少年法61条と実名報道
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/06 07:05 UTC 版)
現在日本で実名報道を制限している法令としては少年法がある。少年法61条において、一定の場合には本人を特定できる情報を新聞紙や出版物に記載することが禁じられている。この趣旨としては、社会的偏見を生み更生の阻害要因となる可能性があることや、とりわけ傷つきやすく将来のある少年を保護すること、少年はしばしば事件を模倣してしまうため実名の公表は少年を「悪い意味でのヒーロー」にする恐れがあること等が挙げられている。 家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。 — 少年法第61条 これは、少年の名誉・プライバシーを保護することによって、健全な育成をすすめる目的で定められている。この条文で直接に成長発達権を保障するものと考える意見も多いが、努力義務規定であり、違反しても、刑事・民事および行政処分などが課せられないため、一部の週刊誌などでは実名が掲載されることが多々ある。もっとも、少年法61条に違反する報道が名誉毀損として刑事・民事上の責任を問われることはありうる。 少年法が禁止しているのは、あくまでも家庭裁判所の審判に付された少年、または少年のとき犯した罪により公訴を提起された者に対してであり、逮捕者や指名手配者は含まれない。したがって逮捕された段階で少年の氏名などを報道しないのは、マスコミによる表現の自主規制によるものである。 また、「本人であることを推知することができる」というのは「不特定多数の一般人にとって推知可能なこと」をさし、「事件関係者や近隣住民にとって推知可能なことをさすものではない」という判例が存在する。同様の概念は、少年司法の運用のための国際連合最低基準規則(北京規則)、および、子どもの権利条約にもみることができる。 こうした規定は国民の知る権利や表現の自由(報道の自由)にも関係するため、基本的人権の間で相互の調整が重要となる。一般論としては、どちらも憲法上保障された重要な権利であり、どちらか一方が絶対的に優先すると断言することはできない。 1998年に起きた堺市通り魔事件をめぐって、月刊誌『新潮45』に実名報道された加害者男性を報道した新潮社に対して、損害賠償と謝罪広告を求める訴えを起こしたが、2000年に大阪高等裁判所において、新潮社側が勝訴し、原告が上告しなかったことから、確定判決となった。 ただし、事件の重大性を鑑みて実名報道された浅沼稲次郎暗殺事件や永山則夫連続射殺事件(犯人の永山則夫は後に獄中から著書を実名出版している)など例外も存在する。また、2011年3月10日の大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件最高裁判決で犯行当時少年3人の死刑判決が確定して以降、『毎日新聞』を除く全国紙及びテレビ局は同事件及び後に死刑が確定した光市母子殺害事件・石巻3人殺傷事件の少年死刑囚について実名報道を行っている。また、2018年4月12日に滋賀県彦根市の交番で発生した警察官射殺事件では被疑者の19歳の巡査が拳銃を所持して逃走したことから市民の安全などを考慮し身柄を確保されるまで実名報道を行っていた。 民法改正で成人年齢が18歳になるのに伴い、2021年5月21日(第204回国会)に成立した改正少年法では、18歳、19歳を「特定少年」とし、起訴後に実名報道が解禁されることとなった(2022年4月1日施行)。起訴する検察側として実名報道を検討すべき事案として「犯罪が重大で、地域社会に与える影響も深刻であるような事案」として裁判員裁判対象事件を例示として挙げ、裁判員裁判対象事件以外でも「公表を求める社会の要請が高く、被告の健全育成・更生に与える影響が比較的小さい場合」も含めることを方針として示した。なお、検察が正式起訴された特定少年の実名を公表しなくても、報道機関が独自に取材をして正式起訴された特定少年の実名を報道することを妨げるものではない。
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