n\,}{d}}\right|\leq 1} を用いて π ( n ) ≤ π ( z ) + ∑ d ∣ P ( μ ( d ) n d + 1 ) = π ( z ) + n ∑ d ∣ P μ ( d ) d + ∑ d ∣ P 1 = π ( z ) + n ∏ p ≤ z ( 1 − 1 p ) + 2 π ( z ) {\displaystyle \pi (n)\,\leq \,\pi (z)+\sum _{d\mid P}\left(\mu (d){\frac {\,n\,}{d}}+1\right)\,=\,\pi (z)+n\sum _{d\mid P}{\frac {\mu (d)}{d}}+\sum _{d\mid P}1\,=\,\pi (z)+n\prod _{p\leq z}\left(1-{\frac {1}{\,p\,}}\right)+2^{\pi (z)}} という評価が得られる。この公式から( z = log n {\displaystyle z=\log n} とおき、素数の逆数の和が発散することを用いて) lim x → ∞ π ( x ) x = 0 {\displaystyle \lim _{x\to \infty }\!{\frac {\,\pi (x)\,}{x}}=0} を証明することができる。 しかし、其評価の過程で上の 2 π ( z ) {\displaystyle 2^{\pi (z)}} のような大きな誤差項が現れてしまうのは、包除原理にのみに依拠した式の共通の欠点である。このような困難を回避し、より一般的な状況で篩われた集合の元の個数を近似・評価するのが現代の篩法である。この方法は双子素数予想など、多くの数論上の問題の研究に広く応用されている。
※この「理論的考察」の解説は、「エラトステネスの篩」の解説の一部です。
「理論的考察」を含む「エラトステネスの篩」の記事については、「エラトステネスの篩」の概要を参照ください。
- 理論的考察のページへのリンク