幼児と落書き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 05:51 UTC 版)
ある程度自発性が育ってきた幼児は、その程度にも個人差があるが、筆記具と紙さえ与えておけば落書き(もう少し丁寧に「お絵かき」と呼ぶ場合もある)に熱中する傾向がみられる。ことによると興にのって壁や床などにまで落書きしてしまうことも珍しいことではない。 これら幼児の落書きは、共通して幾つかの段階を経ていく傾向が見られ、幼児自身の発育過程を把握する上で、興味深い資料となる。また情緒的な水準ないし機嫌のようなものや、性格にもよって描かれる絵にも傾向が発生する。 1-2歳程度の初期の段階では、子供は「何かを書く」という行為そのものに関心を抱く。専ら紙の上に筆記具(クレヨンや鉛筆など)に「腕の左右の往復」という形で緩い弧を描く線をひたすら書く。仕舞いには紙が破れるまで線を幾重にも重ねて書く。 線をひたすら描く時期が過ぎると、幼児は円を描き始める。最初の内こそグルグルと何重にも重なった歪な円を描く。3歳頃までには、幾つかの簡単な図形を描くことが出来るようになる。これらの段階では、描くという行為そのものを通して表現する傾向にあり、例えば自動車に乗った体験では何本もの線を重ねて描いて「早く移動した」ことを示そうとし、新幹線に乗ったら更に多くの線を重ねてスピードの激しさをしめそうとするのである。したがって、描かれた絵そのものにはなんら意味は無く、描く過程を観察するか当人が説明しなければ、それが何を描いたのかは他人にはわからない。これは落書きされた絵(映像)そのものには意味が無い、筆記用具を使った遊びの一種である。 しかし次第に描くという行為と表現する欲求を結び付け始め、これら円はやがて人の顔や物の輪郭として利用されるようになる。多くの場合に最初の物は、身近な人間である母親の顔などとする、円に目・鼻・口をあらわす線や丸を書き込んだ物を描くケースが多い。進歩すると母親と父親・祖父母といった書き分けを始めるようになる。ただし最初期の人物画を描き始める3歳後半頃までは、俗に「頭足人」と表現される、頭に直接手足が生えたM&M'sのイメージキャラクターのような感じのものを「人間」として描く傾向にあり、これは子供が認識する人間(ヒト)のイメージが、顔と手足に集約されているものと解される。しかし次第に「人間としてのディティール」に胴体や首などの他の部位があることを意識するようになって、大人の認識する人間の姿により近くなっていく。 この段階に至ると、急速に認識力が進歩し、両親の顔の違い・近所の人の顔の違いを明確に意識し始める様子が窺え、4-5歳頃には絵の方も丸や四角・三角を組み合わせた物へと進歩を始め、自動車や飛行機・家や木や花といった様々な物に関心を向け図形の組み合わせでそれらを表すようになる。例えば、横に平たい楕円を二つ並べて足を生やし動物に見立てたり、三角形の下に四角を描いて家に見立てたりといった具合である。また最初の頃には、そういった様々な物品をカタログのように並べて描いていたものが、5歳頃には社会性の発達や行動半径の拡大により、多様な人・物・動物・植物を描くと共に、明確な嗜好によって絵にテーマが生まれるようになる様子が見られる。この段階にもなると、性格にも性差が出てくるようになり、いわゆる「男の子らしい絵」や「女の子らしい絵」などの傾向も発生、男児なら乗物やヒーロー番組の登場人物など、女児なら花やお姫様などといったような、記号化されたイメージが繰り返し描かれるようになっていく。 なおこういった絵の傾向には個人差があるほか、当人の実生活における経験が反映される傾向にあり、読み聞かせてもらった物語や絵本、あるいは様々な生活体験、コミュニケーションの内容などが絵に影響する。ただ、それらの影響も一枚の絵で軽々しく判断できるものではない。 参考書籍『育児としつけの百科 -幼児期・学童期の育て方-』(ISBN 4093030170・小学館)
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