戦局の行き詰まり・東條首相罵倒事件・求心力の低下
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「東條英機」の記事における「戦局の行き詰まり・東條首相罵倒事件・求心力の低下」の解説
緒戦の日本軍の快進撃も、日本軍が予想を上回るスピードで勝ち進んだ結果、占領地域が東南アジア一帯に伸びたばかりか、戦線が国力を超えるアメリカ本土沿岸からアフリカ沿岸、オーストラリアにまで伸びたことや、ミッドウェイ海戦の敗北によりその勢いは陰りを見せ始める。さらに1943年に入るとヨーロッパ、アフリカ戦線ではドイツ国防軍が完全に劣勢に回り、さらにイタリア王国が連合国に対して降伏するなど、やがて大戦末期には日本は1国でイギリスやアメリカ、オーストラリアやニュージーランドをはじめとする複数の連合国に対峙することを余儀なくされた。 参謀本部は戦局を打開するため、オーストラリアを孤立化させる目的のFS作戦等を考案し、ガダルカナル島を確保するべく海軍はこの付近に大兵力を投入する作戦に出た。陸軍にも応援を要請しておこなわれた過去3度にわたる島争奪作戦はいずれも失敗する。多くの海戦がおこなわれ、第一次ソロモン海戦や南太平洋海戦などでは日本側はアメリカ軍やオーストラリア軍の多くの軍艦を撃沈撃破した。しかし日本側の損害も少なくなく、とくに日本側の陸軍輸送船団はガダルカナル到着以前にその多くが撃沈され、輸送作戦のほとんどが失敗に終わった。このためガダルカナル方面の日本軍地上部隊は極度の食糧不足と弾薬不足に陥り、作戦どころの話ではなくなってしまった。しかし参謀本部は海軍と連携してさらなる大兵力をガダルカナルへ送り込もうと計画する。参謀本部は民間輸送船を大幅に割くことを政府に要求するが東條はそれを拒否する。元々東條はガダルカナル方面の作戦には補給の不安などから反対であった。過去に投入した輸送船団は援護が少ないこともあり輸送作戦の成功の可能性は少なく、また参謀本部の要求を通すと国内の軍事生産や国民生活が維持できなくなるためである。 東條の反対に怒った参謀本部作戦部長・田中新一は閣議待合室で12月5日、東條の見解を主張する陸軍軍務局長・佐藤賢了と討論の末とうとう殴り合いになった。さらに田中は翌日、首相官邸に直談判に出向いて激論を展開、東條ら政府側に向かって「馬鹿野郎」と暴言を吐いた。東條は冷静に「何をいいますか。統帥の根本は服従にある。しかるにその根源たる統帥部の重責にある者として、自己の職責に忠実なことは結構だが、もう少し慎まねば」と穏やかに諭した。これを受け参謀本部は田中に辞表を書かせ南方軍司令部に転属させたが、代わりにガダルカナル方面作戦の予算・増船を政府側に認めさせた。しかしガダルカナル作戦はさらに行き詰まり、1943年(昭和18年)2月にはガ島撤退が確定する。 その後も日本軍は海戦においてアメリカ軍やイギリス軍、オーストラリア軍に勝利を重ね、さらにオーストラリアへの空襲を続けるなど各地で連合国軍に対して優勢に戦いを進めたものの、ニューギニア方面に陸軍の輸送船団が送られたがその多くが連合国軍に撃沈され、南方方面の日本軍はこの年の末には各地で補給不足に陥ることになった。また緒戦の敗北で多くの船舶や航空機を失ったアメリカは、これを補うための軍事生産力の大拡充計画をスタートさせ、同年の中頃にはこの結果が出てくることになった。これにアジア太平洋地域に展開していたイギリスやオーストラリア、ニュージーランドや中華民国の軍事力を合わせると日本と連合国軍の軍事力に明らかな開きが現れ始めた。 1943年(昭和18年)と1944年(昭和19年)を通して日本が鉄鋼材生産628万トン、航空機生産44,873機、新規就役空母が正規空母5隻・軽空母(護衛空母)4隻だったのに対し、アメリカは鉄鋼生産1億6,800万トン、航空機生産182,216機、新規就役空母は正規空母14隻、軽空母65隻に達した。加えてレンドリースによって他の連合国にも大量の兵器・物資を供給していた。また技術面でもF6Fやヨーロッパ戦線で活躍していたP47が登場し、1944年に入るとイギリス製のエンジンを搭載したP51などの新戦闘機がアメリカ側に登場、また戦前に軽視していた電子戦分野でその差は顕著に現れ、レーダー、ソナー、VT信管などの開発においてもイギリスやアメリカが格段に優位をみせていく。これらの状況を受け、開戦から2年間を経た1944年に入ると、各地での日本軍と連合国軍の攻勢は完全に逆転することになる。 このように、日本軍が各方面で次第に押され始めた1943年8月頃から、東條の戦争指導力を疑問視する見解が各方面に強くなり始め、後述の中野正剛らによる内閣倒閣運動なども起きたが、東條は憲兵隊の力でもってこれら反対運動を押さえつけた(中野正剛事件)。
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