改正刑事訴訟法施行までの経緯
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「公訴時効」の記事における「改正刑事訴訟法施行までの経緯」の解説
2009年2月、世田谷一家殺害事件の遺族らが中心となり、時効の停止・廃止に向けて活動する「殺人事件被害者遺族の会」(通称:宙の会)が結成された。また、「全国犯罪被害者の会」(通称:あすの会)も殺人など重大事件における時効廃止を求める決議を行うなど、時効制度の見直しを求める遺族の声は高まってきていた。 遺族らは時効制度の存在理由とされている主に以下の点を問題にしている。 「時の経過とともに遺族の被害者感情が薄れる」とされるが、実際には悲しみや苦しみは一生残り続ける。 「時の経過とともに証拠物が散逸する(長期間の保存ができない)」とされるが、近年、DNA鑑定などの捜査技術が大幅に進歩し、犯人のDNAが特定されている事件では、時間の経過に関係なく犯人を特定する証拠物とでき、「冤罪の問題」についてもDNA鑑定により他人を犯人と誤る確率は極めて小さい。 またこれらとは別に、未解決事件の被害者遺族らは犯罪被害者等基本法や刑事裁判の被害者参加制度、被告人への損害賠償命令制度などの恩恵を受けることができない(これらの法令は犯人が起訴された事件の被害者に対する支援を念頭に置いたものであるため)。 これらの意識の高まりなどから、法務省は勉強会を開き、2009年3月31日に「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について~当面の検討結果の取りまとめ~」を作成、5月12日から6月11日までパブリックコメントを行い、7月17日にパブリックコメントの結果 と、最終報告書 を公表している。最終報告書では、「公訴時効の撤廃に賛成する意見」と「公訴時効の撤廃に反対する意見」の両論が記されており、時効見直しの根拠として「厳格な処罰を求める『国民の意識』」も随所で強調されている。DNA型鑑定については、慎重な意見が記載されている。 法務省は、2009年11月16日から法制審議会刑事法部会で公訴時効関係について審議している。部会でこれまでに議論された選択肢は以下の通りである。 廃止案:殺人や強盗殺人について時効は廃止。 延長案:殺人や強盗殺人について時効となる期間を現行の25年から50年などに延長。 廃止+延長案殺人や強盗殺人は廃止し、強姦致死は30年、傷害致死は20年などに延長。 殺人や強盗殺人は廃止し、強姦致死は25年、傷害致死は15年などに延長。 停止案犯人の可能性がある人のDNA型などを特定できる場合は、「名前」ではなく「DNA型」を被告人とみなして起訴することにより時効を停止する。 「合理的な疑いを超えて」真犯人のものと認定できるDNA型などの証拠がある場合、検察官の請求を受けて裁判官が時効を停止するかどうか判断。 また12月22日、再び公訴時効の在り方等についての意見募集を開始した。内容は、同年5月12日の意見募集とほぼ同じである。意見募集は2010年1月17日に締め切られ、集まった意見 が2010年1月20日に法制審で公表された。そして同年1月28日の法制審で、人を死亡させた罪の公訴時効について見直すとした「要綱骨子案」が提示され、結果的には勉強会の報告と方向性が同じものとなった。以下骨子案の要旨である。 公訴時効の廃止延長案人を死亡させた罪のうち、最高刑が死刑のものの公訴時効は、廃止する。 最高刑が無期懲役、無期禁錮のものの公訴時効は、30年に延長する。 最高刑が20年の懲役、禁錮のものの公訴時効は、20年に延長する。 最高刑が20年未満の懲役、禁錮のものの公訴時効は、10年に延長する。 公訴時効の廃止延長の対象とする事件は、改正法の施行後に発生したものだけでなく、施行前に発生し、時効未完成の事件を含める。ただし施行前に時効が完成した事件は対象にならない。 刑の時効の廃止延長案有罪判決を受けた者について死刑については刑の時効を廃止する。 無期懲役、無期禁錮については、刑の時効を30年にする。 10年以上の懲役、禁錮については、刑の時効を20年にする。 刑の時効の廃止延長は、法の施行以降に刑が確定したもののみを対象とする。 法務省は部会の議論を受け、法制審の答申を受けた上で第174通常国会に政府として刑事訴訟法改正案を提出。4月27日に改正法(刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成22年法律第26号))が可決成立し、即日施行された。
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