成仏
★1.この世から離れられず、さまよっている幽霊を救い、苦しみのない世界へ送る。
『雨月物語』巻之5「青頭巾」 山寺の僧が、人肉を喰らう境涯に陥る。旅の快庵禅師が、僧を教化(きょうげ)すべく石上に坐らせ、「江月照らし松風吹く、永夜清宵何の所為ぞ」の句を与えて去る。1年後、再び禅師が山寺を訪れると、影のごときものが坐して「江月照らし・・・・」の句を唱えていた。禅師が一喝して杖で打つと影は消え、かぶっていた青頭巾と骨が残った。僧の悪念が、ようやく尽きたのであった。
雲州皿屋敷の伝説 松江の藩士が、南京の皿10枚を秘蔵していた。腹黒い妻が1枚を割って井戸へ捨て、下女に罪をなすりつける。下女は井戸端で首を吊り、毎夜、幽霊となって井戸端へ現れる。「1つ、2つ、・・・・」と9つまで皿を数え、「10(とお)」と言えずにワッと泣く。ある武士が「亡魂を散じてやろう」と付近に隠れ、幽霊が「9つ」と言うや、すかさず「10」と続けた。幽霊はパッと消え、その後は出なくなった(島根県松江市)。
*播州皿屋敷(*→〔虫〕2bのお菊虫の伝説)や、番町皿屋敷(*→〔宝〕3a)が、よく知られている。『番町皿屋敷』(講談)第13席では、小石川伝通院の了誉上人が、お菊の「9つ」に「10(とお)」と続け、ただちに十念(=南無阿弥陀仏を10回唱えること)を授けて成仏させる。
『カンタヴィルの幽霊』(ワイルド) イギリスの幽霊屋敷に3百年住む幽霊が、屋敷を買い取ったアメリカ人一家の前に繰り返しあらわれる。ところがアメリカ人一家はまったくこわがらず、かえって幽霊をからかう(*→〔血〕8)。老いた幽霊は疲れ果て、「死の園で眠りたい」と願う。アメリカ人一家の心優しい娘ヴァージニアが幽霊のために祈り、成仏させる。
『霊を鎮める』(イギリスの民話) 農家の老夫婦が、長年の後に再会した息子をそれと気づかぬまま殺し(*→〔宿〕6)、家の裏手に埋めた。老夫婦の死後、その家を借りた人は皆、夜になると奇妙な物音に悩まされ、家は空き家になった。箒売りの老婆が「霊を鎮めよう」と言い、殺された息子の霊を呼び出す。亡霊は「私の骨を拾い集め、聖なる墓地に埋めてくれれば、もうここには現れない」と言う。老婆は亡霊の願いを叶え、以後、家は静かになった。
*死後、蝿に生まれ変わった女が、蝿の身を捨てて成仏する→〔蝿〕1の『蠅のはなし』(小泉八雲『骨董』)。
『仏説盂蘭盆経』 目連の亡母は、餓鬼道に堕ちて苦しんでいた(*→〔冥界行〕4)。仏は目連に、「7月15日に、飲食物その他さまざまなものを盆に載せて、諸方の僧たちを供養すれば、7世代々の亡父母は三途(=地獄・餓鬼・畜生)の苦を逃れ、天に生まれ変わるだろう。現世の父母は百年の寿命を得るであろう」と教えた。目連は歓喜し、亡母はその日のうちに、餓鬼道の苦を脱することができた。
『古今著聞集』巻13「哀傷」第21・通巻458話 白河院は、生前の善と罪が等しくあったので、崩御後、六道の中のどの境涯へ生まれ変わるのか、まだ決まっていない〔*これは、藤原重隆が死後に冥官となり、ある人の夢に現れて告げたことである〕。
*成仏して高級霊界へ行くべきところ、妄念を起こして再び人間界に生まれる→〔転生と天皇〕1の『増鏡』第4「三神山」。
『酉陽雑俎』続集巻3-942 ある女が病死して棺に納められたが、身寄りがないためそのまま放置され、埋葬されずに何年も経過した。死者は肌骨(からだ)が土に戻らないうちは、魂神(たましい)が冥府の役所に登録されない。ふわふわと拡散し、恍惚として、夢のような酔ったようなありさまである。女の霊は、近くを通った人の夢にあらわれてこのことを訴え、埋葬してもらい、ようやく落ちつくことができた。
★4.人間や動物(=有情)のみならず、草木(=非情)も成仏できる。
『芭蕉』(能) 唐土(もろこし)・楚国の傍らの山に庵を結ぶ僧のもとへ、1人の女が訪れ、「女人非情草木成仏を説く『法華経』を聴聞したい」と請う。実は女は、非情の草木である芭蕉(*→〔雨〕6)の化身だった。女は「非情の草木も、草木そのままで成仏している」と語りつつ舞い、やがて姿を消した〔*僧が芭蕉を成仏させるのではなく、芭蕉自ら「非情の草木がすなわち真如の顕現だ」と言うのである〕。
*「青人草」「人草」という言葉もあるので(*→〔草〕5aの『古事記』上巻)、有情・非情という区別をする必要はない、ともいえる。
成仏と同じ種類の言葉
品詞の分類
名詞およびサ変動詞(信仰) | 神化 神格化 成仏 成道 悟入 |
名詞およびサ変動詞(死没) | 即死 殊死 成仏 入滅 情死 |
Weblioに収録されているすべての辞書から成仏を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から成仏を検索
- >> 「成仏」を含む用語の索引
- 成仏のページへのリンク