新生児の診察
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/04 06:45 UTC 版)
出生直後は直ちに暖かいタオルで羊水で濡れた身体を拭き、保温に努める。可能ならば第1呼吸開始前に鼻、口の順に吸引を行い。臍帯動脈拍動が停止する生後1分前後に臍帯を結紮する。娩出直後の児の状態をあらわす指標にアプガー指数というものがあり、生後1分、5分、および10分の値を記載する。 覚え方採点項目0点1点2点Appearance 皮膚の色 全身チアノーゼまたは蒼白 体幹は淡紅色、四肢はチアノーゼ 全身淡紅色 Pulse 心拍数 なし 100bpm未満 100bpm以上 Grimace 反射興奮性(足をはじく) なし 顔をしかめる 泣く Activity 筋緊張 ぐんにゃり 四肢をいくらか曲げている 四肢が十分に屈曲、または自発運動 Respiration 呼吸努力 なし 泣き声が弱い、呼吸が不規則で不十分 強い泣き声で呼吸が強い 5分後の点数の方が胎児の神経学的な予後を反映するといわれている。0~3点では重症仮死、4~7点は軽症仮死、8~10点は正常である。元気な新生児は出生直後から啼泣し、肌は赤みがかっている。陣痛発来前の子宮内環境が思わしくなかった児や、分娩中の低酸素状態により大きなストレスがかかった児は産声を上げず、肌は血の気がなく青白いことがある。状態によっては直ちに蘇生処置が必要となるということである。呼吸状態に関してはsilvermanスコアを用いた評価も行う。silvermanスコアは 点数0点1点2点胸と腹の運動 胸と腹が同時に上下する 吸気時に上胸部の上昇が遅れる 腹が上がると胸が下がる(シーソー呼吸) 肋間腔の陥没 陥没なし 軽度に陥没 著明に陥没 剣状突起部の陥没 陥没なし 軽度に陥没 著明に陥没 鼻翼呼吸(鼻孔拡大) 拡大なし 軽度に拡大 著明に拡大 呼気性呻吟 うめき声なし 聴診器で聞こえる 耳で聞こえる 2点以上で呼吸窮迫があると判定する。アプガー指数と逆で大きいほど重症である。続いて、結膜炎防止のためcred点眼や抗菌薬の点眼を行い、身体測定を行う。児の体温、心数、呼吸数が安定したら沐浴をさせる。沐浴は異常徴候や低出生体重児では禁忌となる。それらが済んだらカンガルーケアとして早期の母子接触を促していく。出生体重2000g以下であったり、異常徴候の見られる児は新生児特定集中治療室(NICU)の適応となる。逆にハイリスク児であっても異常がみられなければ正常新生児室で十分である。初回排尿、排便は通常24時間以内におこる。排便がみられなければ鎖肛の可能性がある。鎖肛は直腸温を測定するときに気がつくこともある。栄養は初回は5%ブドウ糖を与え、嘔吐、腹部膨満、無呼吸がなければ母乳を開始する。初回成熟児ならば1回に10mlを1日8回の投与を行う。一日授乳量は生後7日で100ml/Kg/day、生後14日で150ml/Kg/day位が望ましい。その他確認すべき項目では黄疸や先天性股関節脱臼、腹部腫瘤などである。生後1日、および退院前にビタミンKの投与を行い、退院前で抗菌薬を投与していない時にガスリー法を試行する。以下に新生児の一般的な診察項目と一般的な値を記す。 身長は約50cm,体重は3000~3200gである。体重は4日間は300g/day程度の生理的体重減少が認められるものの、生後10日で出生時の値前後に戻る。その後は30g/dayの割合で3か月まで上昇を続ける。胸囲は32cm,頭囲は33cmである。12ヶ月後に胸囲45cm,腹囲45cmとなりその後頭囲は胸囲を下回るようになる。大泉門は2×2cm程で1歳半ほどで閉鎖する。血圧は80/45mmHgほどで呼吸数は40~50回/min程度、脈拍数は140~150bpm程度である。肝臓は2~3cm触れることが多い。手掌把握反射、吸引反射、モロ反射、足底握り反射、バビンスキー反射が認められる。手掌把握反射、吸引反射、モロ反射は手が器用になる頃、即ち4か月頃に消失する。足底握り反射は立つ頃、即ち10か月頃に消失する。 ハイリスク新生児出生体重が2500g未満の児を低出生体重児という。低出生体重児のうち1500g未満のものを極低出生体重児、1000g未満の場合は超低出生体重児という。超低出生体重児であってもNICUなどで適切な管理を行えば、生存率は80%以上であり、重篤な後遺症である脳性麻痺などの発生率は10%程度である。在胎日数と出生体重の関係から次のような言葉もある。出生体重が在胎日数に相当する場合をAFD児という。在胎日数に対して小さい場合、体重と身長、頭囲ともに小さい場合をSFD児、体重のみが小さい場合はLFD児という。SFD児、LFD児は体質的に小さい場合とIUGRによるものの場合がある。IUGRでSFDの場合(対称性SFD)は染色体異常、奇形、TORCH感染症の可能性があり予後は極めて悪い。IUGRでLFD児の場合は新生児期に合併症はおこるが適切に管理を行えば予後は悪くないとされている。逆に体重4000g以上の時を巨大児といい、在胎日数に対して体重が大きい場合をHFD児という。母体糖尿病などでおこる。経腟分娩困難となることはある。なお母体糖尿病で血管障害を伴うとSFD児は発生しやすい。
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