巨大隕石落下の証拠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/08/18 04:06 UTC 版)
「チクシュルーブ・クレーター」も参照 アルバレス論文では、イタリアとデンマークのイリジウムに富む薄い粘土層が分析されたが、論文発表の直前にニュージーランドのK-T境界層でもイリジウムの濃集が確認された。引き続き同様のイリジウム濃集層がスペイン・アメリカ各地・中部太平洋・南大西洋の海成堆積岩層のK-T境界に相当する部分や地上で堆積したK-T境界の泥岩層から確認された。これらの特徴的なK-T境界層の厚さは、ヨーロッパでは約1cmであったが、北アメリカのカリブ海周辺やメキシコ湾岸では厚さが1mを超える上、構造や成分の異なる2層が観察され、衝突の結果形成されたクレーターが付近に存在すると考えられた。 北アメリカのK-T境界の粘土層中には、高熱で地表の岩石が融解して飛び散ったことを示すガラス質の岩石テクタイトとそれが風化してできたスフェルール、高温高圧下で変成した衝撃石英も発見されており、これらはすべて、隕石衝突時の衝撃により形成されたと考えられている。 1980年の論文では、全世界にまき散らされたイリジウムの量やK-T境界層の厚さを元に落下した隕石の大きさを計算し 直径10プラスマイナス4km程度と算出した。しかし、落下したことの最も確実な証拠であるクレーターは当時発見されなかった。調査が進むにつれて、K-T境界層の厚さから北アメリカ近辺に落下したらしいという点と、カリブ海周辺およびメキシコ湾周辺のK-T境界層で津波による堆積物が多く見つかることから、落下地点はこの近くにあると推定されるようになった。 1991年、巨大隕石による衝突クレーターと見なされる「ユカタン半島北部に存在する直径約170kmの円形の磁気異常と重力異常構造」がヒルデブランドらによって発見された 。この環状構造は石油開発関連の調査から導かれたもので、一部の関係者は把握していたが 1991年まで広く知られることはなかった。1975年には「古い火山中央部と見られる環状構造」、1981年には「噴出物を伴う衝撃孔」と報告されていたが、K-T境界と関連付けた報告ではなく大きな注目を受けなかった。これらの報告に使われたデータは「メキシコ石油開発公団」(ペメックス)が石油探査のために行った調査によるものであった。ヒルデブランドらがペメックスが採取していたボーリングサンプルを再調査したところ、クレーターの形成年代がK-T境界と一致すること、含まれる岩石成分が周囲に飛び散ったテクタイトと一致することが判明し、「K-T境界で落下した巨大隕石によるクレーター」であると確認した。 確認されたクレーターは現在のメキシコユカタン半島の北西端チクシュルーブで、直径約200km・深さ15 - 25kmのチクシュルーブ・クレーターと見積もられた(写真参照)(クレーターの直径についてはその後1995年に直径約300kmという説も発表されたが、現地での地震探査の結果2009年の時点では「直径200km」が妥当とされている)。また、隕石落下地点は当時石灰岩層を有する浅海域だったと推定され、隕石落下により高さ300mに達する巨大な津波が北アメリカ大陸の沿岸に押し寄せたと推定される。 火山説については 1999年にフランスの地質学者クロード・アレグレールらが、白亜紀末に該当するデカン洪水溶岩の年代について「6660万年前、誤差プラスマイナス30万年」と推定した。この年代値はイリジウムの濃集した堆積層よりも明らかに古く、隕石衝突に先行して噴火が起こったとしている。また火山由来のイリジウムの場合は同時にニッケルとクロムの濃度増加を伴うが、K-T境界層からはイリジウム以外の元素の濃集は確認されていない。 2010年、ピーター・シュルツ博士をリーダーとする12ヶ国の地質学・古生物学・地球物理学・惑星科学などの専門家40数人からなるチームは、K-Pg境界堆積物から得られた様々なデータ(層序学、微古生物学、岩石学、地球化学)を元に、衝突説及び火山説についてその妥当性を検討し、チクシュルーブ・クレーターを形成した隕石の衝突が、K-Pg境界における大量絶滅の主要因であると結論づける論文をサイエンス誌に発表した 。 2014年3月、千葉工大がこの時期の生物大量絶滅は、隕石衝突による酸性雨と海洋酸性化が原因であるという論文を発表した。これまでに提案されている絶滅機構の仮説では、地質記録に残る海洋生物の絶滅を説明することは非常に困難で、最大の未解決問題として残っていたが、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高出力レーザー激光XII号を使って、宇宙速度での衝突蒸発・ガス分析実験に成功。実験結果から、先行研究で想定されていた二酸化硫黄(亜硫酸ガス)ではなく、硫酸になりやすい三酸化硫黄(発煙硫酸)が隕石衝突で放出されることがわかった。さらに理論計算を行ったところ、衝突で放出された三酸化硫黄は数日以内に酸性雨となって全地球的に降ることと、その結果起こる深刻な海洋酸性化が明らかになった 。 地球惑星科学を専門とするポール・レニー(英語版)教授らが2015年10月に発表した研究成果によれば、精密な年代測定方法によって衝突時期が約6604万年前(誤差は前後3万年)だったと特定されたという。
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