明軍
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朝鮮で「天兵」と呼ばれた明軍は、文禄の役においては、祖承訓率いる5,000人、李如松率いる秋水鏡を含む43,000人が参戦し、さらに碧蹄館の戦い後に劉綎率いる5,000人が増援として新たに到着した。ルイス・フロイスは、平安城を囲んだ明軍の兵力を伝聞として「少なくとも20万」と記載している。 慶長の役については、最大動員となった慶長3年(1598年)9月の蔚山・泗川・順天の三方面同時反攻の際の兵力を、『宣祖実録』は水軍を合わせ92,100人とし、参謀本部編纂『日本戦史 朝鮮役』では同じく64,300人としている。また朝鮮の史料『燃藜室記述』では両役を通しての明の動員数を221,500余人とする。 明の歩兵は、広大な帝国内における多様な戦闘を経験しているため、様々な武器を使用した。飛び道具として弓、三眼銃、火縄銃、南蛮式火縄銃、小火砲、長柄武器として槍、三又、鉄棒、射手の護身用に片手刀、その他に大砲、煙幕弾、手投げ弾などである。しかし、明の火縄銃や南蛮式火縄銃は日本の物と比べ改良が進んでおらず余り役に立たなかった。ルイス・フロイスの記録によれば、明軍の防具は鉄製のため守備力があり、槍も日本刀も通じにくかったとされる。 しかし、碧蹄館の戦いに関し、朝鮮王朝実録には「天兵(中国兵)短劍、騎馬, 無火器, 路險泥深, 不能馳騁, 賊(日本軍)奮長刀, 左右突鬪, 鋒鋭無敵。」という記述があり、李如松軍のために兵糧等の手配もしていた朝鮮の宰相である柳成龍が著述した懲毖録には、「李如松提督が率いていたのは皆北方の騎兵で火器を持たず只切れ味の悪い短剣を持っていただけだった。一方賊(日本軍)は歩兵でその刀剣はみな3-4尺の切れ味無比のものだったから、衝突激闘してもその長刀を振り回して斬りつけられるので人も馬も皆倒れ敢えて立ち向かうものはなかった(以下略)」とある。このように明軍は日本軍の日本刀に苦しんだようで、日本軍が南原城を陥落させたときの日本・明間の交戦に関して懲毖録では「日本兵は、城外にあって二重,三重にとり囲み、それぞれ要路を守り、長刀を奮って、やたらと切りつけた。明国軍は、首を垂れて刃を受けるのみであった。たまたま月が明るく、脱出できた者は何人もいなかった」とある。日本刀は宋代(960-1279)にはすでに中国へ輸出されていたが、軍隊や民間で倭刀及び倭刀術が広く用いられるようになったのは明代(1368-1644)からである。明では後期倭寇の頃から、日本兵(倭寇)の日本刀・日本式剣術に苦しめられていたため、明軍では日本式の刀や日本式の剣術が武将の戚継光や学者の茅元儀らによって研究され軍に採用されていた。中国は多くの日本刀を輸入し、日本刀を模した刀も製作された(後に苗刀と呼ばれる)。戚継光の著作『紀効新書』には「此は倭が中国に攻めてきた時わかったことである。彼らは舞うような歩法を用い、前方への突進力は光が閃くようで我ら明の兵は気を奪われるのみだった。倭はよく躍動し、一度動き出せば丈あまり、刀の長さは五尺なので一丈五尺の間合でも攻撃される。我が兵の剣では近づき難く、槍では遅すぎ、遭遇すればみな両断されて殺される。これは彼らの武器が鋭利であり、両手で振れる強力で重い刀を自在に用いているためである。日本人には遠くからの鳥銃が有効である。だが日本人は全く臆せず攻めたり刺したりできる至近まで突っ込んでくる。兼ねてよりこの銃手が弾を込める間に時間を取られて接近を許すことが多い。その勢いを止められない。日本人の刀捌きは軽くて長く接近を許した後の我が軍の銃手の動きは鈍重すぎる。われわれの剣は銃を捨てて即座に対応するための有効な武器ではないのだ。それゆえ我々も日本式の長い刀を備えるべきだ」とある。1790年に朝鮮で編纂された武芸図譜通志には、中国の史料を引用する形で「(明の戚継光曰く)日本刀は倭寇が中国を侵したときに初めて見られるようになった。彼らがこの刀を手にして舞うと光閃の前に、我が兵たちは気を奪われ、倭人は一丈余り一躍し、遭遇した者は両断された。これは刀が鋭利で、しかも両手で使用するので力をこめられるためだ。今日でも、(刀だけ)単独で用いては防御できない。ただ鳥銃を兼用すれば防御可能で、賊が遠ければ鳥銃を発射し、近ければ刀を用いる」、「(明の茅元儀曰く)日本刀は極めて強く鋭く、中国刀では及ばない(中略)、倭賊は勇敢だが愚かで生死を重視しない。戦いのたびに三尺の刀を手に舞いながら前進してくると防ぐことができない」とある。
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