映画内で取り上げられた医療問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/09 09:54 UTC 版)
「シッコ」の記事における「映画内で取り上げられた医療問題」の解説
アメリカ合衆国は国民皆保険制度が無い唯一の先進国である。民間の医療保険に入れない人がおよそ5000万人いる。貧困層でなくても、過去のわずかな疾患を緻密に探査され、医療保険への加入を拒否されたり、保険金の支払いを拒否される人は多い。 大多数のアメリカ人はこの映画の中で、国民皆保険制度は『ソビエト型のような社会主義である』としてアレルギーと恐怖を感じ、いざというときの状況に対する危機意識が低く、政治については無関心あるいは条件反射的な反応しかせず、相互扶助や弱者を助けようとする精神にも乏しい(これはマイケル・ムーアの一貫したスタンスでもあり、華氏911やボウリング・フォー・コロンバイン、マイケル・ムーア in アホでマヌケな大統領選(出演作品)においても共通している)。この事は国民皆保険制度があり、カナダ・イギリス・フランスなどの国民の意識と対比され、危機意識についてはちょっとの旅行にも保険をかけていくカナダ在住のマイケル・ムーアの親戚の事例も対比として示される。 医療費が払えず病院にかかれないので、自分で傷口を縫う人。 仕事中に誤って指を2本切断し、指をくっつける手術費用が薬指は12,000USドル、中指なら60,000USドルと言われ、中指は諦めざるを得なかった人。 医療費があまりに高額で家を売りに出し、子供たちの家に世話になり、静かな諍いが起こる老婦人。 高齢であってもなお、自分の医療費を払うために働かざるを得ない老人。 交通事故により病院に搬送されて一命を取り留め、保険会社に保険金を支払ってもらおうと連絡したら、当時は意識不明の重態であったにも関わらず「救急車が使用される場合には、事前に連絡(事前にスポーツや作業などリスクのある行動をする際に連絡するという意味。事故することを事前に予約と揶揄されるが、間違えである。)が無ければ保険は適用されない」と言われた人(ちなみにアメリカ合衆国では、救急隊を派遣させるだけでも日本円にして数万円単位の請求が来る。救急隊は日本のような消防所属ではなく、独立した行政機関)。 複数の医師からなる病院の医療チームが「この検査と手術が必要」と言っているにもかかわらず、保険会社はそんな検査や手術は必要ない、として保険金の支払いを拒否し、結果として治療を受けられずに死亡した人。 上記の例のように、医師が必要と判断している治療への保険金の支払いを拒否していた保険会社に「マイケル・ムーアが映画のために、このことについて社長へのインタビューを要求している」という嘘の手紙をマイケル・ムーア本人には知らせずに出して、即座に保険金の支払いが認められた人。 保険金の支払いを(相手の命に関わる場合であっても)徹底的に減らそうとする保険会社のエージェント。 貧困層向けの医療保険制度であるメディケイドやHMOによる治療において、治療費用が安く済めばボーナスをもらえるので、患者が検査を受けないかもしれないことを見計らって、わざと遠方の病院を検査のために指定する医師。 医療費の支出を抑えるため、命に関わる場合であっても十分な検査治療を認めないことに同意し、それによって多額の献金を得て昇進した医師の、議会における証言。 複数骨折をしているのに、入院治療費が払えなかったため病院を強制退院になり、自動車で貧民街まで運ばれて、路上に放り捨てられる女性の患者。 議会における医療・保険業界との癒着や寄付金の実態。 ヒラリー・クリントンがすすめていた国民皆保険制度が頓挫したのは医療・保険業界の献金を受けた共和党の反対によるという疑惑。 ニクソン大統領の、医療保険に関する会話の盗聴テープ。ニクソン大統領の「健康保険制度になど興味は無い」という主旨の発言に対して、「民間の保険会社だからお金になる」と述べる側近。それに「悪くない」と応じるニクソン大統領。 9.11のとき、瓦礫(がれき)の山を取り除く救援作業にボランティアとして参加したが、その影響で肺を悪くし、多額の医療費がかかるようになってしまった人。連邦政府はそういうボランティアには治療費を全額出すと明言しているが、それを示す証拠や条件が厳しすぎて、払ってもらえていない人も大勢いる。この事例は映画の中で、手厚い医療看護を受けるテロリスト容疑者達や、キューバの医療福祉制度と強く対比される。キューバは貧しい国でありながら医療が充実しており、人口比に対する医師の数もアメリカより遥かに多く、それでいてGDPにおける医療費は、アメリカよりも低い状態を実現していた。 「9.11の英雄」であるそのボランティアがアメリカで苦労しながら多額のお金を出して買っていた薬は、発展途上国であるはずのキューバでは…。
※この「映画内で取り上げられた医療問題」の解説は、「シッコ」の解説の一部です。
「映画内で取り上げられた医療問題」を含む「シッコ」の記事については、「シッコ」の概要を参照ください。
- 映画内で取り上げられた医療問題のページへのリンク