独自の論考
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「アフロディシアスのアレクサンドロス」の記事における「独自の論考」の解説
注釈書ではないアレクサンドロスの独自の論考もいくつか現存している。次の作品がそうである: 『霊魂論』、『問題と解決』、『倫理的諸問題』、『運命について』、『混合と成長について』。彼に帰せられているもののうち以下の三作品は偽書とされる: 『医学問題集』、『自然学的諸問題』、『熱について』。アレクサンドロスのその他の作品の中にはアラビア語訳で保存されているものがある: 『宇宙の諸原理について』、『神意について』、『運動に関するガレノス論駁』。 『霊魂論』(『魂について』、羅: De anima)はアリストテレスの同題の書物の注釈書ではないものの、アリストテレスの流れにそって書かれた霊魂に関する論考である。アレクサンドロスは、人間の未発達な理性は物質的(nous hulikos)であり肉体と不可分だと強く主張した。彼は魂が不朽だという説に対して強く反論したのである。彼は、その作用によって人間の中の潜在的な知性が活動するところの活動する知性(nous poietikos)を神とみなした。第二の著書は『「霊魂論」補遺』(Mantissa)として知られている。本書は25に分かれたシリーズになっており、そのうち最初の5巻で心理学を扱っている。残りの20巻は自然学や倫理学の問題を扱っており、その中で最も大きく取り上げられているのは視覚と光の問題で、最後の四巻では運命と神意について扱っている。本書は現在残っているような形ではアレクサンドロスが書いたものではないかもしれないが、それでも多くの部分は彼に帰されている。 『問題と解決』(羅:Quaestiones)は三巻からなり、『自然的な問いの問題と解決』と題されてはいるが扱われているのは必ずしも自然的でも問題になるようなことでもない。この三巻の書には全部で69の項目が設けられており、そのうち24項目で自然学を、17項目で心理学を、11項目で論理学・形而上学を、6項目で運命と神意の問題を扱っている。このうち全てをアレクサンドロスが書いたというわけではないと考えられており、いくつかは彼の弟子による練習問題の可能性があるが、他のいくつかはアレクサンドロス自身による解答であると考えられている。 『倫理的諸問題』は伝統的には『問題と解決』の第4巻として扱われてきた。本書はアリストテレスに基づいた倫理的問題に関する議論という形をとっており、アレクサンドロスの講義の中で生まれた質問・問題に対する回答を含んでいる。本書はアレクサンドロス自身が書いたのではなく、むしろ彼の弟子がアレクサンドロスの参加した議論に基づいて書いたのだと考えられている。 『運命について』はストア派の決定論的教義に反駁した論考である。『運命について』でアレクサンドロスは三つのこと- 必然性(ギリシア語: ἀνάγκη)、ストア派が神・自然とみなしたものの一部である運命づけられた出来事の予言、あらかじめ定められている(ギリシア語: προκαταβεβλημένος)つまり過去によってあらかじめ運命づけられている(ギリシア語: προηγουμένος)原因の結果という意味での運命論―を否定した。彼は我々が今日自由意志と呼んでいる倫理的能力を擁護した。 『混合と成長について』では物体の混合という話題を取り扱っている。本書はストア派自然学の議論(あるいは論争)を拡張したものであると同時に当時のアリストテレス思想を解説したものでもある。 『宇宙の諸原理について』はアラビア語で保存されてきた作品である。この論考は現存するギリシア語の文献では言及されていないがイスラーム世界では高い知名度を保っており、数多くの写本が残っている。本書の主な目的はアリストテレスの宇宙論・形而上学の概説を行うことだが、論争的な雰囲気が強く、逍遥学派内の敵対する説に対して向けられていた可能性がある。アレクサンドロスはアリストテレスの哲学体系内の溝を埋めることと矛盾を解決することに関心があったが、物理的世界と倫理的世界の両方を統一した図を示すことにも関心があった。本書で扱われている話題は普遍的な天上界と生滅を繰り返す地上との関係、それに天上の運動の性質である。彼の主要な典拠は『自然学』(第7巻)『形而上学』 (第12巻)、偽アリストテレスの『宇宙論』である。 『神意について』はアラビア語訳で二種類が現存している。この論考においてアレクサンドロスは、神の摂理は世界のあらゆる面に及んでいるというストア派の見解に反論している; この説は神を無価値なものに貶めると彼は考えていたのである。代わりに、摂理とは天から発して地上に至った力であって、地上のものを、それぞれの生物に直接かかわることなく生じさせたり滅したりする能力があると彼は考えた。
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