新生児についての証言
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/15 16:07 UTC 版)
イラク軍が爆弾や銃で民衆を襲撃しています。また、全ての病院施設に押し入り、新生児を連れ出しています。生命維持装置は切られています。抵抗したり、クウェート軍や警察と一緒にいる所が見つかれば、拷問を受けかねません。 —Evacuee's description as reported in St. Louis Post-Dispatch イラクによるクウェート侵攻及び占領以後、これに乗じた略奪行為が数多く報じられた。その最中の1990年9月2日、ハビエル・ペレス・デ・クエヤル国連事務総長宛に、モハンマド・A・アブハッサン同クウェート代表から、次のような一通の手紙が届けられた。 クウェートのイラク占領当局による国際法をことごとく踏みにじる行為や、クウェート政府を通じて我々に提供される確固たる情報を踏まえ、我々は史上類を見ない出来事、すなわちクウェートを荒らし、略奪するべく仕掛けられたイラク占領当局の作戦に注意を引くことを願います。この作戦は実際に家屋や工場、店舗や病院、学校や大学といった教育機関のみならず、国家や自治体、民間機関や個人の所有する財産を含む、クウェート国内の資産を完全に奪い去るものでしかない以上、似たような如何なる出来事と比較したり、正確に説明することは不可能です。クウェートで起こっている事は、その目的に向けた国家による強盗に他なりません。 手紙の中でアブ=ハッサンは、「レントゲン装置やスキャナーなど、公私を問わず病院からあらゆる設備が盗まれた」 とも述べている。なお、略奪行為については、避難民が「エアコンやコンピュータ、黒板や机の他、保育器や放射線装置までをも狙って、兵士が社屋や学校、病院に押し入った」 と再度語ることとなる。また、ダグラス・ハード英外務大臣も「人目に憚られる方法で略奪や破壊の限りを尽くしている」と総括。いずれにせよ保育器の略奪は、未熟児が放り出されたり、その結果死に至るものであったことから、メディアの注目を集めた。 同年9月5日、亡命中のアブドゥル・ワッハーブ・アル=フォーザンクウェート保健大臣は、サウジアラビアタイーフで開かれた記者会見にて「侵攻以後、イラク軍兵士が国内の全病院や医療機関を事実上掌握」、「患者を追い出し病院からハイテク機器や救急車、薬品や血漿を計画的に略奪した」ために22名の未熟児が命を落としたと発言した。ワシントンポストは新生児の話の起源について、次のように記している。 ロンドンでその手紙を受け取った建築家のフダ・バハーによると、先月末ヨーロッパ人外交官により密出国した公衆衛生省高官から寄せられた手紙に因るものであった。なお、その内容はクウェート人小児科医ファウジア・サイェーが亡命者などから収集した情報が追加されている。 その手紙はイラク軍兵士が複数の病院から患者を立ち退かせ、癌や透析、糖尿病の治療に必要不可欠な設備を接収したと主張。バハーやサイェーは、イラク軍兵士がアラブの金融機関によって20億ドルを越えると言われる現金や金、自動車や宝石の一部をバグダッドへ運び出したとも述べている。また、持ち出された設備の中には保育器22台もあったという。 ワシントンポストはイラクが域内の立ち入りを禁じ、外交官を強制的に隔離したとも報じた。 国連事務総長宛ての手紙はもう一つあり、アブハッサンはフォーザンの主張を次のように幾度も繰り返した。 我々は、クウェートの保健機関からの確たる情報源に基づき、イラク占領当局が人道に対する罪に値する惨たらしい犯罪を実行しているという事を知っています。産院から未熟児用の保育器が持ち出され、療育中の新生児は皆命を落としました。 手紙は新生児が何名死亡したか明らかにしていない ものの、翌日にはメディアがその内容を一斉に報じた。 また、「自由クウェートのための市民運動」総裁がガス・ヤトロン下院議員に対し、クウェートの惨状を文書で伝えた 他、ジャービル・アル=アフマド・アッ=サバーハクウェート首長とジョージ・H・W・ブッシュによる会談でも、イラク軍が保育器をイラクへ送った事が議題に上った。会談後のジャービルの回想によると、ブッシュは「イラク軍の攻撃により、嘗て平和かつ安全であった国が略奪に遭い、人々は拷問を受け、殺害さえされている」として、「イラクの指導者らは、アラブ連盟及び国際連合の加盟国で、国際的にも認知されている主権国家を、地図上から消し去ろうとしている」と発言したという。 その後、10月9日にブッシュが記者会見の中で次のように述べている。 (国家安全保障問題担当大統領補佐官の)ブレント・スコウクロフトが大層、首長に関して発言していました。私も首長が我々に伝えた話の中に、物理的な破壊のみならず、アムネスティ・インターナショナルによって裏付けられた事態に関心があります。透析患者から奪った機器をイラクに輸送し、新生児が放り出された保育器をバグダッドへ送るなど、信じられない事ばかりです。今や、こうした話がどれ程信憑性があるか分からないものの、首長は本心から話していたに違いありません。また、アムネスティ・インターナショナルによる報告も受けましたが、それは痛ましいものでした。
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