日本の避難情報
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 02:23 UTC 版)
日本では、洪水、土砂災害、噴火などの災害で住民の生命に危険が及ぶ恐れがあるとき、災害対策基本法に基づいて市町村長が、避難に関する情報を発表する。以下の3種類があり、下の方ほど重い。 市町村が発表する3段階の避難情報名称性質「避難準備・高齢者等避難開始」対象地域の要配慮者(避難に時間が掛かったり手助けが必要だったりする高齢者、障害者、乳幼児等)に対して、早めの避難を促すもの。また、要援護者以外のすべての住民・滞在者などに対しても、今後の危険性増加に対して準備をすることを求める。 「避難勧告」対象地域のすべての住民・滞在者などに対して、避難を促すもの。 「避難指示(緊急)」対象地域のすべての住民・滞在者などに対して、緊急に避難することを求めるもの。 なお、災害対策基本法には「警戒区域の設定」の規定もある。市町村長が区域を指定し、災害応急対策に従事する者以外、区域内への立ち入りを制限(禁止)するとともに、退去を命令するものである。こちらは、従わなかった者に対し罰金または拘留の罰則規定がある。 避難準備は災害対策基本法法第56条(市町村長の警報の伝達及び警告)、避難勧告と避難指示は同法第60条(市町村長の避難の指示等)、警戒区域の設定は同法第63条(市町村長の警戒区域設定権等)に、それぞれ規定されている。すべて原則として市町村長が行う。ただし、被災により市町村の行政機能が損なわれたときは都道府県知事が行うこととなっており、さらに市町村長が情報を出すことできないときや市町村長から指示があったときは、警察官または海上保安官が代行することが認められている(同法第61条・63条)。 「避難勧告」よりも「避難指示」の方が重いが、混同されやすい。また、「避難命令」という言葉が用いられることがあるが、避難命令という名の情報は日本には存在せず、罰則を伴う命令という点では警戒区域の設定がこれにあたる。避難準備は2000年代になって創設されたもので、当初は法律に規定されていなかったが、2013年の災害対策基本法改正により明記された。また、2016年12月には、同年の台風10号の水害で高齢者施設の被害が発生した教訓から、避難準備の呼称を変更した。 発表基準の目安 避難準備・高齢者等避難開始 水害 : 川の水位がはん濫注意水位(避難判断水位が設定されている場合はその水位)に達しており更に上昇すると見込まれる場合や、(大きな川の中下流域では)上流で洪水警報が発表された場合など。洪水注意報発表時に相当。また、大雨注意報発表中の夕刻の段階で夜から早朝の間に避難が必要となる可能性がある場合。なお、暴風警報が発表済みまたは発表の可能性がある場合、早めの発表を検討する。 土砂災害 : 大雨警報(土砂災害)が発表された場合や、過去の事例に基づく雨量基準などで早期避難を開始すべき水準に達した場合など。また、大雨注意報発表中の夕刻の段階で夜から早朝の間に大雨警報への切り替えの可能性がある場合。なお、暴風警報が発表済みまたは発表の可能性がある場合、早めの発表を検討する。 高潮 : 原則として高潮警報は基準に達する3 - 6時間前の早期に発表され猶予時間を含んでいることを前提とし、猶予時間をより長く取るべき場合や、高潮特別警報により多くの住民の避難が必要な場合など。 津波 : 津波の場合は即刻避難指示が推奨される。対象は猶予時間のある遠地津波などに限られる。 避難勧告 水害 : 川の水位がはん濫危険水位に達しており更に上昇すると見込まれる場合など。洪水警報が発表された後の段階。なお、暴風警報が発表済みまたは発表の可能性がある場合、早めの発表を検討する。 土砂災害 : 土砂災害警戒情報が発表された場合や、土砂災害の前兆現象が発見された場合など。なお、暴風警報が発表済みまたは発表の可能性がある場合、早めの発表を検討する。 高潮 : 高潮警報が発表された場合や、過去の事例に基づく潮位基準などで避難を開始すべき水準に達した場合など。また、高潮注意報発表中の夕刻の段階で夜から早朝の間に避難が必要となる可能性がある場合や、高潮注意報発表中の段階で暴風警報が発表され避難が困難になると予想される場合。 津波 : 津波の場合は即刻避難指示が推奨される。対象は猶予時間のある遠地津波などに限られる。 避難指示(緊急) 水害 : 川の水位が堤防を越えると見込まれる場合や、堤防の漏水や亀裂が発見されたり決壊・越流が既に発生した場合など。 土砂災害 : 基本的には土砂災害警戒情報の発表に伴い避難勧告を発表することを前提とし、避難指示はまだ避難していない人に対して強く呼びかける性質を持つ。土砂災害警戒情報の発表中において記録的短時間大雨情報が発表されるなど災害の危険性が更に高まった場合や、(土砂災害警戒情報の発表前に)土砂災害が発生した場合など。 高潮 : 堤防の倒壊や水門の故障が発見されたり越波・越流が既に発生した場合など。なお、基本的には台風の暴風域に入る前に避難勧告を発表することが前提であるため、この時点では屋内での安全確保や近距離にある頑丈で高い建物への避難に限定すべきとされる。 津波 : 津波注意報、津波警報、大津波警報が発表された場合、そのレベルと予想波高に応じて対象地域を拡大する。また、停電や通信支障により警報を受けられない状況下で強い揺れや1分程度以上の長い揺れを感じた場合。 災害対策基本法以外でも、以下の法律に規定がある。 原子力災害対策特別措置法は、原子力緊急事態宣言がなされるような原子力災害の際、内閣総理大臣が市町村長または都道府県知事に対して「避難勧告」あるいは「避難指示」を発表すべきことを指示することを規定している。 地すべり等防止法は、都道府県知事または職員が、地すべりの危険が切迫している地域の住民に対して「避難指示」を発表することを認めている。 常時設定されるという点で性質は異なるが、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)は、都道府県知事が、がけ崩れ、土石流、地すべりの危険性のある区域を「土砂災害警戒区域」あるいは「土砂災害特別警戒区域」に指定することとしている。実際には「がけ崩れ警戒区域」など土砂災害の種類を冠した名称で設定されている。 水防法は、都道府県知事または職員あるいは水防管理者が、洪水や高潮による氾濫の危険が切迫している地域の住民に対して「避難指示」を発表することを認めている。また、水防団長または水防団員あるいは消防職員が、水防上緊急の必要がある場所において「警戒区域」を設定することを認めている。 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)は、市町村長が、武力攻撃による生命の危険が発生しているあるいは発生しようとしている地域において「警戒区域」を設定することを認めている。 消防法は、消防職員又は消防団員が、火災の現場において「消防警戒区域」を設定することを認めている。
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